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第24話 海老男、魔導公会の闇に迫る。弟子の登録も忘れずに。

「紅竜団の背後に“魔族”の影がある以上、これは王都の治安局と騎士団に委ねるべき案件だ」

 

 仮設小屋から出て、ロブと二人きりになるとすぐに会話を切り出した。

 ゼランの声には、一分の迷いもなかった。


「護送部隊はすでに本部から要請済みだ。エリザ達は三日後には王都へ送る。……そこから先は、国家の手で裁かれる」


「……大丈夫か? それで」


 ロブが静かに口を開く。


「どういう意味だ?」


「今回のセイラン村襲撃は、魔族の関与だけじゃ説明がつかない」


「なに?」


 ゼランが眉をひそめる。


「魔石の採掘場の情報は、魔導公会の管理下で秘匿されている。狙われるリスクがあるからな」


「ああ、それは当然だ」


「なら聞くが――なぜ紅竜団のような野盗が、そんな情報を知っていた?」


「……魔族と繋がっているだけでは、たどり着ける情報じゃないな」


 ゼランは顎に手を当て、しばし沈黙する。

 その時、ロブが懐から黒く光る石を取り出し、ぽいと放り投げた。


「!」


 ゼランは手でそれを受け止めた瞬間、目を見開く。


「これは……一級品の魔石だぞ。それもこのサイズ……王族に献上するレベルの代物じゃないか! こんな小さな村で、こんなものを管理していたのか!?」


「このレベルが出るのは稀らしい。採掘量も他の鉱山に比べてかなり少ない。だから“表向きは”重要視されていない」


「表向き、だと……?」


 ゼランが怪訝そうに首をかしげる。


「実はな、この村の近くの山で鉱床が見つかって、セイラン村がその管理を任されるようになったのは、ほんの一年前の話らしい」


「ふむ……」


「契約してる商会は、一定量が溜まったら買い取るという形にしていた。定期契約じゃ利益が見込めないからな」


「まあ、当然だ」


「でもな。この質の魔石が採れるなら、本来なら魔導公会が管理して然るべきだろ。人材を派遣して、厳重な警備体制を敷いて」


「……たしかに」


「じゃないと、情報が漏れて今回みたいな事件に繋がる。だけど実際は、この村に丸投げだった。おかしいと思わないか?」


 ロブの声には、確信がにじんでいた。


「しかもだ。実際に採掘してた村人に話を聞いたが――契約してた分の魔石が最近やっと溜まって、数日前に取引先に買い取りを打診したらしい」


「……まてまて」


 ゼランの顔色が、みるみるうちに険しくなっていく。


「つまり、この村には今――高品質な魔石が、相当量あるということか。そのタイミングで、紅竜団が襲撃してきた?」


「ああ。レア魔石に、辺境の小さな村。最寄りの冒険者ギルドからでも馬で二日はかかる距離。貧弱な警備体制に、村人は相場の価値すら知らない。そこに、大量の魔石が保管されている状態だった」


