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第百四十話 推し語り無双と通信魔石〜学園生活の波乱フラグはすでに立っている〜

 夕刻。学舎を出た一行は、すぐ近くの料理屋に腰を落ち着けていた。

 木の卓には煮込みの香りが漂い、ジョッキや盃が並ぶ。ロブは淡々と酒を口に運び、盃を揺らしながら言った。


「エレシアと同室か。それは……都合がいいな」


 リリアは背筋を伸ばし、こくりと頷く。

「はい」


「印象は?」

 ロブの問いに、リリアは思わずセラフィナ、フィリア、アトラと目を合わせ――同時にぷっと吹き出してしまった。


「……何だ?」

 ロブ、エドガー、カイが揃って首を傾げる。


 思い返せば、あの後――気絶していたエレシアは、目を覚ますなり第一声を放った。


「こ、これはとんだご無礼を! 腹を切ってお詫びします!!」


 言うが早いか、どこからともなく取り出した小型のナイフを、ためらいもなく腹に当てる。

「ちょっ!? やめてください! 何やってるんですかっ!」

 リリアは慌てて飛びつき、全力で腕を押さえた。


「推しのセラフィナ様にあんな無礼を……! 生きていてはいけない……!」

「いけません! そんなことで命を捨てようとしないでください!」

 必死に引き剥がそうとしてくる腕を押さえ込み、半泣きで説得するリリア。


 だが彼女は、なおも床に膝をつき、両手で顔を覆って震えた。

「推しの……推しのセラフィナ様に……笑顔で……よろしくなんて……っ!」

 鼻息荒く、上を向いて身悶え。完全に別世界に行っている。


 そこから始まったのは、怒涛の推し語りだった。

「セラフィナ様は気品と実力を兼ね備えた魔法貴族界の至宝……あの目、あの髪、あの手首の返しっ! あれで魔法を放たれたらもう……っ!」

 熱が入りすぎて、手振りが魔法詠唱のようになっている。


 フィリアは最初こそ「演技かもしれない」と考えたが、その全身全霊の取り乱しぶりに即座に撤回した。

 アトラは腹を抱えて笑い転げ、セラフィナは苦笑いで固まるしかなかった。


 思い出すだけで、リリアは肩を震わせる。

「……まあ、そんな感じです」


「なんか、予想外だな」

 ロブが盃を置き、わずかに眉を上げる。


「オタクって、この時代にもいるんだな……」

 カイは遠い目をした。前世を思い出したらしい。


「うむ。昔もアイドルオタクやら声優オタクやらおったが、あやつのオタクっぷりはそれを彷彿とさせた。実に愉快じゃ」

 アトラはからからと笑い、酒をあおる。


「あそこまで七転八倒されては、敵かもと勘ぐっていた自分が馬鹿々々しくなってしまいますわ」

 セラフィナはため息混じりに苦笑い。


「演技かもしれないとも思ったけど、あれはとてもそうは思えなかったわ」

 フィリアは目尻に涙をためながら、またくすくす笑う。


 ロブは皆の様子を眺め、ふっと息を吐いた。

「まあ、とりあえずは直接的な悪意は感じられないということだな。その子が本当にマイラや公会の裏の顔を知らないのなら、それでいい。……とにかく、リリアは彼女の護衛と観察を怠るな。悟られないように気をつけろ。まあ、お前なら大丈夫だろうが」


 その言葉に、リリアは背筋を正した。

「……はい。必ず」


 ――頼られている。

 その事実が、胸の奥でじんわりと温かく広がっていく。

 こんな大事な役目を任せてもらえるなんて……。私を信じてくれている。

 それを裏切るわけにはいかない。全力でやり遂げなくちゃ。


 だが同席している全員は、同じことを思っていた。

(多分……何も考えず、善意100%で接するからだろうな)


