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第46話 魔導学舎主席と特待剣士、退学して逃避行!?~お嬢様は恋と過去と根性でできてます~

 翌朝のギルドホールは、変わらず多くの冒険者たちで賑わっていた。

 

 その中で、ロブと弟子たちは受付のカウンター前に並び、昨日の報酬精算を待っていた。


「討伐報酬の精算ですね。すぐ確認いたします」


 そう応じたのは、いつもの受付嬢ミーナ。

 帳簿をめくる指先は軽やかで、すぐに目当ての欄を見つける。


「はい、ありました。こちらが今回の報酬です。マンドラ・グロスとその護衛魔物の討伐報酬、合計で――」


 彼女は一枚の紙をロブに手渡した。


「――100万リュークになります」

「……っ!」


 リリアが思わず覗き込み、息を呑む。


「百……万!? えっ、これ、間違ってないですか!? 紅竜団の時よりずっと多い……!」


 驚愕を隠せないリリアの言葉に、ミーナは笑顔で頷いた。


「間違いありません。マンドラ・グロスはB級の中でも危険度の高い魔獣ですし、何より今回の件は、王都防衛にも大きく関わるものでした。王宮からの特別査定が入っております」

「王宮から……」


 リリアはもう一度金額を見て、ごくりと喉を鳴らした。


 セラフィナは得意げに胸を張る。


「ふふっ、わたくしたちの活躍が正しく評価された証ですわね」


 エドガーがその隣で肩をすくめる。


「まあ、無事に終わったんだ。金額はどうあれ、ちゃんと支払われるだけでもありがたいよ」


 カイはそれを聞きながら、短く一言。


「100万……。これは一度帰って、装備の更新もしないとな」


 その時、ミーナが少し申し訳なさそうに付け加えた。


「それと、もう一点ご報告がございます。今回の件で皆さまの冒険者ランクについて、昇格の検討がなされていたのですが……」


 その言葉に、弟子たちがざわめいた。


「ランク昇格……?」


 リリアが目を輝かせるが、次の言葉に肩を落とすことになる。


「ロブさん、ゼラン様、そしてセレニア様のご判断により――今回は“保留”とされました」

「えええっ!? なんでですかっ!」


 リリアが思わず声を上げた。


 ロブは淡々と答える。


「実力と功績は十分だ。だが、あれは偶然が重なった勝利だ。慢心させるにはまだ早い」


 セラフィナがむぅっと頬を膨らませる。


「ちょっとだけ納得いきませんけど……まあ、お師匠様のご判断なら……」


 ロブは優しく微笑んで言う。


「また次に証明すればいい。それだけのことだ」


 そんな師弟ののやり取りを見て、ミーナは笑みを浮かべた。


「皆さん、十分に素晴らしい冒険者です。これからも期待しておりますね」


 リリアは再び報酬額を見て、そっとギルドカードを両手で握った。


「なんか……ずっしりしてる……」


 それにくすっと笑ったエドガーとセラフィナ、そしてロブ。

 弟子たちの冒険は、まだ始まったばかりだった――。


「さて――」


 ロブが腰に手を当て、エドガーを見る。


「エドガー、行くか」


 その一言に、エドガーが少しだけ背筋を正す。


「ああ」

「え?どこに行くんですか?」