 ロブは一拍置いて、言い切る。


「どうぞ襲ってくださいと言ってるようなもんだろ?」


「まさか、お前……魔導公会が紅竜団に情報を流したって言いたいのか!?」


「――そう考えれば、全て辻褄が合う」


 ゼランの怒声を受け流しながら、ロブは淡々と告げる。


「……紅竜団を通して魔族に魔石を横流しして、奴らに恩を売るのが目的か」


「そんな所だろうな。あいつらは人間領も魔族領も関係ない。儲かればそれでいいのさ。所詮は死の商人だからな」


 ロブの言葉にゼランが低く唸り、拳を握りしめたまま黒い魔石を睨みつける。


「魔導公会がそんな真似を……いや、今の段階ではあくまで憶測だ。証拠がなければ、俺たちは動けん」

「わかってる。だが――」


 ロブは遠くを見るように目を細め、静かに続けた。


「誰かが、セイラン村の“価値”を意図的に隠していた。そして、取引のタイミングに合わせて紅竜団を差し向けた。偶然だと思うか?」


「……だが、魔導公会の内部犯行と断じるには早すぎる。情報を流したのが、外部の第三者って可能性もある」


「その“第三者”が、公会の人間と繋がってる可能性は高い。違いは公会全体の利益のためか、個人の利益のために動いているかの違いだけだ」


「……もしそれが真実なら、紅竜団の生き残りを騎士団に引き渡した時点で――奴らは“消される”だろうな」


 ロブは無言で頷いた。


「王家は、魔導公会の傀儡だ。あいつらの意向には逆らえない」


 魔法に関わるあらゆる権限を掌握し、国そのものすら陰で操る――それが魔導公会という組織だった。


 だが、その実態を知る者は、ほんの一握りにすぎない。


 彼らにとって、辺境の小さな村が滅ぼされようが、盗賊団が壊滅しようが、取るに足らない出来事でしかない。


 ロブの脳裏に、吹っ切れたような笑みを浮かべていたエリザの姿がよぎる。


 彼女が弁明の機会すら与えられずに処刑されるのは、ある意味では自業自得と言えるのかもしれない。


 ――だが。


 その背後に権力者の都合や保身が絡んでいるのだとしたら、話は別だ。


 何よりも許せなかったのは、リリアたち、セイラン村の人々が――その“私利私欲”のために犠牲にされようとしていたことだった。


 ゼランは黙り込み、口を真一文字に結んだ。


「護送が王都に到着したら、俺が公会に確認を取る。裏があるなら、どこかでほころびが出るはずだ」


「頼む。それとセイランの警備を強化してもらいたい。ヴォルフ達がいつまでも帰ってこなければ紅竜団の本隊が動き出す可能性もあるからな」


「確かにな。この村に良質の魔石があることを報告すれば、騎士団も派遣してくれるだろう。ギルドからも応援を出す。大っぴらに報告してやれば魔導公会も表向きは協力するさ。ついでにセイランから魔石を不当に買い叩いていた悪徳商会も吊るし上げて廃業に追い込んでやる」


