空木 (2) side:悠
昼休みが終わるのに梨桜ちゃんは部屋から出てこなかった。
「様子を見てきた方がいいかな」
「今、中に入ったら寛貴に何されるか分からないぜ?」
心配そうに言う笠原に拓弥さんが笑いながら言うと笠原は固まってしまった。
「梨桜ちゃんなら大丈夫だろ。それより、群がってた奴等をどうするんだよ」
「さぁな…寛貴がなんとかするんじゃねぇの?」
投げやりな拓弥さんを睨むと「大丈夫だろ」と言いながら目を閉じてしまった。
彼女の素顔が明らかになったら、絶対に男達の態度が変わって梨桜ちゃんに近付こうとするだろう。
昼休みになった時の廊下は凄かった。
梨桜ちゃん見たさに1年はもちろん、上級生まで集まっていて、彼女を見た奴等の表情は皆同じだった。
寛貴さんだけで抑えきることができるんだろうか…
そんな事を考えながら生徒会室を出ると男達が集まっていた。
普段は用が無ければ人が来る事が無い場所なのに、こんなところにまで…マジかよ?
「出て来ねぇじゃんか」
「朱雀と青龍にいい顔してる女だろ?そんなの、可愛くてもサイテーだろ」
誰かが発した言葉にカッとなった時、鈍い音がした。
うめき声が聞こえて振り返ると、寛貴さんが上級生の胸ぐらを掴み壁に叩きつけ、ギリギリとその手で男を締め上げていた。
「…梨桜が、何だって?」
「寛貴、程々にしとけよ?」
拓弥さんが笑いを含みながら言うと、彼女を貶めるような発言をした上級生は寛貴さんに睨まれ、締め上げられて竦みあがっていた。
「答えろよ、誰がサイテーなんだ?」
口元に笑みを浮かべて男を締め上げている寛貴さん。学校でこんな表情を見せるのは珍しい。
周囲にいる生徒達は無言でその場に立ち尽していて、それに苦笑しながら拓弥さんは寛貴さんの腕に手をかけた。
「寛貴、もういいだろ」
スッと寛貴さんが手を離すと上級生は床に座り込み咳き込んでいた。
「梨桜ちゃんが美少女だって知って、ここまで見に来ているお前達って何なんだよ?そっちの方がサイテーなんじゃねぇの?」
拓弥さんは立ち尽している生徒の前で笑みを浮かべた。
「梨桜ちゃんは、どんな時でも、誰にでも平等に優しいんだから。外見だけで騒ぐあんた達とは違うんだから」
ポツリと笠原が呟き、オレはその頭を撫でてやった。
いい事言うじゃん、おまえ。
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