表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/153

129話 海老男に恋する魔王と弟子の夜語り

 ロブの家の広い庭。


 宴の喧騒から離れ、リリアは一人、子供たちが遊んでいた木陰の方へと歩いていた。


 そこにあったのは、手作りのブランコ。滑車に縄を通した簡素な造りだが、しっかりと枝に結ばれている。木の枝の太さと、ロブの几帳面さが垣間見えるようだった。


 リリアはそれを見上げる。初めて見る遊具だった。だが、どこか懐かしい。三千年前の記憶を辿って、ロブが作ったと聞いている。


 ブランコに腰を下ろし、思考を巡らせる。


 三千年、という響きが、胸を刺した。


 ロブさんは、私と過去のどこかで会ってる。


 それは、私もこれから体験する出来事のはず。でも、その“私”は今の私と同じじゃない。


 

 ロブさんにとって、その“私”と今の私は、本当に同じ存在なんだろうか。


 ……私って、ロブさんのなんなんだろう。


 思考が深みに嵌っていく。ふと、誰かの気配に顔を上げた。


「どうしたの? こんなとこで」


 声と共に、夜の風が揺れた。


 そこに立っていたのは、銀髪の魔王――ライゼ。


「ライゼ様………」


 咄嗟に名を呼ぶ。


 ライゼ様より、私を選んだ。そう聞いた時、うれしかった。でも……それは、たまたま私のほうが先に出会ったから?


