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第83話 空翔ける海老男、地に龍を縫う

――焦土。


 その一帯は、まるで天災が直撃したかのような地獄絵図だった。


「あれが……ドラゴンの、力……」


 ロッシュが震える声で呟く。全身の力が抜けたのか、その場にへたり込みそうになるのを、なんとか踏みとどまっていた。


 マイラは無言で、その景色を睨みつけていた。


「ゼリオス」


 唇を噛みしめ、彼女は問う。


「今の……どう思う?」


「さすが、蒼翼竜サンダイルといったところだな。あれなら、海老男もライゼも消し炭だろう」


「違う!」


 瞬間、声が跳ねた。怒鳴るつもりなどなかったが、喉が勝手に叫んでいた。


 なぜ、誰も気づかない?


「見なさい」


 マイラに促され、魔法が直撃した場所を見ると、煙が晴れ、ロブ達が平然と直立しているのが見えた。


 海老男たちの周りを光の結界が包んでいる。


「な、あれほどの攻撃を人間の魔法で防いだだと?」


 ゼリオスの驚愕が空気を震わせる。


「……ドラゴンの熱線を、完全に遮断したのよ。しかも、魔導具も触媒も使わずに。あんな防護結界、魔導公会の魔法体系には存在しない」


 独り言のように呟き、それを拾ったロッシュが弱々しく返す。


「魔族なら……使えるんじゃ……?」


「じゃあ、なんで人間が使えんのよッ!?」


 びし、と指を突きつけた勢いのまま、ロッシュを睨みつける。

 魔族と人間では、術式の構造からして違う。魔力の質も量も、桁が違う。

 たとえ知識を持っていたとしても、使いこなすまでにどれだけの年月が必要か。


「理論の解析にも、実地の習得にも、時間がかかりすぎるのよ……!」


 マイラの歯噛みに、ゼリオスは落ち着いた声で告げた。


「海老男は、二百年前の対魔族戦争に参加していたという記録がある。セレニア・フィンブレイズとともに、な」


「あの伝説級の冒険者とパーティーを組んでいたのは知ってるわよ。だけど……今の魔法は《翠耀の魔刃》セレニアだって使えるか怪しい超高等術式よ?二、三百年生きた程度で使えるわけが………」


「それこそ、神話の時代から生きてるなんて噂もある。太陽神ヘリオスの時代――二千年前の話か」


 ゼリオスは淡々と続ける。まるで過去の講義を反芻する教授のように。


「確かに、魔族もエルフもそこまで長生きはできない。だが、ドラゴンは別だ。そして――海老男も、例外なのかもしれん」


 マイラはぐっと口を閉ざした。


 確かに、太陽神ヘリオスの時代は魔法が今より数倍発達していたと言われている。


 一般には精霊の奇跡と称される魔石さえ人の手により作られたものだと言うことは公会の上級魔導士以上の人間なら知っている事実だ。


 ロブがそれほどまでの歴史を生きていたとしたら―――。


 海老男―――ロブが何百年生きているのか、奴が何者なのかも知るすべはない。


 だが、あの男が魔導公会が管理していない魔法を使った事実は動かない。


 あの光を――竜の滅びの閃光を、海老男は防いだ。完璧に。魔導具も触媒も使わずに。


 ……一体、どうやって?


「……問題ない」


「は?」


 呟くゼリオスに、マイラは眉をひそめた。


「なにが“問題ない”ってのよ」


「俺たちには、神話の時代から封印されていた兵器がある」


 冷たい声だった。どこまでも静かで、どこまでも確信に満ちていた。


「ドラゴンも、魔王も、そして海老男も――まとめて一網打尽にできる」


 マイラの視線が、思わずロブたちの方へと向く。

 その目には、もはや嘲笑も軽蔑もなかった。


 あるのはただ、一つの問い。


――あなたは、本当に何者なの?





