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第百四十二話 初登校の道、王子と護衛と三人の王子様(仮)

 さて、朝からわちゃわちゃと騒ぎ倒した女性陣は、ようやく初登校に向けて女子寮を出ることになった。

 玄関前のロビーまで歩いたところで、リリアは違和感に気付く。


 ――妙に騒がしい。


 ロビーの出口付近で、女子生徒たちが固まってざわざわしていた。まるで何かを遮る壁のように、玄関の外をじっと見つめている。

 しかし、出ようとする様子はない。


「邪魔ね」

 フィリアが低く吐き捨てる。


 その呟きに心の中で同意しつつも、リリアはそれ以上の好奇心に突き動かされて群れを観察した。

 彼女たちはきゃあきゃあと細い声で何かを言い合い、うっすらと頬を染めている。

 ――ただの立ち話じゃない。これは何かある。


「何かあったんでしょうか?」

 リリアが小声で問うと、セラフィナも首を傾げる。

「さあ……」


「私もわかりません。いつもなら皆さん淑女らしく整然と登校されていますけど」

 エレシアも、栗色の髪を軽く揺らしながら首を振った。


「外に何かあるんじゃろ。出てみればわかるわい」

 そう言ったのはもちろんアトラだ。黒い長髪と豊かな胸を揺らし、ためらいもなく女子の群れへ突撃していく。


「すまんが、どいてくれぬか。おぬしらも早く行かんと遅刻するぞい」


 その堂々たる声に、群れの女子たちは一斉に振り返った。

 視線をものともせずアトラは突き進む。彼女の放つ圧の前に、生徒たちは自然と道を開けた。


 リリアたちもその後に続き、玄関の扉を押し開けて外へ出る――そして、理由を知る。


 女子寮前の大きな木の下に、三人の男子生徒が立っていた。

 いずれも学舎の制服姿。それがまた、いやに映える。


 一人目――エドガー。黒灰色の髪と瞳を持ち、引き締まった長身が制服をきっちりと着こなしている。静かに立っているだけで、彫像のような威厳が漂う。


 二人目――カイ。水色の髪と瞳が朝日に透け、涼やかな光を放っている。整った顔立ちに柔らかな表情が重なり、爽やかさと端正さを兼ね備えていた。


 三人目――ファルク。プラチナブロンドの髪は絹糸のように滑らかで、赤い瞳が宝石のように艶めく。女性のように中性的で整いすぎた顔立ちは、目に入った瞬間に視線を奪う。


 タイプのまったく異なる三人のイケメンが並び立つ光景は、それだけで小さな舞台のようだった。

 周囲の女子生徒が浮足立ち、キャーキャーと人垣を作っていた理由も、これで納得だ。


 リリアは思わず息を呑み、心の中でつぶやく。

(……これは、確かに立ち止まる)


視線を集める三人は、こちらに気づいたようで、エドガーが片手を軽く上げた。

 ――その瞬間。


「きゃあああっ!」

 黄色い悲鳴が一斉に弾ける。空気が一段階、熱を帯びた。


 道行く男子生徒まで何事かと振り返る中、三人はそんな騒ぎを気にする様子もなく、平然とリリアたちへ歩み寄ってくる。背後で押し寄せる女子たちのざわめきが、波のように後を追った。


