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第125話 弟子たち全員合格、最強師匠の名に偽りなし

 リリアの合格から興奮冷めやらぬ闘技場。

 次に呼ばれたのはエドガーだった。 


 対戦相手は、Bランク《蒼鷹》の剣士。剣歴二十年を超える老練な男で、地に足のついた戦いを信条とするタイプだった。


 そして、エドガー。

 その構えは、まるで鋼のように揺らがない。


「始め!」


 掛け声と同時に、火花が散る。

 剣と剣、まっすぐに正面からぶつかり合った。


 ギン、ギィン……!


 速さは十分、鋭い軌道。互いの呼吸が一瞬も休まらない。

 数合交わした時点で、観客席にいた者たちも気づき始めた。


「……闘気ブレイズ、使ってない?」


 リリアが呟く。


 エドガーは、闘気ブレイズを一切使わず、純粋な剣だけで相手と渡り合っていた。


「ほう……」


 観戦席でロブが腕を組む。


「剣一本で押す気か、あのバカ。まあ――」


 そこまで言いかけて、口元がわずかに緩んだ。


「ゼランの剣を受けてきたからな。あいつに比べりゃ、今の相手の剣なんざ、スロー再生に見えるんだろうよ」


「目が慣れてきたのね。リリアと同じ。彼も成長が早い」


 セレニアが呟く。


 たしかに、エドガーの動きには無駄がなかった。

 動かず、逸らさず、ただ必要なだけ避ける。攻撃は最小限、受け流す時も手首だけで弾く。


 その動きに、対するBランク《蒼鷹》の剣士も少しずつ焦りを見せはじめていた。


 剣筋が読まれている。

 踏み込みが潰されている。


 そう、まるで――

 動きが先読みされているかのように。


 ロブは椅子の背にもたれ、息を吐く。


「数日前までゼランのパワー馬鹿にボコられてたのにな」


「もう、Bランク《蒼鷹》と互角に戦えてる」


 セレニアが、ぽつりと呟いた。


 そして――


 時間切れの合図が鳴る。

 試験官が手を挙げ、声を張る。


「制限時間経過!よって――エドガー・ヴァレンタイン、昇格試験合格!」


 歓声はあがらなかった。

 そのかわり、観客たちは静かに息を呑み、そして――感嘆の視線をエドガーに送った。


 剣だけで、勝ち取った合格だった。




 次にフィリアの試験が始まった。


 対するは、Bランク《蒼鷹》のアーチャー。距離を取り、様子を窺っている。


 フィリアは息を整え、弓を構えた。


「穿て、聖煌連星弓せいこうれんせいきゅう!」


 番えた矢に光が宿り、放たれた瞬間、五条の光となり相手に襲いかかる。

 慌てて避けるが、フィリアの猛追は終わらない。

 立て続けに光の矢を放ち間断なく降り注ぐ。


「う、うわっ、まっ……待って! 降参っ! 降参します!!」


 相手のアーチャーは慌てて両手を上げ、地面にへたり込んだ。顔は青ざめ、息は荒く、汗が顎から滴っていた。


「勝者、フィリア・フィンブレイズ! 合格!」


 試験官の声と同時に、観客席から大きな歓声が上がる。


「やったぁっ!」


 セレニアが思わず立ち上がり、歓喜の声を上げる。目元はゆるみ、肩の力が抜けていた。


 ロブが口の端を持ち上げる。


「前は一度に三本までしか撃てなかったが……五本までいけるようになったか。短期間で、閃気術の腕もずいぶん上がってるな。格上に見事に競り勝ったぞ」


 アトラが笑いながら肩を竦めた。


「セレニアの親バカ、炸裂じゃの。まあそれは抜きに大したものじゃ」


 四人目に呼ばれたのはカイだった。


 のだが、彼の試験は他の受験者とは些か様相が違っていた。


 受験者や観覧席の冒険者がにわかに闘技場の二人に注目する。


 対するは、Aランク《白狼》に所属する若き魔法剣士。銀髪を後ろに束ね、深紅の目が鋭く光る。華奢に見える体躯には無駄がなく、淡い青の戦装束は汚れひとつなく整えられている。

