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第120話 新人パーティー、無双のち全員ダウン。〜黒塊層ダンジョン奮闘記〜

 地下の湿った空気に、熱と雷光が交じる。


 ダンジョン中層。

 光源は限られ、岩肌の天井には不気味な藻がびっしりと這っている。だが――


「リリア、左っ!」


 エドガーの声が飛ぶ。


「はい!」


 ヴェールを纏ったリリアの身体が、重力を無視するように跳ねた。

 瞬間、空気が鳴る。視線すら追いつかない速さで、リリアはオークの懐に飛び込み――


「せいっ!」


 両手の短剣が弧を描く。

 刹那、オークの首元から赤黒い血が噴き出した。


 背後から迫っていた別のオークにも気配だけで反応。リリアの体勢が流れるように反転し、二撃目が腹部を裂いた。


 地響きと共に、巨躯が倒れる。


「エドガーさん、三時方向! 囲まれる!」


「こっちもだ、リリア! 先に減らす!」


 エドガーが跳ぶ。


 剣の刀身に纏うヴェールが、うなりを上げて光った。

 青白い閃気が螺旋を描き、彼の一振りは“群れ”ごと切り裂く力を持っていた。


「そこをどけェェェ!!」


 疾風の踏み込みからの、横一文字。


 オーク四体がまとめて宙を舞い、叩きつけられるように地に転がる。


「――ったく、耐久力だけは一人前だな……」


 刃先を払いながらぼやく彼の背後に、炎が咆哮した。


「《バーン・インフェルノ》!」


 詠唱と同時に、セラフィナの魔術構文が展開される。

 重層的に組まれた円陣が、空間に三重の陣を描いた。


 燃える奔流が突風となって地を舐め、五体のオークを一瞬で炭化させた。


「……焼け過ぎたかしら?」


 汗を拭う彼女の隣を、さらに別の閃光が駆け抜ける。


「こっちの獲物、残しておいてくれないかなぁ!」


 カイが、笑っていた。


 雷を纏う剣が、一瞬でオークの肘を断ち、流れるように回転しながら背中に斬り込む。


 その身の動きはまるで、雷そのもの。


 スパークと共に吹き飛ばされた魔物が地面に転がるや否や、別の矢が風を裂いた。


 ――ズドンッ!