 空気が軋んだ。


 熱ではない。音でもない。理屈を超えた何かが、空間そのものをひずませた。


 ロブは一歩、前へと踏み出す。

 その眼は蒼穹の彼方――蒼翼竜サンダイルを捉えていた。


 地鳴りと共に、魔法陣が地を走る。

 光がうねり、構築されていく式は、見る者の理解を置き去りにして展開された。


 ロブの身体がふわりと宙を浮く。


「ちょ、ちょっと待ってロブさん!? なに、これ――」


 風も、羽も、魔具すら使っていない。


「……え、空、飛んでるんだけど?」


 ぽかんとした顔のまま、リリアが指さした。口は半開き、目は丸くなっている。


「詠唱もなし、構文もなし、道具もなし……! おかしいってレベルじゃないわよ、これ……!」


 フィリアが呆れた絶叫を放つ。


「相変わらず無茶苦茶ね。魔族だって空飛べるやつはそういないってのに」


 ライゼの諦めのような呟き。


 仲間の声を背に、ロブは無言で上昇を続ける。


 漆黒のマントが風を裂き、男が、龍のもとへと向かう。


 空と空が交わる一点に、男と竜が向かい合った。


 翼を広げる巨影と、ただ一人、地を捨てた男。


 誰が見ても分かる。

 この二者は、天秤にかけられる存在ではない。


 最強のドラゴンに敵うものはドラゴンのみ。


 それは常識だった。

 人などその一吹きで吹き飛んでしまうほどに力のさは歴然。


 ――けれど、ロブは揺るがない。


 蒼竜と視線が交錯した一瞬、彼は小さく、つぶやいた。


「……目が、死んでるな」


 その声に、意味はなかった。聞かせるつもりもなかった。

 だが、その一言が、すべてを言い当てていた。


 竜の瞳に、輝きはなかった。


 生物としての意志も、怒りも、誇りすらも。


 ただ、命じられたまま動く、兵器のような冷たさ。


「……操られている。か?」


 ロブがそう呟いた直後――


 地上では、集音魔法でロブの声を聞いていたマイラが眉を寄せていた。


「まさか、ドラゴンを操作……? そんな魔法、ありえない……!」


 ゼリオスが口を開く。あくまで冷静な口調だった。


「もし仮にあるとすれば……そいつは、“戦争の時代”の遺産だ」


「それなら尚の事おかしいわ。誰がドラゴンを操って、なぜそれが海老男を狙うの?」


 マイラの問いかけにゼリオスも答えない。

 いや、答えようがなかった。


ーーーわからないことが多すぎる。


 彼の視線が、空の二人へと向けられる。


 人知を超えた存在と、それに並ぶ“何か”。


 雲より高い場所で、いま、人と竜が睨み合っていた。




 風を裂く音が、空を揺らした。


 蒼翼竜サンダイルが翼を翻し、空中を一直線に突き抜ける。


「……来るか」


 ロブが低く呟くと同時に、蒼翼竜サンダイルの鋭い鉤爪が迫る。まるで天の怒りを具現したような一撃――だが、


 すっと。


 ロブの身体が横へと流れた。まるで風に乗るように、軽やかに。


 空中での機動回避。だが、ドラゴンの方が速い。


「流石に、スピードはあっちが上か」


 追撃は早かった。蒼翼竜サンダイルは弧を描くように旋回し、ロブの正面に再び回り込む。


 人間が空を飛んだところで、空の覇者に敵うわけがない。速度だけなら、音をも超える――それが蒼翼竜の飛翔。


「Fiat Ignisフィアト・イグニス《火炎槍》」


 ロブの掌から、灼熱の魔法が放たれる。火炎の槍が唸りを上げて、ドラゴンの胴を撃ち抜かんと飛翔する――が。


 バシュッ。


 蒼翼竜サンダイルの翼が、なめらかに撥ねた。

 風圧が炎を逸らし、魔法が弾かれる。


「……効かない、か。さすがに」


 ロブはひと息ついて、空高く舞い上がる。


 吹きつける風は冷たくて、でもどこか懐かしい匂いがした。

 肌に刺さる空気、胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。


(飛んでる。ドラゴンとやり合ってる。……本気で)


 興奮が、少しずつ喉を震わせる。


 これだ。

 この感覚が、久しくなかった。


 誰かを守るためでもなく、見せつけるためでもない。


 ただ、戦っている。全力で、命を賭けて。


「――へへ」


 ロブは小さく笑うと、マントを翻した。


「悪いな、蒼翼竜サンダイル。ちょっと、楽しませてもらうぞ」


 空を駆けながら、ロブは視線だけをわずかにずらした。


「クォリス。重力魔法の構文を準備しておけ」


 言葉は風に溶けたが、すぐに脳内に電子音の返答が響く。


『了解。構文展開を開始します』


 追うは、空の死神――蒼翼竜サンダイル


 その眼光が閃いた瞬間、ロブは指を鳴らした。


「Fulmen Circensisフルメン・キルケンシス雷獣狂宴」


 雷の奔流が空を裂いた。乱れ走る電撃が、蒼翼竜サンダイルの巨体を何重にも打つ。

 だが、それはダメージを狙ったものではない。


 炸裂する光。視界を灼く閃光。その一瞬の“目くらまし”にすぎない。


 ロブの身体が、雷の幕をすり抜ける。閃光のすぐ脇を、風のように流れ、弧を描いて急降下。


 重力に身を預けるまま、ロブは地上へと舞い降りた。


 大地が、足裏に温度を返す。


 天を仰げば、空の覇者もまた降下してくる。狩りの続きを、獲物の止めを刺すべく。


「待ってたぜ」


 ロブは指をすっと下ろした。


「Gravitas Pressuraグラウィタス・プレッスラ――重圧結界」


 展開されるは、白銀の魔法陣。複雑な重力場が編まれ、周囲の空間そのものが歪む。

 魔法の網が、蒼翼竜サンダイルの巨体をまるで杭のように地に縫いとめる。


 ドンッと鈍い音。

 巨竜の脚が、地面にめり込んだ。


 それはまるで、神話の彫像が地に降り立ったかのような静けさ――だが、


「さあ、やろうぜ」


 ロブが、不敵に笑った。


 口角をわずかに吊り上げ、あくまで余裕を纏ったその笑みに、空気がピンと張り詰める。



ロブさんが――飛んだ。


しかも、スイーッて。ふわって。ひとっ飛びで。


……え? ロブさん、海老じゃなかったっけ?

跳ねるのはわかる。でも飛ぶのはちょっと……

え、えっ? トンボ? 


海老って脱皮したらトンボになるんだっけ?


しかもあのタイミングで重力魔法を仕込むなんて……

空中戦で機を見て降下、からのドーンって地面にドラゴンさん押し付けて、

そのまま「さあ、やろうぜ」って……主人公じゃん……!


もうカッコよすぎて意味わかんない。

リリアは思いました。ロブさんのマントになりたいと。

風に舞いながら、背中にくっついて、いっしょに空を飛びたいって。


カイくんの魔法をさらっとパクってたのも地味にツボでした。

弟子の技、しっかり観察してるんだなあ……って、ちょっと感動。

(カイくん、たぶん気づいたら嫉妬するよ……ふふふ)


ああ、でもあの空の戦い、もう一回見たいなあ。

地上で戦うのもカッコいいけど、空ってズルいよ、ほんと。

反則レベルの映え。絶対誰かファンアート描いてくれるやつ。


……というわけで、今日の妄想はここまで!


よければ感想とかブクマとか、ぽちっとしていただけると、

またロブさんが空飛ぶ夢、見られる気がしますっ!


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