 ライゼ様は美しい。強くて、優しくて、年齢を重ねてなお魅力に満ちている。


 そんな女性を、ロブさんが異性として見ない理由があるとすれば――それは、見ないようにしてるだけなんじゃないか。


 自分がそこに割り込んでしまったせいじゃないか。そんな気がして、胸がざらついた。


 沈黙が流れる。やがてライゼは隣のブランコに腰を下ろす。地に足をつけたまま、揺れを作る。


「今日の主役が、何しょげてるのよ。皆、探してるんじゃないの?」


「ライゼ様こそ、こんなところに来てどうしたんですか?」


「私もちょっと、考えごとしたくてね」


 軽く笑って、足元の地面を揺するように足を動かす。


「それより、質問に質問で返さないでくれる?」


 少しだけ意地悪そうに口角を上げる。


 その横顔が、あまりにも綺麗で。


 リリアは、どきりと心臓を鳴らした。


 リリアは目を伏せたまま、ぽつりと口を開いた。


「私、焼きもち焼いてるんです。きっと」


 不意を突かれた言葉に、ライゼが目を瞬く。


「誰に?」


「私に」


「……どういうこと?」


 ライゼが小首を傾げた。明らかに意味がわからないという顔だ。


 リリアは、少しだけ唇を噛んでから、静かに言葉を紡ぐ。


「私、ロブさんの過去でロブさんと会ってるんですけど、その記憶はロブさんの中にはあって、今の私にはないんです」


 ライゼは眉をわずかに寄せる。リリアはそのまま続けた。


「だから、私の知らないロブさんを、未来の私は知っている。それが、なんか……悔しいんです」


 自分でもおかしいと感じているのか、リリアの声はどこか縮こまっていた。


 その言葉を聞いたライゼは、ふっと空を仰ぐ。


「えーっと……でもそれは、あなたもいずれ経験することでしょう? だったら気にする必要ないんじゃないの?」


「そう思いますよね」


 リリアは苦笑を浮かべるように肩をすくめた。


「自分でもなんでこんなこと考えちゃうのか分からないんです」


 夜風が通り抜ける。


 二人の間に沈黙が落ちたが、それは気まずさではなく、優しい静けさだった。


「それに関しては私じゃ力になれないわね」


 ライゼが、ゆるく揺れるブランコの鎖を見つめながら言った。


「ですよね。すみません。こんなこと言っちゃって」


「謝る必要ないわよ。私が聞いたんだし」


 穏やかな声。けれど、そのあとに少し間を置いて、ライゼが言った。


「ねえ、私の悩みも……聞いてもらっていい?」


 リリアは驚いたように目を丸くし、こくりと頷く。


 その仕草に安堵したように息を吐いて、ライゼはぽつりと呟いた。


「私も、嫉妬してたんだよね。あなたに」


 不意打ちのような言葉に、リリアの呼吸が止まった。


「ロブは、あなたのことばかり見てる」


 ライゼは目を伏せる。


「私になんて、見向きもしないの」


 どこか遠い声だった。


「私とリリアと、どう違うのかなって……。もし、リリアじゃなくて私が過去でロブに会ってたら、あいつは……私のことを好きになってたのかなって」


 リリアは言葉を失った。


 本当に、そうなったら――どうなっていたのだろう。


「あれ……? ライゼ様、ロブさんが私のこと……」


「好きってこと? 知ってるわよ。多分、皆」


 さらりと、けれど苦笑気味に。


「その様子じゃ、気付いたのね。ロブは自分からは言わないだろうし。あいつも、ほんと、迂闊よね」


 リリアは何も言えなかった。


 そして、ふっとライゼが肩をすくめた。


「でも、あなたも自分に嫉妬して……なんか、くだらないわね」


 ふたりのブランコが、カタン、と同時に鳴った。


 夜の風が、ふたりの頬をかすめていった。


リリアはまっすぐライゼを見つめた。


「悩んだって意味ないんです。いくら考えても、私たちがロブさんのこと、好きだってことは変わらないんですから」


「……」


 ライゼがわずかに目を見開く。

 そのまま視線を外し、足元の芝を見つめた。


「好き、ね……そうよね。そうなのよね……」


 呟くような声。少しだけ苦笑して、目を細める。


「だったら、今の自分をもっと知ってもらって、好きになってもらうしかないんです」


 まっすぐすぎるその言葉に、ライゼは肩をすくめて笑った。


「……ふふっ。まさか私の教えたことで諭されるなんてね。そのとおりだわ。なにウジウジ考えてたのかしら」


 言いながら、ふと空を仰ぐ。月明かりに照らされるその横顔は、どこか清々しく見えた。


「三年よ」


「え?」


 リリアが思わず聞き返す。


「三年後。すべてが終わったら、私はロブに好きだって言うわ。それまでに、あなたより私のほうがいい女だって気づかせてみせる」


 きっぱりと言い切ったその口調に、リリアは笑うしかなかった。


「う……勝てる気がしません。特に胸の大きさ……」


 ポツリと呟いた言葉に、ライゼが肩を揺らして笑う。


 しばらく二人でくすくすと笑ったあと、ライゼがふと真顔になった。


「ねえ、今気づいたんだけど」


「はい?」


「私たち、ロブのこと好きって、言っちゃってるわよ。内緒のつもりだったのに」


 言われて、リリアは小さく「あ」と声を漏らした。


 指先を口元に当てて、考えるふりをしてから照れくさそうに笑う。


「本当ですね」


 二人の視線が合い、同時に吹き出す。


 ブランコの鎖が、きぃ、と静かに揺れた。


 ライゼは立ち上がると、軽く伸びをした。


「そうと決まったら、明日から忙しいわよ。女を磨いて、強くもなって……今のうちに、いっぱい食べて力つけておかなきゃ」


「はい!」


「リリア、明日もビシバシ鍛えるから覚悟してよ」


「ふふ、望むところです!」


 静かな夜の庭で。

 ふたりの恋する乙女は親友のように笑い合った。


【リリアの妄想ノート】


初めて、ライゼ様と本音で話せた気がする。

強くて綺麗で、いつも余裕がある大人の女性だと思ってたけど……

そのライゼ様も、ロブさんのことで悩んだり、嫉妬したりしてたんだ。


なんだか、ちょっとだけ親近感。


ロブさんの“好き”は、まだ信じられないけど、

それでも、私たちはお互いに笑って、

“同じ人が好き”って言い合えた。


ライゼ様と私、恋のライバルだけど……

きっと、戦友でもあるんだと思う。


ふたりで、明日からもっと頑張ろうって、

ちょっとだけ前向きになれた夜でした。


……感想とブクマ、お願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