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第28話 海老男流、魔法修行スタート!リリア、はじめての火を灯す

 リリアは緊張した面持ちで胸に手を当てると、しっかりと言葉を紡ぎ始めた。


「……魔法は、四大精霊の力を借りて行使する技術です」


 ひと呼吸置き、指を折りながら続ける。


「炎、水、風、大地……この世界を支える四柱の精霊たちと契約し、その加護を受けることで、人は“神の奇跡”にも匹敵する力を振るえるんです」


 声はやや震えていたが、瞳は真剣だった。


「たとえば――」


 一呼吸置いて続ける。


「炎の精霊王イグニスは、怒りと再生の象徴で、猛る業火で敵を焼き尽くし、焼けた大地すらも新たに蘇らせる力を持つ。

 水の精霊王アクアは、癒しと猛威の二面性を併せ持ち、流れる水流で命を潤し、荒れ狂う奔流で敵を押し流します」


 朗々と、淀みなく続ける。


「風の精霊王シルフィードは、自由と変化の申し子。突風の如く舞い上がり、雷撃をともなうその力で戦局を一瞬で変える俊敏さを持っています」


 ひときわ強い口調で、リリアは最後の精霊を語る。


「そして大地の精霊王テラは、大地のように揺るがぬ守護者。重く堅牢な力で大地を揺るがし、守りと攻撃の両方で戦場を制圧する存在です」


 ロブが静かに頷く。

 リリアは続けた。


「魔導公会では、魔法は精霊たちからの贈り物だとされています。正しく学び、正しく祈り、正しく使うことでその恩恵を得られるって……」


 拳を握りしめる。


「それから……魔法は、まずイメージを育てることが大切です。心の中でしっかりと精霊の力を思い描き、それを“呪文”という形にして呼び出す。

 そうやってこそ、魔法はこの世界に形を成すんです」


 言葉を言い終えると、リリアはほんの少し誇らしげに胸を張り、師匠を見つめた。


「……以上が、魔導公会が教えている魔法の基礎知識になります!」


 緊張しながらも、必死に覚えてきた知識を懸命に伝えるリリアの声は、春の日差しのようにまっすぐだった。


 ロブはゆっくりと頷き、満足げに微笑む。


「うん。よく覚えてるな。合格だ」

「ありがとうございますっ!」


 リリアの顔がぱっと明るくなる。

 不安だった胸のもやが晴れ、ほっと息をついた。


「へえ、座学もばっちりだな。俺なんて四大精霊の名前すら覚えてないぞ」


 胸を張ってなぜか得意げに語るゼランに、ロブは呆れたように眉をひそめる。


「お前は本当に俺の話を聞いてなかったんだな……」


 深くため息をつきつつ、腕を組む。


 ゼランは肩をすくめながらも悪びれる様子はない。


「だってよ、俺はマニュアルより現場で叩き込まれた感覚派だからよ。教義なんて頭に入らんさ」


 その言葉に、ロブはやや顔をしかめながらも続ける。


「まあな。だが、教義には初心者にとって都合のいい部分もある」

「ほう? 意外だな。あんたが魔導公会のやり方を肯定するなんて。昔はあんな連中の教えなんて反発してたろ」


 ゼランが小さく笑いながら口を挟む。

 ロブは僅かに目を細め、どこか不満げに息を吐いた。


「あいつらの言うことは出鱈目だ。だが、魔法を学ぶ最初の取っ掛かりとしては悪くない。形から入るのも悪い手ではないさ。一通り覚えたら、俺が本当の魔法の知識を叩き込む」

