第123話 海老男の弟子、昇格試験で無双、そしてリリアブチ切れる
午後の陽光が、試験場の白い砂地を照らしている。
整備された一キロの直線コース。試験官の号令とともに、若き冒険者たち十数名がいっせいに飛び出した。
最前列を滑るように駆けるのは、エドガー。
剣のように無駄のないフォーム。肩や膝の動きに乱れはなく、腕の振りもまっすぐ。特別な才能ではなく、地道な訓練が滲んだ走りだった。
その横をリリアが駆ける。草の上、野の中を日常的に駆けてきた身体。地面をしっかりと掴む足運び、息はまだ上がっていない。
(いける。これなら……!)
眩しげな陽射しの中、リリアは前を見る。自分の位置と、走りの感覚だけに集中していた。
そしてフィリア。エルフ特有の体幹の安定感を見せつけるような柔らかいフォームで、あえて誰にも合わせずマイペースに走っている。
「一キロ……長いなあ。まあ、森の中じゃこれくらい普通だけど」
淡々と、それでいて力強く。フィリアの小さな背中が砂の上を軽やかに進んでいく。
一方、その後方。
「はぁ……はぁ……! くそ、走り込んどけばよかった……!」
カイは顔をしかめながら歯を食いしばっていた。
明らかに前世の引きこもりな性格が響いている。スタミナ切れが近い。
それでも彼は、魔法には頼らなかった。自分の足で走り抜けると、最初から決めていたからだ。
そして、そのさらに後方。
ひときわ肩を落とし、膝に手をつきそうな勢いで走るのはセラフィナだった。
「……ゼェ……はぁ……なんで……なんでこんなことを……!」
砂を踏むたびに足がもつれそうになる。完全に悲鳴を上げている体力。
だがそれでも止まらず、一歩ずつ前に進んでいた。
その様子を、コース外から見守る師匠たちの姿があった。ロブ、アトラ、セレニアの三人である。
「セラフィナ、がんばってるじゃない」
セレニアは目を細めながら、少し懐かしそうに呟いた。
「ふふ、あれでも魔法は一級品じゃし。体力なんぞあとからついてくるものよ」
アトラが面白そうに笑う。
ロブは腕を組み、表情を変えずに全体を眺めていたが、静かに口を開いた。
「……走り込みは前時代的な気はするが、体力は必須だからな。これがすべてじゃない。全力で挑んでくれりゃそれでいいさ」
まるでセラフィナをかばうような言い方だった。
「弟子に甘いわね」
セレニアが笑うと、ロブは軽く肩をすくめた。
それぞれの身体能力と、それぞれの矜持。
第一試験──走破テストが、幕を開け――やがて全員がゴールに到達し、結果が発表される。
◆走破テスト(全17名)
1位 エドガー
2位 リリア
3位 フィリア
9位 カイ
17位 セラフィナ(完走はした)
走破テストの熱気も冷めやらぬうちに、第二の試験――剣術テストが始まった。
会場には、木剣を携えたベテラン冒険者たちがずらりと並ぶ。各受験者は、その中の一人と一対一で向き合う形になる。
ルールは単純。三分間、木剣での打ち合い。倒せば加点、持ちこたえれば合格。ただし、明らかな力量差を見せられれば不合格もある。
そして、棄権も認められている。
「では、始め!」
合図とともに、まずエドガーが一歩前へ。
対面したのは屈強な中年冒険者。腕前も相当と見えたが――
「はっ!」
一太刀。まるで風を切るような踏み込みからの一撃。
試験管の剣が中段に構える間もなく、木剣が胸板を打った。
試験管が息を呑んで目を見開く。審判役が手を挙げた。
「一本、エドガー・ヴァレンタイン、合格」
拍手すら間に合わない速さだった。
続いてリリアが木剣を握る。表情は硬いが、その青い瞳は揺れていない。
(……勝てなくても、やるだけやる!)