 年は若い。だがその立ち姿には、歴戦の冒険者としての威圧と風格が宿っていた。


「ほう、魔族か」

「さすがバルハルト支部ね。観覧席にも魔族の冒険者がちらほらいるわ」


 ロブとセレニアが見下ろしながら言う。

 中立都市たるバルハルトでは、北の魔王であるライゼのお膝元であることもあって魔族が市民権を得ていた。


 しかし、注目されているのは彼が魔族だからではない。

 

 試験開始の合図が鳴る。


 両者はほぼ同時に動いた。


 氷と雷の魔力がぶつかり合い、闘技場の中心で炸裂する。砂塵が舞い、空気がひび割れたような音が響いた。


雷迅斬ライトニングエッジ!」


 カイの雷が瞬く。鋭い軌道を描いて突き進んだ電撃を、相手は剣先で弾く。


氷嵐裂斬グレイシャルスプリット!」


 凍てつく風が斬り返す。カイは跳躍しながらかわし、空中から撃ち返す。


雷迅斬ライトニングエッジ!」


 雷撃が再び地面を裂いた。観客席からどよめきと歓声が巻き起こる。


「カイ様ーーーっ!」


「ふたりとも顔が良すぎる!」


「この試験、眼福すぎる!」


 昇格試験は、観客たちの中で“イケメン対決”と化していた。


「………俺の時と大違いだな」


 エドガーが腕を組んで口を引く付かせる。


「人気俳優の舞台を観劇してるみたいですわね」


 周囲の女性たちに呆れた表情を送るセラフィナ。


「なんか、人多くなってません?」


 リリアがキョロキョロと観覧席を見るが、彼女の言う通り、いつの間にか観覧席の観衆が明らかに増えていた。それも若い女性ばかりである。


「きゃー!!」


「二人とも頑張ってー!!」


「でもでも怪我しないで!イケメンが傷ついたらお姉さん悲しい!」


「………うるさ」


 フィリアが両手で耳を押さえ不機嫌に毒づく。聴覚の優れたエルフにはうるさすぎるらしい。


 もっとも、フィリアが不機嫌なのはそれだけではなさそうだが。

 