食事がひと段落したころ、ロブが盃を置き、全員を見渡した。

「明日からは学園生活に入る。リリアとフィリアは初めての学校だから戸惑うこともあるだろうが、何事も経験だ。見て学べ」


「はい」

 リリアは素直に頷く。隣でフィリアは「わかってるわよ」と肩をすくめた。


「多分、お前らの価値観とは大きく違うものが尊ばれ、逆に蔑まれる場面にも直面するだろう。それにいちいち噛みつくな。心の中で疑問を持て。自分で答えが出ない時は仲間や俺に聞け。集団生活は人を成長させもするが、潰すこともある。全てを自分の糧にするか、足かせにするかは自分次第だ」


 重みのある言葉に、皆が神妙な顔になる。

 その中でカイがぽつりと漏らした。

「俺も学校行く前にそんなふうに言ってくれる人がいたら、もっとましな学生生活だったかもな」


「なら、今がチャンスだ」

 ロブは水色の瞳をじっと見据える。

「前世の記憶を活かしながら、今の自分を輝かせる努力をしろ」


 カイの目が、わずかに赤く滲んだ。その変化に気づいたのはフィリアだけだった。

 テーブルの下で、そっとカイの手に触れる。驚いたカイが視線を向けると、フィリアは頬杖をつき、口元を手で隠しながら――


「がんばろう」


 小さく、でもはっきりと。カイにだけ届く声。

 彼は一瞬目を丸くし、やがてゆるく笑った。フィリアはそっと手を離し、そっぽを向く。耳が赤い。


「儂も学校は初めてなんじゃが。アドバイスはないのかえ?」

 アトラが楽しげに問いかける。


「お前は言っても無駄だろ。どうせ好き勝手やる」

「えー」

「物は壊すな。それだけだ」

「なんじゃ、儂を破壊魔みたいに言いおって!」


 頬を膨らませるアトラの頭を、ロブが右手でがしっと掴む。

「今日お前が開けた学舎の大穴、ギルドが修理代を持つことになったんだぞ。お前は破壊魔じゃない。破壊神だ」

「いたたたた! 利き腕で握るでない! わかったから!」


 ロブの右腕は鋼の剣さえ握り潰す力がある。涙目のアトラをしばらく締め上げてから手を放す。


「それでだ」

 ロブが続ける。

「明日からは俺とこうして一緒にいる時間は減る。学舎の規則に従って、クラスメイトと生活を共にする。もちろん食事も生徒と教師は別だ」


「えっ!?」

 声を上げたのはリリアだけ。


「俺も教師として、お前たちだけに構うわけにはいかん。昼食は同じ校舎内の食堂だから、その時に情報交換だ。そして、これを」


 ロブは掌から七つの小さな魔石を卓に並べた。淡く光を宿す精巧な細工品だ。

「通信魔法が使える。この魔石で相手を念じれば脳内で会話ができる。怪しまれることもない。全員に同時に伝えることも可能だ」


「便利だな」

 エドガーが石を指先で転がし、感心する。


「そいつは肌身離さず持っておけ」

 全員が魔石をポケットに入れたのを確認し、ロブは笑みを浮かべた。

「明日から新生活だ。学びも遊びも全力で味わえ」


(ロブさんが、私を信じて任せてくれたんだ。絶対、応えてみせる)

 リリアは胸の奥で固く誓い、深く頷いた。


 仲間たちも、それぞれの思いを胸に頷き返していた。


 ロブは皆の様子を眺め、ふっと息を吐いた。

「まあ、とりあえずは直接的な悪意は感じられないということだな。その子が本当にマイラや公会の裏の顔を知らないのなら、それでいい。……とにかく、リリアは彼女の護衛と観察を怠るな。悟られないように気をつけろ。まあ、お前なら大丈夫だろうが」


 その言葉に、リリアは背筋を正した。

「……はい。必ず」


――頼られている。

 その事実が、胸の奥でじんわりと温かく広がっていく。

 こんな大事な役目を任せてもらえるなんて……。私を信じてくれている。

 それを裏切るわけにはいかない。全力でやり遂げなくちゃ。


 だが同席している全員は、同じことを思っていた。

(多分……何も考えず、善意100%で接するからだろうな)