相手はやや細身の女性冒険者。初太刀でリリアの木剣が押される。重い。腕が痺れる。
だが、ここで逃げるわけにはいかない。
何度も打ち込まれ、体がよろけそうになる。それでも足を止めず、剣を構え直す。息を切らし、汗を額に浮かべながら――
「三分経過!そこまで!」
コールの声に、リリアの膝がその場で崩れた。けれど、剣だけは離さなかった。
「リリア・エルメア、合格」
観客席から控えめな拍手が起こる。リリアはぐっと唇を結んだまま、軽く頭を下げて引き下がる。
三番手はカイ。
体格も剣筋も、相手の方がどう見ても上。だがカイは構える時、ひとつ深く息を吐いた。
(ゼランさんに打たれ続けたんだ。あれに比べれば………)
踏み込まれた瞬間、身をひねるようにして回避。砂埃が舞う。すかさず相手の死角をついて木剣を一閃。
「――一本!」
まさかの逆転劇に、試験官も少し目を丸くした。
「カイ・アークライト、合格」
カイ自身が一番驚いていたが、嬉しさよりもまず、ホッとしたように息を吐いていた。
フィリアも続いて登壇。
剣を構える姿勢にぎこちなさがあるが、目線はしっかり相手を捉えている。
すぐに打ち込まれるが、フィリアは下がらず打ち返す。剣筋は浅く、受けも甘い。けれど、決して逃げない。
(倒れたっていい。でも、足だけは止めない)
三分。ほぼ一方的に押されながらも、最後まで持ちこたえた。
「フィリア・フィンブレイズ、合格」
小さくガッツポーズ。
そして、最後に控えていたのは――セラフィナ。
試験官が名を呼ぶが、彼女はそっと首を横に振った。
「棄権いたしますわ」
震えはない。明確な意志のこもった判断だった。
騒ぐ者はいない。ここでは、その決断もまた「評価」だからだ。
◆剣術テスト(全15名)
合格 エドガー(一本勝ち)
合格 リリア(3分間耐久)
合格 カイ(一本勝ち)
合格 フィリア(3分間耐久)
棄権 セラフィナ(加点なし)
続く魔法試験、第一種目は魔力量の測定だった。
今回はエドガーが不参加を表明。他の冒険者四名も続き、十二名での試験となった。
魔力測定球の上に、一人ずつ手を置いていく。球体の中で淡く光が踊り、数字が浮かび上がる。
人間の冒険者の魔力の平均値は200前後である。
Aクラスの域になれば500以上となり、伝説とさえ言われる。
のだが、この日、新たな伝説が生まれる。
「1024ポイント。カイ・アークライト、合格です」
ざわつく試験場。
「……は?」
フィリアの眉が跳ねた。
「682ポイント。フィリア・フィンブレイズ、合格です」
「ちょ、エルフより魔力高いのあんた?」
「俺はそういう病気だから」
カイが片手をひらひらさせて答える。
「368ポイント。セラフィナ・ルクスリエル、合格です」
「お二人とも……桁違いですわよ…………」
前髪を直しながら、セラフィナは小さくため息をつく。
「156ポイント。リリア・エルメア、合格です」
「最下位だ〜。もっと頑張らなきゃ………」
リリアは項垂れつつも、拳だけはしっかり握りしめていた。
そのやりとりを見ながら、セレニアが肩をすくめる。
「さすがオーバーマナシンドロームね。コントロールもできてるし、フィリアはちょっと運が悪かったかしら」
「エルフの中でも高い方じゃの。まだ若いから、これからもっと伸びるわい」
アトラが笑って頷く。
「結構結構」
「セラフィナも、あの二人がいなけりゃぶっちぎりなんだけどな」
ロブが測定値を見ながら口を開いた。
「Eクラスで三百超えは十分すぎる。リリアは最下位だが……魔法始めてまだ一ヶ月って他の連中が知ったら、椅子から転げ落ちるぞ」
◆魔法テスト①:魔力量測定(全12名)
1位 カイ(1024ポイント)
2位 フィリア(682ポイント)
3位 セラフィナ(368ポイント)
12位 リリア(156ポイント)
不参加:エドガー、他4名
第二種目は、魔力の精密操作――通称“的あて”だった。
