特別編 リリアの妄想ノート〜もしもロブさんと◯◯したら〜
【リリアの妄想ノート】
※この話は、Xで企画した50話記念キャンペーンでブクマ5登録を達成した記念の特別編となります。すべて、リリアの自由すぎる妄想です。
――ロブさんと結婚したら、どんな毎日になるのかな?
そんなことを考え始めたら止まらなくなって、今日もノートが真っ黒になるまで妄想を書き連ねてしまいました。
【6:30 目覚めの朝】
朝日とともに目覚めて、隣に寝ているロブさんの寝顔を見つめるのが毎朝の日課。……だったはずなんだけど、今日は違った。
「リリア、起きろ。……お姫様が寝坊じゃ、騎士の俺が困る」
――えっ、誰!?ってくらい甘い声。目を開けた瞬間、ロブさんの顔がすぐそこにあって、思わず心臓が跳ねた。
ていうか今、“お姫様”って言った!? 普段のロブさん、どこいったの!? 返事もできないままぽかーんとしてたら――
「ふふ、冗談だ。朝食、できてるぞ」
さらっと離れていく姿がもうダメ、かっこよすぎる。
……で、起きてすぐのテンションで向かったキッチンには、焼きたてパンと目玉焼きと、コーヒーの香りが広がってて。
「今日の目玉焼き、ちょっと自信ある」
って、にこって笑うエプロン姿のロブさん(※私が買ったやつ)が、世界のすべて。
席に着いた瞬間、ロブさんがこっちに顔を寄せてきて――
「よく眠れたか? ご褒美」
――チュッ。
……え、え、え、いま、おでこ!? 私の、おでこに……え、え!?!?
「……っかーーーーー!!!」
言葉にならない悲鳴を押し殺して顔を真っ赤にしながら、焼きたてパンを握りつぶしそうになったのはここだけの話。
【8:15 模擬戦ハプニング】
「せいっ!」
木剣を振りかぶって斬りかかる私。だけど――
「遅い」
ロブさんは軽く一歩踏み出しただけで、私の剣を難なく避ける。風すら起こせてない。なのに私の勢いは止まらず、そのまま――
「あっ、バ、バランスっ……!」
地面が近づいてきた、と思った瞬間。
「危ない」
ふわり、とした感触。
……抱きとめられていた。ロブさんの、腕の中。
「怪我はないか?」
低くて優しい声が、頭のすぐ横から聞こえる。見上げれば、至近距離にあの穏やかな顔。眉をほんの少しだけ下げて、心配そうに私を覗き込んでる。
その視線の温かさに、息が止まりそうになった。
「稽古でも……お前の身体に傷でもついたら、大変だからな」
そう言って、そっと微笑むロブさん。
(えっ……それ、反則……!)
顔が一気に熱くなる。心臓が痛いほどドキドキして、言葉がうまく出てこない。
「だ、大丈夫です……っ!」
情けないくらい声が震えた。そんな私に気づかず、ロブさんはふっと口元だけで笑って、そっと手を離す。
その仕草がまた優しすぎて、余計に心臓がしんどい。
(ず、ずるい……! そんな顔、そんなセリフ、全部ずるいですロブさん!!)
【10:30 ふたりでお買い物】
村の朝市は今日も活気に満ちていた。
手を繋いで歩くわけでもないのに、並んで歩いているだけで胸がくすぐったい。ロブさんと一緒に買い物だなんて、もうそれだけで幸せすぎる。
「パンと野菜、それとリリアの好きなリンゴ……今日は赤いやつが入ってるみたいだな」
そう言って微笑んでくれるロブさんの横顔を見ていると、自然と顔がほころんでしまう。
「おやまあ、今日も新婚さんは仲がよろしいことで!」
にやにや笑いながら話しかけてきたのは、果物屋のおばちゃん。すぐ近くの魚屋のおじさんも、こちらを見て大きな声を上げた。
「いいなあ、こんな美人な奥さん連れて。ロブの兄ちゃんが羨ましいよ!」
「え、そ、そんな……」
顔が熱くなって、思わずうつむく私。すると、ロブさんがふっと笑って、あっさりこう言う。
「そりゃあ、俺の自慢の奥さんだからな」
――その一言に、空気が止まった。
「な……なによもう……っ」
思わず肩を叩く私の横で、ロブさんは飄々とした顔のまま、袋にリンゴを入れている。もう、ほんとに……!
「はい、リリア。今日の晩飯、これでデザート決まりだな」
「もう……っ、こういうとこ、ほんとずるいんですから……」
まわりからは「ひゅ~!」とか「ごちそうさま~!」とか冷やかしの声が飛んでくるけれど、ロブさんはどこ吹く風。
こんな毎日なら、からかわれるのも悪くないかも……なんて、思っちゃったりして。
【18:30 ふたりきりの晩ごはん】
夕暮れが窓の外を朱に染めて、キッチンにはあたたかな灯り。
「いただきます」と言った後、ロブさんは私のお皿を見てふっと笑った。
「……リリア、またニンジン残してるぞ?」
「うっ……それは、その……見逃してもらえませんか?」
顔をそむける私に、ロブさんは小さくため息をついてから、にこりと笑う。
「しょうがないな……じゃあ俺が“特別に”食べさせてやる」
えっ、と思ったときには、ロブさんの箸がニンジンをつまみ、私の口元へ――
「はい、あーん」
「っ、あ、あーん……!」
もう、顔から火が出そう。なのにロブさんは悪びれもせず、まるで日常のように自然体で――
「ん、よくできました。えらいぞ」
なんて、優しく頭まで撫でてくるもんだから、もうどうすればいいのかわからない!