 リリアが目をぱちぱちさせながら尋ねる。


「エドガーの両親に挨拶だ。正式に弟子として預かるって、きちんと話しておく」


「へえ……なるほど、ちゃんとしてるんですね。でも、セラフィナさんはいいんですか?」


 リリアが隣のセラフィナに尋ねると、セラフィナがひらりと手を振る。


「わたくしは不要ですわよ。家とは……少し言い合いをして、飛び出してまいりましたから。戻るつもりもありませんの」

「あれ、少しとは言わないだろ。近所まで言い争うお前と親父さんの声が聞こえてたぞ」

「う、嘘おっしゃい!屋敷の外まで聞こえるはずがないでしょう」

「言い争ったことは否定しないんだな」


 エドガーがヘラっと笑い、セラフィナが顔を赤らめて眉をつり上げる。


「引っ掛けましたわね………」


 エドガーが口笛を吹く。

 リリアはそのやり取りに苦笑しながらカイを見た。


「じゃあ、カイ君は? ご両親に会わなくていいの?」


 問いかけに、カイは淡々と答える。


「俺は王都からはるか遠い村の出身だから。あとで手紙を書いておくよ」

「……そっか」


 ロブは四人のやり取りを見ながら、改めて弟子たちに視線を向ける。


「じゃあ、エドガー以外は、俺が戻るまで自由にしていていい。散歩でも食事でも、何でも好きにしろ。昼には宿に集合だ」

「了解ですわ。少し市場でも見てこようかしら」


 セラフィナがにこやかに答える。


「じゃ、僕はをその辺を回ってくる」


 カイもそっけなく言って、すぐに背を向けた。


「わ、わたしは……えーと……その……」


 リリアがそわそわと視線を泳がせると、ロブが肩をすくめる。


「迷子になるなよ」

「なりませんっ!」


 頬をぷくっと膨らませたリリアの顔に、思わずセラフィナがくすりと笑った。


「よし、行くぞ」

「ああ」


 ロブとエドガーはそのままギルドの扉を押し開けて出ていく。

 

「さあ、お二人とも。せっかくの自由時間ですし、市場に参りましょう?」


 セラフィナがひらりとローブの裾を翻し、華やかな笑顔でリリアとフィリアを振り返った。


「市場? あ、面白そう!」


 リリアはぱっと顔を明るくしてうなずいた。


「……まあ、退屈しているよりはマシね」


 フィリアも肩をすくめつつ、しぶしぶといった様子で後に続く。


 王都の中心から外れた石畳の道を、三人の少女が連れ立って歩く。陽光がまぶしく、風はほんのり甘い果実の香りを運んできた。


 屋台からは香ばしい焼き菓子の匂い、商人たちの威勢のいい声、どこかの吟遊詩人が奏でるリュートの音色が混じり合い、市場全体がまるで一つの劇場のようだった。


 

 ふと、フィリアがセラフィナのローブに目を留めた。


「前から気になってたんだけど、そのローブ、王都第一魔導学舎の制服よね」


 セラフィナはちらりと横目でフィリアを見ると、軽く頷いた。


「ええ、そうですわ。仕立てもよくて動きやすいので、そのまま着ておりますの」


 フィリアは少しだけ眉をひそめた。


「魔導学舎の生徒が、冒険者になるなんて前代未聞よ。普通は卒業すれば、そのまま魔導公会の監督下にある研究機関や魔法行政局、あるいは王立学院の助手として就職するもの。現場で魔法を振るうなんて、学内ではありえない選択だと思われてるはずよ」