浮遊する大小の球体に魔力弾を命中させるテストで、一発ごとに難易度が上がっていく。最後は空中を不規則に飛び回る的を制限時間内に撃ち抜けるかどうか。
「準備できた方から前へどうぞー」
ギルド職員の合図に、リリアが一歩前に出る。
「いきます!」
手のひらを掲げ、青白い魔力がほとばしる。彼女の狙いは正確だった。的が現れるたび、寸分違わず命中させていく。
十発目。空中を縦横無尽に飛び回る最終標的を――
「……えいっ!」
撃ち抜いた。
「10ポイント、リリア・エルメア、合格です!」
「やった! 全弾命中!」
顔を輝かせて、ガッツポーズ。
続いてセラフィナが挑む。慎重な構えで的を一つずつ撃ち抜いていくが――
「残り五秒です!」
「……時間が、足りませんわ!」
惜しくも最終標的は当たらず。
「9ポイント、セラフィナ・ルクスリエル、合格です!」
「合格でも悔しそうじゃのう」アトラが横目で笑う。
「次、フィリア・フィンブレイズ!」
軽い動作で両手を構えたフィリア。魔力弾の速度も軌道も滑らかで、的を撃ち落とすたびに髪がさらりと揺れる。
「10ポイント、合格です!」
「伊達に弓矢使ってないからね。これくらい余裕♪」
そして最後に、カイ。
「始め!」
「……オートエイムは……使えないけど……」
呟きながら、カイは次々と魔力弾を的に叩き込む。最後の一発も冷静に追い詰め――
「8ポイント、合格です!」
「シューティングゲームは苦手なんだよな……」
「可愛げないのう。もうちょっと失敗すればいいのに」
アトラが不満げに口を尖らせる。
「頑張ってるんだから、そんなこと言わないの」
セレニアが呆れたように笑う。
「精密操作はみんなすごいな……今回は的あてだけど、操作の方向によっては、セラフィナやカイのほうが強い場面もあるかも」
ロブが腕を組みながらつぶやく。
「精密操作はイメージが肝だからね。向き不向きはあるわ」
セレニアが同意しつつ、二人の成長に目を細めた。
◆魔法テスト②:精密操作(全12名)
合格 リリア(10ポイント)
合格 セラフィナ(9ポイント)
合格 フィリア(10ポイント)
合格 カイ(8ポイント)
不参加:エドガー、他4名
最後の種目は魔法威力測定試験。
各自、選んだ属性の初級魔法を一発だけ放ち、魔力の強さを数値で測定する。
初級呪文の発動条件魔力は【20〜30】。
合格ラインは【25】。どれだけ集中して魔力を込められるかが鍵となる。
先に試験を終えた受験者のひとりが、炎弾を命中させ、魔力値26を記録した。
的の炭化を見て「おおっ」と歓声が上がる。
「セラフィナ・ルクスリエル!」
呼ばれた名前に、セラフィナがすっと進み出る。
試験場の脇、控えるロブの姿が視界に入った。そのロブが、人差し指を口元に当てる――それだけで、セラフィナには意図が伝わる。
(……詠唱、無しでいきますわ)
無言で集中。水気を纏った冷気が瞬時に形成され、鋭い氷の槍が宙を裂いた。
氷晶槍。
《魔力値:28》
「よしっ……!」
手応えに、セラフィナが嬉しそうに微笑んだ。
周囲の空気が変わる。他の受験者の中で、どよめきが広がる。
「リリア・エルメア!」
その声に応じ、リリアがぴょんと前に出た。彼女も詠唱の構えを取らない。
掌に集まった魔力が、一瞬のうちに火球となって放たれた。
炎弾。
紅蓮の塊が的に命中した瞬間、火焔が広がり、的は灰に変わった。
《魔力値:30》
「対象、焼失!」
「えっ、嘘……!? やった……!」
「リリアさんに抜かれましたわ!? この前は勝ってたのに!!」
「え、えと……筋肉痛のせいですよ、きっと……!」
「お前も筋肉痛だろ」
「フォローになってないんですのよ!!」
「次、フィリア・フィンブレイズ!」
試験管の声がわずかに戸惑う。立て続けの高得点に、試験そのものが揺さぶられている。
フィリアは軽く息を吸って――無詠唱。
風刃。
的に命中した瞬間、それは真っ二つに切断された。
《魔力値:29》
「あっれぇ? 集中が足りなかったかぁ」
「カイ・アークライト!」