「お返しです……!」
勢いで、私もロブさんの分のおかずをお箸でつまむ。
「お、これは……俺の好きなやつだな」
「……じゃあ、食べさせてあげます。あーん、ってしてください」
「はいはい、あーん」
まったく、こういうときだけ素直なんだから!
……でも。
こうやって顔を見合わせて、笑い合って、同じごはんを分け合って――
ああ、私、ほんとに結婚したんだなって思える。
たったそれだけのことで、今日一日の疲れもどこかに消えちゃうの。
「ねえロブさん、明日も一緒にご飯、食べてくださいね」
「……バカ言うな。ずっとだよ、リリア」
【19:30 ふたりのお風呂タイム】
「入るぞ」
湯気の向こうから、ロブさんの低くて優しい声が響いた。
ええ、もちろん一緒にお風呂なんです。だって夫婦ですからっ!
ロブさんはいつも通り淡々としてるけど……こっちは毎回、心臓が持ちません!!
ふと見ると、浴室の入り口に現れたその体――
(ひっ……ひゃああああああああ!?)
広い肩幅、無駄のない筋肉。締まった腹筋、濡れた黒髪が首元に張りついてて、なんかもう、こう……眼福が過ぎるっ!!
(ちょ、ちょっと待って……これ、絶対鼻血出るやつ……っ)
脳内で警報が鳴り響くけど、目が離せない。
「リリア、湯加減、熱すぎなかったか?」
至近距離。裸のロブさん。真顔。心配そうな表情。
その真面目な問いかけが、逆に破壊力高すぎるんですけど!!?
「だ、だいじょっ、ぶ、で……っふっ……!」
「顔、赤いぞ?」
「な、なんでもありませんーっ!!」
慌てて湯船に沈んだけど、逆に血の巡りが良くなって危険です。
ロブさんは、そんな私の混乱など気にも留めず、バシャッと湯をすくって肩にかけていた。
(……だ、だめ……これは……癒しという名の暴力……!)
その日、私は湯気でのぼせたのか、鼻血でのぼせたのか、よくわからないまま、お風呂から上がったのでした。
【22:30 就寝前のいちゃあまトーク】
ベッドに入ると、ふわりと毛布の香りが鼻をくすぐった。
ロブさんはいつも、私が先に寝付けるように、腕枕をしてくれる。
「……今日もよく頑張ったな、リリア」
その低くてあたたかい声に、胸がぎゅっとなる。
「う、うん……ロブさんも。ありがとう……いつも、そばにいてくれて」
素直にそう言うと、ロブさんは少しだけ目を細めて、私の額にそっと唇を当てた。
「リリアが隣にいるだけで、もう十分幸せだ」
(ちょ、ちょ、ちょ、ちょ……!!)
体温が一気に跳ね上がった。頭が真っ白になる。
「え、え、えええっ!? な、なにそれ……そんなの反則だよぉ……!」
顔を隠すと、ロブさんが笑って、そっと抱きしめてくれる。
「照れてる顔、かわいい」
(あかん!!!それ以上言われたら寝られなくなるやつー!!!)
心臓がバクバクして眠れない……はずなのに、ロブさんの胸の音を聞いていると、だんだん安心してきて……
「……ロブさん……だいすき……」
「俺もだよ、リリア」
その一言を胸に抱きながら、私は幸せいっぱいで眠りについた。
……ふぅっ。
ぺん、とペンを置いて、私は机に突っ伏した。
ああああああああ!! なに書いてるの私ぃぃぃぃぃぃぃ!!!
顔が熱い。布団に頭から飛び込みたい。いやむしろ、布団にくるまって三千年過ごしたい。
「でも……楽しかった、かも……」
誰にも見せるわけじゃない。これは、私だけの妄想ノート。たぶんロブさんが知ったらドン引きされると思うけど……。
……ほんとは、いつか、こんな毎日が来たらいいなって。
そう願いながら、そっとノートを閉じた。
翌朝
「ん? 机の上にノート……これ、リリアのかしら?」
「わっ、だめですよフィリアさん! 勝手に見るのは――」
「こういうの、見える所に置いてる方が悪いと思わない?」
ぱら、とページを開くフィリア。
駄目と言いつつセラフィナも興味津々で覗き込んでしまう。
そこに書かれているのは、朝からおでこにキスされるリリア、稽古で抱きとめられるリリア、食事中にあーんするリリア……そして風呂場で鼻血を出しかけるリリア。
他人に見られたら確実に狂うことうけあいな黒歴史である。
「…………」
「…………」
二人はそっとノートを閉じた。
そして、同時に口を開いた。
「見なかったことにしましょうか」
「見なかったことにしましょう……」
そのまま、そろりそろりと後ずさりし、ノートを元の位置に戻して逃げ出したのだった――。
【あとがき】
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!
今回の「リリアの妄想ノート」は――
祝! 50エピソード突破記念キャンペーン作品としてお届けしました!
読者の皆さんの応援と感想のおかげで、ここまで作品を積み重ねてくることができました。感謝を込めて、ちょっぴり(いや、かなり)甘くて妄想全開なリリアの「もしも結婚していたら?」をお届けしてみました。
もちろんこれはすべてリリアの妄想です。ですが、本人は大真面目にノートに書き連ねてます。
おでこキスに始まり、抱きとめられ、あーんしてもらって、お風呂で鼻血……そんな夢のような新婚ライフを、全力で妄想する姿を楽しんでもらえたら嬉しいです。
また、妄想ノートをこっそり読んでしまったセラフィナ&フィリアの反応も含め、今後もこういった“おまけ”的な話は気まぐれに更新していく予定です。
今後、ロブとリリアの関係がどう進展するのか……は、本編にて!
引き続き『海老男』をよろしくお願いいたします!