 その言葉に、リリアが思わずセラフィナの横顔を見る。


 だが、セラフィナは気負うことなく、少し誇らしげに胸を張った。


「そうでしょうね。でも、わたくしはあの学舎を自ら退学しましたの」

「退学……?」


 リリアとフィリアが同時に目を丸くする。


 セラフィナは静かに歩を進めながら、淡々と語り始めた。


「わたくし、王都第一魔導学舎で主席でしたの。魔導公会の定める四大精霊理論に則った教育体系の中で、真面目に学び、評価も高かった……。でも、ある日ふと思ったのです」


 声のトーンが少しだけ沈む。


「火の精霊を使役する術式なのに、ある条件下では水系統の魔素が混ざる現象。氷結魔法の発動に必要な魔力が、土の魔法陣によって軽減される現象……」


 彼女は真剣な眼差しで前を見据える。


「それらは、精霊の“加護”だけでは説明がつきませんの。明らかに、他の理論が作用している……そう感じたとき、わたくしは学舎の理論に限界を見たのです」

「それで、退学を?」


 フィリアが問うと、セラフィナはこくりと頷いた。


「わたくし、王都の魔導機関では知り得ない“真理”を探しに出たいと願いましたの。それがたとえ、魔導公会にとって異端であろうと」


 彼女の口元に、小さな笑みが浮かぶ。


「それに――水属性と判定されていたわたくしが、火の属性魔法を習得できたことも、大きな動機の一つでしたわ」

「火の魔法って……でも、魔法の属性って生まれつき決まるんじゃ……」


 リリアがぽつりと口にすると、セラフィナは少し得意げに言った。


「わたくしもそう教えられてきました。でも、火の魔法をどうしても使いたかったんですの」

「どうやって……?」


 リリアが目を輝かせて尋ねると、セラフィナはふふっと微笑んだ。


「根性で、ですわ」

「……」

「……」


 二人はしばらく無言になり、それからふっと笑い合った。


 その横で、セラフィナの金のサイドテールが風にそよぎ、軽やかな笑い声が市場の賑わいに溶けていった。


「でも……それだけで学舎を退学するなんて、大胆ね」


 フィリアが感心したように呟くと、セラフィナは小さく肩をすくめた。


「ええ、周囲にはずいぶん反対されましたわ。学舎で教師をしている父は特に。でも、信念を貫くには環境を変えるしかありませんでしたの」


 そして、ふと視線を少し遠くへ向ける。


「……それに、わたくし一人ではありませんでしたのよ。退学すると決めたとき、彼もついてきてくれましたの」


「彼?」


 リリアが首をかしげると、セラフィナは微笑んで答えた。


「エドガーのことですわ」

「えええっ!? エドガーさんも!?」


 リリアが目を丸くして驚くと、セラフィナは静かに頷いた。


「彼は、魔導学舎の剣術部門で特待生として通っていましたの。王国有数の若き剣士として期待されていて、卒業後は騎士団への推薦もほぼ確定していたんですのよ」

「それなのに、退学して……セラフィナさんについてきたんですか?」


 フィリアが目を細めると、セラフィナの頬がわずかに赤くなる。


「そうですの。……幼馴染でして、小さな頃からずっと一緒に育ってきた仲ですわ。わたくしが退学することを告げた時も、一言だけでしたのよ」


 そのときの情景を思い出すように、セラフィナはふっと目を細めた。


「『お前が行くなら、俺も行く』って……」


 その声には、照れと誇らしさが滲んでいた。


 リリアはきゅっと胸を押さえながら、ぽつりと呟いた。


「すごいなぁ……お互いを信じてるって、なんか、いいですね」

「ふふ……ええ、少なくとも、わたくしはそう思っていますわ」


 軽やかな風が、三人の間を通り抜ける。


 市場の喧騒の中で交わされる言葉は、どこか穏やかで、少しだけ誇らしげなものだった。

 

【リリアの妄想ノート】


 魔導学舎主席!

 火の魔法を根性で習得!?

 そしてまさかの――お嬢様と剣士の逃避行……!?


 な、なんか……ドラマじゃないですか!?


 退学までしてついてくるエドガーさん、かっこよすぎでは……

 セラフィナさんも、理論派なのに意志が強くて、わたしちょっと憧れちゃいました。


 それにしても、あの「お前が行くなら、俺も行く」とか……

 も、妄想が止まりませんっ!


(※本日のおまけ妄想:「制服デート in 魔導学舎編」近日公開予定)


感想・ブクマ、ぜひお願いしますっ!


【あとがき】


 今回のエピソードでは、セラフィナの過去と、彼女とエドガーの関係に焦点を当てました。


 王都第一魔導学舎という権威ある場所から飛び出してまで「真理」を求めるセラフィナ。

 そして、そんな彼女に寄り添うエドガー――。


 地味に“逃げるは恥だが役に立つ”な展開になっておりますが(笑)

 次回以降も、それぞれのキャラクターたちの背景を少しずつ明かしていく予定です。


 ちなみにリリアは今、毎日「セラフィナ×エドガー」の妄想ネタ帳を増産中です。

 誰か止めてあげてください。


 それでは次回もお楽しみに!


感想・ブクマが作品の力になります!よろしくお願いします!


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