ラストは、いつも通り飄々とした顔の少年。
雷針。
詠唱など不要。腕を振り抜いた瞬間、雷光が閃き、的ごと空気を吹き飛ばした。
《魔力値:30》
「対象、消失!」
試験管の声が、今度は明確に熱を帯びていた。
「リリア・エルメア、カイ・アークライト……魔力値30。最大効率での発動は、上位クラスでもなかなか見られん……見事だ」
その評価が場内に響いたとたん、またもや周囲にざわめきが起こる。
「なんなんだよ……さっきからあのガキどもだけレベルが違いすぎる……」
「しかも無詠唱だと………黒狐程度の試験で見られるレベルじゃねえぞ……」
そんな声が飛び交う中、控えのロブたちは淡々と見守っていた。
「さっきから身内と競り合ってるわね」
セレニアが肩をすくめる。
「独壇場じゃのう」
アトラが呆れ混じりに続けた。
「……他の受験者の立つ瀬がねえな」
ロブが苦笑しつつ一言。
「「それな」」
息ぴったりに返す二人だった。
◆魔法テスト③:魔法威力測定(全12名)
合格 リリア(魔力値30・対象焼失)
合格 セラフィナ(魔力値28)
合格 フィリア(魔力値29)
合格 カイ(魔力値30・対象消失)
不参加:エドガー、他4名
そして残る試験は実践形式の模擬試験を残すのみとなった。
夕陽が差し始めた試験場に、やや緊張を含んだ静けさが流れる。
試験官のひとりが前に進み出て、軽く咳払いして声を張った。
「さて。最後の試験は、模擬戦だ」
その言葉に、ざわりと周囲の空気が揺れる。
「内容はシンプル。試験官との一対一の実戦形式だ」
受験者たちの顔に、期待と不安がないまぜの表情が浮かぶ。
「使用武器に制限はない。剣でも、槍でも、拳でも、魔法でも、闘気でも──何でも構わん。自分の全てをぶつけてこい」
試験官の視線が、じわりと受験者全員を舐めるように巡る。
「時間は五分。一本取れば勝ちだ。だが、一本取られた時点で試験は終了。降参してもいい。五分耐えきればそれでも合格とする」
きっぱりと、明快に、迷いのない声。
「対戦相手は、A・Bクラスの現役冒険者──先輩方だ。胸を借りるつもりで、全力を尽くすように」
淡々としたその口調の奥に、火花のような気迫が隠れていた。
「──以上だ。順番に呼ぶから、準備しておけ」
夕陽が長く影を伸ばす中で、いよいよ最後の試練が始まろうとしていた。
試験管が模擬戦の説明を終えた後、弟子たちは一時的に控室に戻された。
場の緊張が少し緩んだその隙間で、リリアが不安げに呟く。
「……Aクラスの冒険者と対決、かぁ。大丈夫かなぁ……私」
隣に立つエドガーが、腕を組んで小さく笑う。
「なに、勝つ必要はないさ。こっちは修行の成果を、全力でぶつければいいだけだ」
「だよな。俺たち、アトラ様とかライゼ様に比べりゃまだまだだけど、最近の成長っぷりは――結構、行けると思うんだよな」
そう言ってカイが自信ありげに胸を張る。
その言葉に、フィリアが悪戯っぽく笑った。
「そうそう。ママにしごかれた分の鬱憤、ここで晴らすチャンスだもんね♪」
「そうですわ。皆様、尊敬すべき先輩方ばかりですもの。例え負けても得られるものはありますわ。……まあ、私は負けるつもりなどありませんけど」
セラフィナはふふんと胸を張るが、その直後、ふと思い出したように人差し指を立てた。
「あ、そういえば……Aクラスでも、ひとりだけ感心しない方がいましたわね」
「あー……あいつね」
フィリアの表情が一瞬で険しくなる。
「この前ロブに喧嘩売ってきた、あの筋肉ゴリラ。……名前なんだっけ」
「えーと……確か……」
エドガーが記憶の糸をたぐるように首をひねる。
その中で、リリアだけがはっきりと名を口にした。
「ザック……さん、ですよね」
「そう、それですわ! ザックという粗暴な方。まあ、いくらAクラスでも、あんな人が試験管に選ばれることは……さすがにないと思いますけれど」
その言葉に、皆が小さく笑い合った。
ふと、カイの脳裏に不吉な予感が走った。
(あれ?これフラグか?)