「えっ……!?」


 リリアは驚きに目を見開いた。

 必死に覚えてきた教義が「出鱈目」とまで言われ、ショックを隠せない。


「そ、それじゃあ……さっきの話は全部ウソだったんですか?」


 震える声で尋ねるリリアに、ロブは静かに首を振る。


「全部ってわけじゃないが、連中は“見せかけの奇跡”を真実のように教えているだけだ」


 ロブの声は静かだが、どこか重みを感じさせた。

 リリアはその言葉に耳を傾けながら、ごくりと唾を飲み込む。


「焦るな。いずれ、お前には真実を教えてやるよ」


 ロブは静かな眼差しでリリアを見つめ、言葉に重みを込めた。


「そろそろ休憩にするか。この辺で馬車を止めて馬を休ませよう。ずっと座ってるとケツが痛くてたまらん」


 ゼランは言うと御者や護衛の冒険者たちに指示を飛ばす。


 ロブは軽く息を吐き、馬車の窓を開ける。


「ちょうどいいな。外に出るぞ」


「はい!」


 リリアは勢いよく返事をして、跳ねるように馬車から降りる。

 ゼランもぐーっと伸びをしながら後に続いた。


「ふぃ〜〜……馬車の揺れで腰が固まるわ。筋肉もカッチカチだぜ」

「それ脂肪だろ」

「ひどっ!? 俺のぷよぷよボディに厳しい!」


 ロブが軽くため息をつきながらリリアに向き直る。


「リリア。魔法の座学は終えた。次は実践だ」

「えっ、いきなりですか!?」


 リリアが驚くと、ロブは微笑みながら顎を軽くしゃくった。


「何事も経験だ。実際に使ってみることで理解が深まる」

「……はいっ!」


 リリアは気持ちを整えるように、深呼吸をひとつ。

 両手を胸の前で組み、呪文を唱える。


「えっと……燃え上がれ、炎の精霊よ。私の願いに応え、その力を灯せ……ファイア!」


 次の瞬間。

 ぽん、と可愛らしい音を立てて、小さな炎が手のひらに灯る。



「おおっ!?」


 ゼランが思わず身を乗り出した。


「おいおい、マジか……一発成功かよ?」


 ロブも微かに目を見開き思わず感嘆の声を漏らす。


 遠巻きに見守っていた護衛の冒険者たちさえ、思わず息を呑む。

 

 小さな炎とはいえ、一発成功の技量に目を見張り、互いに目配せしながら感心したようにうなずき合った。


 リリア自身も驚きの声を上げた。


「……できた、できました!」


 顔をぱっと輝かせるリリア。


「ふむ。ファイアは生活魔法のひとつだからな。初心者でも扱いやすい部類だ」


 ロブが頷きながら言うと、リリアは勢いそのままに言葉を続けた。


「じゃあ……次は、もっと強い魔法を……!」


 リリアは集中を高める。


「燃え盛れ、我が掌に集いし紅蓮の種子よ──フレア・バレット!」


 だが、――何も起こらない。


「えっ……?」


 もう一度。息を整えて再度呪文を唱えるが、やはり火の気配は感じられなかった。


「……失敗、ですか?」


 リリアが肩を落とす。

 せっかくうまくいったのに、期待がしぼむようにしょんぼりとうつむいた。


「惜しかったな」


 ロブが柔らかく声をかける。


「ファイアと違ってフレア・バレットは攻撃魔法だ。威力が増すぶん、必要な魔力も跳ね上がる。今のお前には少し荷が重い」


「うぅ……」


 リリアは唇を噛む。


「私は、やっぱり魔法には向いてないのかも……」

「そう考えるのはまだ早い」


 リリアが俯いたその瞬間、ロブの声が静かに降りかかる。


「お前は呪文を完璧に覚えているし、イメージもできている。だが魔力がついてきていないだけだ」

「……魔力が、ついてきていない……」


 リリアはぽつりと繰り返し、胸元で手を握る。


 それを見たロブは、静かに言葉を重ねた。


「魔法は楽器の演奏みたいなもんだ。ハープを弾くとして、お前は楽譜は完璧に覚えている。だが、指がそれについていかない。それと同じだ」


 リリアははっと顔を上げる。


「つまり……練習すれば、できるようになるってことですか?」


「そういうことだ。魔力が追いつきさえすれば、イメージはおのずと形になる」


 ロブは静かに頷いた。


「お前には、その素質がある。記憶力がいいのは何よりの強みだ。イメージを正確に描けるのは、魔法使いとして大きな才能だぞ」


 その言葉に、リリアの顔がぱっと明るくなる。


「……本当ですか!」

「ああ。だからこそ焦るな。大事なのは、一歩ずつでも前に進むことだ。それと、さっき言ったよな?」


 ロブは試すような眼でリリアを覗き込む。

 何かを思い出せ。そう言っている眼。


 そして、リリアは思い出す。


(できるできないじゃない………)