「……どっちが勝っても黄色い歓声じゃな」


 アトラが呆れながらも、どこか楽しげに口元をゆるめる。


「女ってのは三千年経ってもイケメンと甘いものには目がねえな」


 ロブが面倒くさそうに耳を押さえる。


 会場はさながらアイドルのコンサートのようだったが、この二人の戦いは今試験の中でもトップクラスにレベルが高く、容姿以外に注目している冒険者達も多かった。


 カイが雷の剣で突き、相手の魔法剣士が氷の盾で守る。火花のように閃く剣の動きと、魔力の衝突音が幾度も響く。


 しかし、どちらも決定打を与えられないまま、時間が過ぎていった。


 そして――


「そこまで! カイ・アークライト、合格とする!」


 試験官の声が場を収めた。


 カイは息を弾ませながらも静かに礼を取り、対戦相手も剣を収めて一礼する。


 言葉はなかった。だが、剣を交えた者同士にしか伝わらない、確かな敬意がそこにあった。


 その静かなやりとりに――


「ふたりともすっごくカッコよかったーっ!!」


「イケメンは正義だーっ!」


「二人とも優勝!!」


「優勝ってなに!?」


 リリアが思わずツッコんだ。


 観客席からの嵐のような黄色い歓声と拍手に、カイも相手の剣士も少しだけ照れくさそうな顔を見せ――そして、ほんのわずかに笑った。



 そして、最後に名前を呼ばれたのは――セラフィナだった。


 闘技場の隅にいた彼女が、静かに立ち上がる。その一歩ごとに、場の空気が引き締まっていく。


 対峙するのはAランク《白狼》の女アサシン。細身の体躯に黒革の軽装、眼光鋭く、踏み込みの鋭さと殺意だけで己を語るような女だった。


 試験官が合図を出すより先に、観客たちの目が研ぎ澄まされた。


「開始!」


 その瞬間、女アサシンが爆ぜるように間合いを詰める。迷いなく、鋭い一閃がセラフィナの喉を狙って跳ぶ――


 が、その刹那。


 眩い光が、セラフィナの周囲にふわりと咲いた。


 展開されたのは光の防護結界。それは単なる守りではなかった。触れた瞬間、アサシンの身体が吹き飛ばされる。


 さらに――


 結界から伸びた光の帯が、彼女の四肢に絡みついた。


「なっ……ぐ、ぅっ……!」


 身をよじろうとした次の瞬間、その光が眩く弾けた。電撃だ。全身を貫いたそれに、アサシンはその場に倒れ伏した。


 完全なる――無力化。


 そして、試験官の驚愕した声が響く。


「セラフィナ・ルクスリエル、合格!」


 静寂。


 次の瞬間、どよめきが弾けた。


「な、なに今の……!?」


「詠唱もなく展開して、拘束して、痺れさせて……!?」


「Aランク《白狼》を一発ってまじかよ……!」


 後ろで見ていたリリア、エドガー、カイ、フィリアも揃って驚きの表情を浮かべ固まっていた。

 

 闘技場の上段。ロブが、顎に手を当ててうなる。


「……あいつ、オリジナルの魔法を作りやがったな。しかも開始前から構文を織り込んで相手に悟らせなかった」


 セレニアが腕を組んで、険しい目で呟く。


「結界と拘束と麻痺。別々の魔法を連続で発動させたんじゃなくて、全部ひとつの構文で繋いでた……そんな魔法、聞いたことないわよ」


 アトラは、ぽかんと口を開けたまま、呆れたように笑う。


「発想力の勝利じゃの。あんな複雑な術式、十五の小娘が使えるとはのう……いやはや、末恐ろしいわい」


 倒れたアサシンに試験官が駆け寄る中、セラフィナは結界を解き、静かに一礼した。


 彼女の足取りは、どこまでも優雅で、迷いがなかった。


 この瞬間の舞台の主役は間違いなくセラフィナだった。


 そして――


 これにて、五人の弟子全員が、正式に昇格を果たした。


 その実力もさることながら、観客席からは彼らを導いた男への視線も注がれていた。


「海老男……とんでもない奴を育てたもんだな」


「全員合格の上に成績上位って、冗談じゃないぞ……!」


「ねえ、あの人カイ君のお師匠さん?あの人もちょっと格好いいかも」


 そんなささやきに、当のロブは背もたれに深く腰を預け、気だるげに呟く。


「ま、ちょっとは育ったってとこだな」


 アトラが愉快そうに笑う。


「そんなこと言いおって、本当は飛び上がりたいくらい嬉しいのじゃろう」


「………ま、全員合格だし労ってやらんこともない。今夜は奮発してやるか」


「毎晩奮発してる気がするんだけど………」


 セレニアが頬杖ついて苦笑する。


「おお!儂テルメリア牛でバーベキューがしたいぞ!村の者も呼ぼうぞ!」


「ちょ、宴会はもうしねえよ!」


「良いではないか。可愛い弟子たちの昇格祝じゃ」


「お前は食って騒ぎたいだけだろうが!」


 と、アトラに食ってかかりながらロブの頭は早々に祝勝会のメニューを考えていた。


 そして改めて闘技場に視線を落とし弟子たちを誇らしげに見るのだった。


 その中でもひときわ静かに輝いていたのが、セラフィナだった。


 



【リリアの妄想ノート】


皆さん、おめでとうございます!

エドガーさんは剣だけでBランク相手に押し切ってたし、フィリアさんは魔法の光で降参させてたし、カイくんは……なんかずっと黄色い声援に囲まれてた気がするけど……ちゃんと戦ってたし!


でも、何よりセラフィナさんがやばかったです。

Aランクのアサシン相手に、たった一撃で勝負を決めちゃって……あの魔法、絶対えげつないやつです。


全員合格できたの、ほんとにロブさんとアトラさん、セレニアさん、ライゼさん、ゼランさんのおかげです!

これからも“ロブさんの弟子”って胸を張って言えるように、頑張ります!


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