そして、試験開始の時刻となり、試験官がリストを確認し、名を呼ぶ。
「リリア・エルメア──前へ」
「は、はい!」
静寂が流れる中、リリアが一歩、前に進み出る。
その視線の先、試験場の中央に立つのは──先程話題に登った件の男。
(……………嘘でしょ?)
Aクラスの冒険者、白狼のザックだった。
「マジで当たりやがった!」
カイの絶叫がリリアの耳に届く。
筋骨隆々の体躯。短く刈られた灰髪。右頬を走る傷痕が笑みと共に歪む。
「……こないだの、海老男の腰巾着どもか」
ザックは肩をすくめ、軽く首を回すと、剣の柄を鳴らすように拳を握った。
「運が悪かったな。俺は手加減ができん。五分どころか十秒で医務室送りにしてやる。ま、次があると思って諦めるんだな。……生きてれば、の話だがな」
観戦エリア。ロブがわずかに眉をひそめた。
「ザック……よりによって、あいつか」
隣で腕を組んでいたセレニアが吐き捨てるように言う。
「まったく、いつまで根に持つつもりかしら。子どもじゃないんだから」
アトラが小さく首をかしげる。
「知り合いか?」
「まあな。昔、少し揉めた」
「ふん。まあ、心配いらんじゃろ。リリアは──ちゃんと成長しておる」
リリアの背筋を、冷たい視線がなぞった。
ザックの眼光に晒されて、リリアは喉奥がひくりと震えるのを感じた。足の裏から微かな震えが這い上がってくる。
その気配を嗤うように、ザックが口を開いた。
「イカサマ海老野郎も、そのうち化けの皮が剥がれて、どっかのダンジョンで魔物の餌になるさ。……ま、俺のパーティーで荷物持ちするなら考えてやってもいい。今はちんちくりんだが──何年かすりゃ、夜の相手くらい務まるかもな?」
その瞬間、ロブの声が場に響いた。
「──ザック! それ以上は許さんぞ!!」
普段は冷静なロブの声音に、鋭く感情がにじむ。周囲の空気がぴり、と張り詰めた。
セレニアも無言のまま、視線に剣を帯びさせる。
「部外者は黙ってろ。それともお前が相手になるか?妨害行為はお前だけのペナルティじゃない。この小娘も受験資格を失うぞ」
ザックは不敵に笑う。
ロブが唇を噛んだ。
弟子たち――エドガー、セラフィナ、カイ、フィリアもそれぞれに眉をひそめ、沈黙の中でリリアを見守っていた。
リリアの肩が震える。けれど、それは恐怖ではなかった。
──怒り。
「なんだぁ? 怖くて泣いちまったか? それとも、しょんべんちびっちまったか?」
嘲笑を交えたザックの声に、リリアは静かに顔を上げる。
その双眸に、怯えの色はなかった。燃えるような蒼が、一直線にザックを射抜く。
「……さい」
「……あ?」
「──その下品な口を、今すぐ閉じてください!」
一喝。
声が試験場に響いた。
「私は、ロブさんの弟子です。あの人を侮辱することは──絶対に許しません!」
刹那、二本の短剣が逆手に構えられた。腰を落とした構えから、青白い闘気が閃くように迸る。
空気が鳴った。
十四歳の少女の身体から、信じられないほどの気迫が立ち上がる。
ザックの口元から、皮肉が薄らいだ。
──いよいよ、最終試験が始まる。
【リリアの妄想ノート】
ええと……走って、剣振って、魔法で的あてして……
魔力測って、火球で的を燃やして、ついでにザックさんの言葉にブチ切れて………
あれ……?
……わたし、なんか、試験のたびに感情が爆発してませんか……?
それにしても、ザックさん。
ロブさんの悪口言っただけじゃなくて、よりによって"夜の相手"って……
聞いたみんな、空気止まってたし。アトラさんなんか顔から光消えてたし。
うん、あれはもう、リリアさんブチ切れて当然です。
今まででいちばん怒ったかもしれません。
でも、怖くはなかったです。
ロブさんが、後ろで黙って見ててくれたから。
――私は、ロブさんの弟子だから。
ブレイズでも気迫でも、負けるつもりなんてなかったです。
感想とブクマ、お願いします!