「頼む」


 ロブは短く応じた。


「だが……」


 ゼランが目を細め、ロブをじっと見つめる。


「お前、どこまで知ってる? この村のことも、魔石のことも、妙に詳しい」


「偶然だよ」


 ロブは肩をすくめ、口元だけで笑う。


「大体、たまたま通りかかったら村娘が盗賊に襲われてるとこに出くわしただ?こんな辺境に何の用事があって通りかかるんだ」


「このあたりに墓があってな。毎年この季節に墓参りして、その帰りだったんだ。お前も知ってるだろ」


「ああ、そういえばそんな季節か………」


 ゼランが小さく息をついた。


「お前の“偶然”は、いつも出来すぎてる」


「そうか?」


 とぼけるように言うロブに、ゼランはため息混じりに苦笑する。


「まったく……だから“海老男”って呼ばれるんだよ。妙にヌルヌル動いて、誰よりも深く潜ってる。見えないとこでな」


「なかなか上手いこと言うじゃないか」


 冗談めかすロブに、ゼランは苦笑を返した。


「……ともかく、ここから先は慎重に動く。護送の間に襲撃される可能性もある。警備は俺がつける」


「俺もついて行っていいか?」


「それは構わんが、珍しいな。お前が王都に来るなんて」


「ギルドに用事があるんだ」


「何の用事だ?」


「……弟子ができた」


「は?」


 ゼランの目が点になる。


「もう一回言え。空耳だったかもしれん」


「弟子ができたから、冒険者登録してやろうと思ってな」


「……」


 しばしの沈黙の後、ゼランが吹き出した。


「お前が弟子?教える側?他人に?」


「なんだその言い草は」


「いやいやいや、だってお前だぞ?“気まぐれ渡り海老”とか言われてた、あの海老男が人に教えるとか、想像つかんわ」


「ひどいあだ名だな……」


 ロブはあきれたように眉をひそめ、ふっと笑った。


「……おい、ゼラン。忘れてないだろうな? お前に冒険者のいろはを叩き込んだのは、誰だったっけ?」


「ぐっ……!」


 ゼランが言葉に詰まり、目をそらす。


「いや、そりゃそうだが! あれは俺が若くて無鉄砲だった頃の話であって……!」


「何年経っても、教え子は教え子だ。それに、お前には散々苦労させられたんだ。俺がついてなかったらお前、とっくに死んでたぞ。茶化す前に感謝してもらいたいね」


「クッソ……マジで言い返せねぇのが腹立つ……!」


 顔をしかめるゼランに、ロブは肩をすくめる。


「で、どんな奴だ?弟子ってのは」


「今こっちに向かってる」


 ロブは素っ気なく答える。


「まあ、まだまだひよっこだがな。素質は悪くない。だから形だけでも登録しておくべきかと思ってな」


「へぇ……」


 ゼランはニヤニヤと興味津々な顔を向けてくる。


「つまりあれか? ついに後継者を育てる気になったってわけだな」


「そんな大袈裟なもんじゃない」


「いや~、王都の連中に見せてやりたいわ。あの海老男が弟子連れてギルドに現れたぞ!ってな」


「やめろ、顔を出すだけで騒ぎになるだろうが」


「なるなる。きっと受付の子たちがザワつくぞ。海老男ファンクラブの娘たちが」


「なんだそれ?そんなのあるのか?」


「やっぱり知らんか。お前、ギルド内じゃ人気あるんだぞ。荒くれ者の冒険者ばかりの中で線が細くて大人しい、騒ぎも起こさないし優しい。ついでにそこそこイケメンてな」


「…………基準が低いだけのような」


 ロブはため息をひとつついて、肩をすくめた。


「まあ、それは初耳だが……だからあんまり派手に行動しないように気をつけてるんだ。登録もさっさと済ませて、とっとと帰る」


「まあ、せいぜい目立たないようにがんばれよ、師匠殿」


「お前が一番騒ぐから心配なんだがな……」


 ロブが肩をすくめたところで、後ろから小走りの足音が近づいてきた。


【リリアの妄想ノート】


リリアの妄想ノート 〜リリアのギルド登録編〜


ふふふふ……ふふふふふふっ!!

ついに! ついに私が冒険者になる時が来たのですっ!

お母さん、お父さん、見ててください! 私、リリア・エルメアは堂々たる冒険者としてギルドに登録してみせます!


ああ……でも想像するだけでドキドキが止まらないっ。

ギルドの受付嬢さんに「師匠はどなたですか?」って聞かれたら……


『ロブさんです!!』(きりっ)


……って答えるんですよ!? なんて誇らしい響きなのかしら!


……けどちょっと待って。

ロブさん、受付で絶対目立つじゃないですか……!

もしかして、わたしまで“海老の弟子”とか呼ばれちゃうんじゃ……?


……べ、べつに恥ずかしくなんてありませんからねっ!

海老でもロブさんでも、私の師匠なんですから!


(でもちょっとだけカッコいい二つ名も欲しいな……とかは思ってないです!)


【作者あとがき】


今回は、ロブとゼランの師弟タッグが本格的に動き出した回でした!


魔導公会という巨大な影が背後にちらつき、セイラン村の襲撃事件が単なる盗賊団の悪行ではなかったことが明らかに。

ふたりの会話のテンポは軽妙ながら、どこか緊張感のあるやり取りになったかなと思います。


そして! ロブから飛び出した「弟子ができた」発言。

ゼランの反応が面白すぎて書きながらニヤニヤしていました(笑)


次回はいよいよ旅立ち。

リリアたちが村を出て、物語は新たな局面へと進みます。


次回更新は【21:00】予定です!

ぜひお楽しみに!



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