 食事がひと段落したころ、ロブが盃を置き、全員を見渡した。

「明日からは学園生活に入る。リリアとフィリアは初めての学校だから戸惑うこともあるだろうが、何事も経験だ。見て学べ」


「はい」

 リリアは素直に頷く。隣でフィリアは「わかってるわよ」と肩をすくめた。


「多分、お前らの価値観とは大きく違うものが尊ばれ、逆に蔑まれる場面にも直面するだろう。それにいちいち噛みつくな。心の中で疑問を持て。自分で答えが出ない時は仲間や俺に聞け。……それともう一つ」

 ロブの視線が鋭くなる。

「お前たちは強い。それが時に、同級生の嫉妬や敵意を呼ぶ。自覚しておけ。無自覚に力を見せつけるのは、刃を抜いて街中を歩くようなもんだ」


 重みのある言葉に、皆が神妙な顔になる。

 その中でカイがぽつりと漏らした。

「俺も学校行く前にそんなふうに言ってくれる人がいたら、もっとましな学生生活だったかもな」


「なら、今がチャンスだ」

 ロブは水色の瞳をじっと見据える。

「前世の記憶を活かしながら、今の自分を輝かせる努力をしろ」


 カイの目が、わずかに赤く滲んだ。その変化に気づいたのはフィリアだけだった。

 テーブルの下で、そっとカイの手に触れる。驚いたカイが視線を向けると、フィリアは頬杖をつき、口元を手で隠しながら――


「がんばろう」


 小さく、でもはっきりと。カイにだけ届く声。

 彼は一瞬目を丸くし、やがてゆるく笑った。フィリアはそっと手を離し、そっぽを向く。耳が赤い。


「儂も学校は初めてなんじゃが。アドバイスはないのかえ?」

アトラが楽しげに問いかける。


「お前は言っても無駄だろ。どうせ好き勝手やる」

「えー」

「物は壊すな。それだけだ」

「なんじゃ、儂を破壊魔みたいに言いおって!」


 頬を膨らませるアトラの頭を、ロブが右手でがしっと掴む。

「今日お前が開けた学舎の大穴、ギルドが修理代を持つことになったんだぞ。お前は破壊魔じゃない。破壊神だ」

「いたたたた! 利き腕で握るでない! わかったから!」


 ロブの右腕は鋼の剣さえ握り潰す力がある。涙目のアトラをしばらく締め上げてから手を放す。


「それでだ」

 ロブが続ける。

「明日からは俺とこうして一緒にいる時間は減る。学舎の規則に従って、クラスメイトと生活を共にする。もちろん食事も生徒と教師は別だ」


「えっ!?」

 声を上げたのはリリアだけ。


「俺も教師として、お前たちだけに構うわけにはいかん。昼食は同じ校舎内の食堂だから、その時に情報交換だ。そして、これを」


 ロブは掌から七つの小さな魔石を卓に並べた。淡く光を宿す精巧な細工品だ。

「通信魔法が使える。この魔石で相手を念じれば脳内で会話ができる。怪しまれることもない。全員に同時に伝えることも可能だ」


「便利だな」

 エドガーが石を指先で転がし、感心する。


「そいつは肌身離さず持っておけ。ただし注意しろ。強く念じすぎると全員に一斉送信される。授業中に『腹減った』なんて飛ばすなよ。……特にアトラ」

「なんじゃ、儂を食いしん坊みたいに言いおって!」

「違うのか?」

「……否定はせんが!」


 全員の笑いがこぼれる中、それぞれ魔石をポケットに収めた。

 ロブはその様子を見届け、笑みを浮かべる。

「明日から新生活だ。学びも遊びも全力で味わえ」


(ロブさんが、私を信じて任せてくれたんだ。絶対、応えてみせる)

 リリアは胸の奥で固く誓い、深く頷いた。


 仲間たちも、それぞれの思いを胸に頷き返していた。

【リリアの妄想ノート】

エレシアさん……本当に全力のセラフィナ様推しです。

気絶から復活するなり「腹を切ってお詫びします!」って……いやいやいや! それ命懸けすぎでしょ!?

でもあそこまで真っ直ぐ推せるのは、ちょっと羨ましい気もします。


それにしても、ロブさんから「護衛と観察を任せる」って言われた時は、胸がじんわり温かくなりました。

この信頼、絶対に応えます。

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