 リリアたちも足を進め、やがて正面で顔を合わせる。


「おはようございます。わざわざ出迎えにいらっしゃったのですか?」

 セラフィナがスカートをつまみ、完璧な淑女の礼を見せる。


「ああ。元々セラの送り迎えは俺の仕事だったからな」

 エドガーは短く頷き、爽やかに笑った。

「こいつらも行くって言うんで連れてきた」


 その笑顔に、背後の女子群が一段と騒がしくなる。


「どうせ歩くなら、女の子達と一緒の方が華やかでいいしな」

 軽口を挟むのはカイだ。水色の髪と瞳に合わせたような涼やかな表情が、さらりと決まっている。


 そして―――。


「皆さんと一緒に登校できて嬉しいです。今日から一緒に頑張りましょうね」

 ファルクの純度100%の満面の笑顔。光を受けて輝くプラチナブロンドと赤い瞳が、見る者の視界を一瞬で塗り潰す。


 まさに「輝くような」という言葉そのものだった。

 再び、後ろから女子生徒の悲鳴が爆発する。


「……騒がしい朝ね」

 フィリアが眉をわずかに寄せる。その声音に、ほんのり棘が混じっていたのは気のせいか。


 エドガーが、リリアの隣を歩くエレシアへ視線を向けた。

「……君が、エレシアか?」


 名を呼ばれ、エレシアの肩がびくりと跳ねる。

「ひ、ひゃいっ!?」

 素っ頓狂な悲鳴が上がった。


 エドガーは気にする様子もなく、柔らかく笑う。

「リリアの同室なんだよな? こいつはいい奴だ。仲良くしてやってくれ。困ったことがあれば、俺たちにも相談するといい」


 さらりと、何でもないように。

 その優しい笑顔に、エレシアは固まった。


「え……え……エドガー先輩に……声を……かけていただけるなんて……わ、私……」

 言葉が途切れ、顔がみるみる青ざめる。

「……吐きそう」

「ちょちょちょちょちょちょちょい!?耐えてエレシアさん!」

 感動で潤んだかと思えば、次の瞬間には口元を押さえて前屈みになるルームメイトを、リリアは慌てて支える。


「……どうした? 体調でも悪いのか?」

 エドガーは、ぽかんとした表情だ。


 そんな様子を見ながら、フィリアが半眼で呟く。

「……なるほどね。こういうことを自然に言えるところが、エドガーのモテる理由ってわけか」


 横でセラフィナが小さく咳払いをした。その意図までは、リリアには読み取れない。


 エレシアの背をさすっていたリリアは、ふと視線を感じた。

 そっと周囲を見やると――数人の女子生徒が、エレシアに向けてあからさまな視線を送っている。


 嫉妬、怨嗟、侮蔑。

 混ざり合って渦を巻くその感情は、決して心地のいいものではなかった。


 そんなエレシアを介抱しつつ、一行はようやく歩き出す。魔導学舎の校舎へ向けて、周囲のざわめきを引き連れながら――。




 学生寮はセキュリティの観点から、魔導学舎の敷地内に建てられている。

 全寮制ゆえ、王侯貴族の子息令嬢も寝泊まりするのだから当然の備えだ。


 同じ敷地内といっても、寮から校舎までは徒歩で十分ほど。広大な敷地のせいで、意外と遠い。

 その十分間――八人で並んで歩けば、嫌でも周囲の視線をかっさらうことになった。


 女子生徒の視線は、黒灰色の髪と瞳を持つ長身のエドガー、水色の髪と瞳が涼やかなカイ、プラチナブロンドと赤い瞳の中性的なファルクへ。

 そして男子生徒の視線は、金髪エメラルドグリーンの瞳のセラフィナ、銀髪に薄紫の瞳のフィリア、漆黒の髪と金の瞳を持つアトラへ。三人とも、ため息が出るほどの超美少女だ。


 ――そんな中に並ぶ、リリアとエレシア。

 落ち着かないにも程がある。


「こ、こんなに注目されながら登校するなんて……お腹痛いです……」

 エレシアがそっと腹を押さえる。


「私も……。皆、こんなに目立つんだ……近くにいすぎて気づかなかった」

 リリアも思わず同意する。


 八人の中にあって、自分は平凡な部類――そう自覚するリリアは、肩身の狭さを否応なく感じていた。


 けれど、その注目はどうやら外見だけが理由ではない。

 混ざっている。熱っぽい視線の中に、別の色が。


 ――出戻りのセラフィナとエドガーを品定めするような好奇。

 もっと言えば、不審と軽蔑。


 少なくとも、歓迎の色ではなかった。


 そんな中、歩きながらセラフィナがそっと口を開いた。

 声量は控えめだが、その響きは列の全員に届く。


「……先に申し上げておきますわ。わたくし達にとっての試練は、学舎の授業ではなく――周りの方々との折衝を、いかに少なく済ませるか、です」


 リリアは思わず横顔を見た。完璧な微笑みの裏で、その瞳は冷静に周囲を測っている。


「わたくしとエドガーは、一度この学舎を出た身。それをよしとしない者がいると考えるのは、当然でしょう」


 その厳かな口調に、フィリアが努めて平静な声で返す。

「折衝を少なくするってことは……多少のぶつかり合いは覚悟しろ、って意味?」


「ええ」

 セラフィナは淀みなく頷いた。


「残念ながら、魔導学舎の風土は――力なき者、異なる者への風当たりが強いのです。実力第一主義の冒険者達とは違い、魔導学舎や魔導公会では、魔力より“血統”が重んじられますの。どれほど実力があっても、平民の出自の方へ賞賛の声が上がることは、まずありません」


 そこまで言って、セラフィナの視線が横へ流れる。

 向けられた先にいたエレシアは、一瞬だけ目を見開き――そして、ほんの僅かに顔を伏せた。

 何か、思い当たる節があるのだろう。 


 その時――人垣の向こうから、さらに視線を集める人物が現れた。

 陽光を浴びて輝く金髪、澄んだ青い瞳。長身のその姿は、ただ歩いているだけで周囲の空気を変えてしまう。

 まるで道そのものが彼のために空くかのように、生徒たちが左右に避けていった。


 その男は、迷いなくセラフィナの前へ歩み寄る。

「久しぶりだね、セラフィナ。……学舎に戻ってきてくれて嬉しいよ」

 朗らかな声に、周囲の視線がさらに集まった。


 セラフィナは一瞬だけ瞳を細め、すぐにスカートをつまんで淑女の礼を取る。

「おはようございます、殿下」


 ――そうか、この人が……。


 アルトリア王国第一皇子、レオニス・アルトリア。

 セラフィナの婚約者にして、王位継承権を持つ若き貴公子。


 セラフィナの笑顔は完璧だったが、その奥にあるわずかな緊張と警戒を、リリアは見逃さなかった。


 エドガーの表情も硬くなる。彼に視線を向けた瞬間、レオニスはにこやかな笑みを崩さずに言った。

「セラフィナ嬢の護衛、ご苦労だったね。……エドガー君」


 穏やかな声色に、目には見えない火花が混じる。

 その微細な緊張を、リリアたちは肌で感じ取っていた。





【リリアの妄想ノート】

女子寮を出た瞬間――目の前にイケメン三連星。

エドガーさん、カイくん、ファルクくん……いやもう、眩しすぎて網膜に焼き付きました。

そりゃ女子たちも立ち止まりますよ。むしろ歩けないレベルです。


でも、ただの登校風景じゃ終わらなかったんです。

セラフィナさんの婚約者で、この国の第一皇子レオニス殿下が登場。

登場BGMが聞こえてきそうなレベルのオーラでした。


――あの瞬間、エドガーさんと殿下の間にピリッとした空気が。

笑顔の奥に火花が散ってるのが、はっきり見えました。

これは……学舎生活、授業より人間関係の方が試練かもしれません。


感想とブクマで、この嵐の幕開けを一緒に見届けてください!



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