 リリアはぐっと拳を握りしめる。


「絶対、できるようになります!やってみせます!」



 その声に、ロブが破顔した。

 ゼランもにやりと笑いながら言葉を挟む。


「おーし!その意気だリリアちゃん!俺も弟子時代、ロブに“体で覚えろ”って言われたもんだぜ!まあ俺の場合、ひたすら殴られながら闘気ブレイズを覚えたんだけどな!」

「殴られ………え……?」

「捏造するな」


 ロブが軽く睨みつけるとゼランは口笛を吹いて明後日の方を向く。


 そのやり取りを見て、思わず吹き出しそうになったのか、何人かの護衛が小さく咳払いで誤魔化す。


 真偽はともかくとして、ゼランの冗談に緊張がほどけ、どこか楽しげな空気が広がっていた。


 リリアが苦笑すると、ロブが軽く咳払いをして締めくくった。


「さあ、気を取り直して続けるぞ。今度は魔力の流れを感じながら、火を灯してみろ」

「はいっ!」


 リリアは再び手を前に出し、胸の中で何度もイメージを繰り返した。


 呪文の詠唱と、自分の中を流れる魔力の動き。


 それを確かめるように、じっくりと集中を深めていく。


 ふわりとあたたかな気配が胸の奥に灯った。


「燃え上がれ、炎の精霊よ。私の願いに応え、その力を灯せ……ファイア!」


 ぽん、と小さな炎が再び咲いた。


 先程より大きく、力強く、まるで今のリリアの意志を表すかのように静かに燃え上がっている。

 

 リリアは嬉しそうに微笑み、顔を上げる。


「……できました!」

「ああ、上出来だ」


 ロブが満足そうに頷く。

 ゼランも腕を組み、ふっと笑みを浮かべる。


「さっきより、ずっと形になってるな」


 リリアはこくりと頷き、胸に小さな自信が芽生えているのを感じた。

 それがわかっているかのように、ロブが静かに続ける。


「いい流れだ。このまま魔法の勉強を進めるぞ」

「ま、その前に腹ごしらえだな! 飯にしようぜ!」


 ゼランが割り込み白い歯をにかっと見せる。


 ロブはふっと笑い、リリアに向き直る。


「そうだな。根を詰めすぎても仕方ない。食事にしよう」

「えっ……あ、はいっ!」


 リリアは笑顔で頷いた。

 

 紅竜団の生き残りを護送しつつ、師弟の鍛錬はますます熱を帯びていく。

 王都レガリアは、もうすぐそこまで迫っていた。


【リリアの妄想ノート】


──リリアの妄想ノート──


 えへへっ! ついに私、魔法が使えるようになりました!


 ロブさんが「上出来だ」って言ってくれて、もう胸がいっぱいです……!


 最初は不安だったけど、ちゃんとできたんだよ。


 次は、もっとすごい魔法を覚えて……ロブさんに「よくやった」って、もっと褒めてもらいたいなあ……なんて!


 ゼランさんは相変わらずふざけてたけど……(ぷっ)でも、あの軽さがちょっと救われるかも。


 レガリアに着くまでに、もうひとつくらい魔法を覚えたいなあ……!

 

 がんばります!


【作者あとがき】


 読んでいただきありがとうございます!

今回の話では、リリアが初めて魔法を実践し、

 小さな炎を灯すまでの過程を描きました。

座学から実践へ進み、師弟の絆が深まる中で、彼女の成長が感じられる回になったと思います。


 ゼランの軽口も良いスパイスですね。


 あの空気感がリリアの緊張をほぐし、読者の皆さんにもクスリとしていただけたら嬉しいです。


 魔法はイメージがすべて。


 覚えるだけではなく、体で覚える。まさにリリアの歩みは、これからのストーリーの象徴でもあります。


 次回は、ついに王都到着。

 リリアの成長をどうぞお楽しみに!


【感想・ブクマのお願い】


ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!

リリアの成長を見守ってくださるあなたの一押しが、作者の力になります。


・感想、お待ちしています!

 一言でもいただけると飛び跳ねて喜びます!

・ブクマもぜひぜひ!

 「続きが気になるな」と思ったらポチッとしてもらえると励みになります!


次回もがんばりますので、引き続きよろしくお願いします!


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