 鋭く放たれた弓矢が、なおも生き残っていたオークのこめかみを貫く。


「回復要らずで倒せるようになったじゃない、みんな」


 遠距離支援を担うフィリアが、笑みを浮かべて次の矢を番える。


 その光景を――岩壁の上段で、腕を組んで見下ろしている者がいた。


「……すげえな、こいつら」


 ロブが、唸るように呟いた。



 バルハルト近郊。〈黒塊層〉と呼ばれる人工ダンジョンの中層域。

 魔石資源を採掘していた旧時代の遺構を再利用したこの場所は、今や大小の魔物たちの格好の巣となっている。


 リリア、セラフィナ、エドガー、カイ、そしてフィリアの五人は――初のダンジョン探索とは思えぬ動きで、次々と魔物を屠っていた。

 魔法と剣技、素早さと連携。そのどれをとっても、今のところロブ達が支援に入る必要はまるでなかった。


 このダンジョン行きの発端は、ライゼの一言だった。


 「流石にギルドをこれ以上留守にはできないから」と。


 大量に溜まった書類仕事と依頼調整の山に業を煮やした彼女は、ゼランと共に一度バルハルト支部へ戻ることにした。


 ギルドマスターがいち冒険者の実地任務に同行するのは、他の冒険者たちへの公平性の観点から原則禁止とされている。


 その決まりに、彼女自身が渋々従った形だった。


 まあ、ゼランの方がよほど渋ってはいたのだが。


 その一方で、リリアたちは今、己の実力を試す初の本格的なダンジョン探索に挑んでいる。


「……フィリアも十分な戦力になってきたけど、他の子たちの成長も異常ね」


 セレニアが感心したように呟く。半ばあきれ、半ば誇らしげな声だった。


「それぞれの能力も高いけど、連携も驚くほどスムーズ。正直ここまで出来るとは思ってなかったわ。ライゼにも見せてあげたかったくらいよ」


「流石にここまでの出来だと、ちょっとだけ可愛げねえな……」


 ロブが苦笑いを浮かべる。


 その隣でアトラがふんぞり返り、したり顔で顎をしゃくった。


「贅沢を申すな。お主が“時間がない”などと言いおったから、あ奴らも必死に喰らい付いてきたのじゃ。……儂とて、伊達や酔狂であの子らを鍛えとったわけではない」


 堂々と胸を張るアトラの言いぶりは、すっかり“名軍師”のそれだった。


「いや、お前の場合……しばいてただけだったろ……」


「何か申したか?」


「いえ、ありがたき幸運にございます」


「よろしい」


 得意げに鼻を鳴らすアトラ。

 だが、彼女の視線もまた――弟子たちの戦いぶりに、しっかりと見入っていた。


 火花が散る。雷が走る。弓矢が正確に射抜き、短剣が肉を裂く。


 それぞれが自らの武器と役割を理解し、的確に動き、時に援護し合う。

 確かに、これは新人冒険者の域を超えていた。


 「……それにしても、少し悔しいわね」


 セレニアが目を細めたまま、ぽつりと呟いた。


「何がだ?」


 ロブの問いに、彼女は視線を逸らさぬまま続けた。


「フィリアは、Sクラス冒険者の私が魔法も闘気も、戦い方も手取り足取り叩き込んだのよ。だから当然、あの子がパーティーの主軸になるって思ってた」


 そこまで言って、セレニアは小さく息をついた。


「でも……見ての通り。今じゃあの子自身が率先して支援に回ってる」


「ほぉ」


 ロブが興味深そうに唸る。


「確かに“フィリアが仕切ってる”ようには見えねぇな。っていうか、全員が同じくらい動けてる。……いや、そもそも誰が引っ張ってるって感じがしねぇ」


「むしろ、全員が主軸って感じじゃな」


 アトラが頷きながら、くいっと指を折った。


「前衛はエドガー、剣の間合いを最大限に活かして先陣を切り、時に押し、時に引く。動きが周囲の連中の呼吸と完璧に噛み合っておる」


「リリアとカイは中衛だな。魔法も使えるし、前にも出られる。どっちもタイミングの読みが上手い」


「で、セラフィナが魔法攻撃と防御、さらに索敵と壁役の補助まで一手に担っておる。あの子は学術の才があるだけじゃない。バランス型として非常に優秀じゃ」


「最後に、フィリアが遠距離から的確にカバー入れてる、と」


 ロブが笑う。


「なるほどな……。見事なまでにバランスが取れてやがる。こりゃあ、お手本レベルのフォーメーションだぜ」


「普通、新人パーティーは、誰かが突出して他が足引っ張るのが定番なんだけど……この子たちは最初から連携がある程度できてたのよね」


 セレニアの声に、アトラが小さく笑って補足した。


「意外にも、その立役者はエドガー坊やかもしれんぞ?」


「エドガー?」


 ロブが眉を上げる。


「うむ。あやつ、前に出ながら常に周囲を見て動いておる。攻めてるようでいて、仲間の位置もカバー範囲も把握しとる。指示も的確じゃ」


 アトラが、岩棚の下を駆ける灰色の髪の青年に目を細める。


「それに、カイやセラフィナもエドガーの動きをよく見て、柔軟に立ち回っとる。リリアに至っては、あやつの動きに合わせて“それ以上”のことをしておるわ。信頼も相当深い」


「で、フィリアは……」


「はいはい、ちゃんと見とるぞ。打ち漏らした魔物、逃げようとしたやつ、味方が手一杯で処理できん敵――全部綺麗に片付けとる。補完能力としては文句なしじゃ」


 アトラがにやにや笑いながら言う。


「まあ、儂が“ちょーっと”しごいてやった賜物じゃがの」


「はは、そりゃ疑いようがねえな」


 ロブが苦笑しつつ頷いた。


 そのまま、戦う弟子たちの姿を見つめながら、ロブはぽつりと呟く。


「……エドガーもセラフィナも、ようやく吹っ切れたって感じだな」


 その言葉に、セレニアとアトラは一瞬だけ視線を交わした。何も言わなかったが、口元に浮かんだ笑みが、それぞれの答えだった。




 オーク掃討作戦、終了。


 中階層の終点――岩肌の広がる空間に、静寂が戻る。


「………これで全部、か」


 ロブが腕を組みながら辺りを見渡す。


 床には倒れ伏したオークの亡骸がいくつも転がっており、剣や魔法の痕跡が随所に焼き付けられていた。


 今回のクエストは、オークの繁殖期に合わせての定期掃討。大量発生を防ぐため、ギルドが年に一度行っているものだった。


「ライゼのやつ、気を利かせたな。あいつらの初実戦にちょうどいい案件を選んできやがった」


「普通、新人には荷が重すぎるやつだけどね」


 フィリアが苦笑する。

 今回のクエストはCクラス中心のパーティーが推奨されるレベルだ。


 Fクラスに上がったばかりの冒険者が受けるようなものでは決してない。 


 ロブ達がそう呟いた瞬間だった。


「い、いたたたたた……っ」


 どこからか、絞り出すような悲鳴。


 振り返ると、リリアが太腿を押さえてしゃがみこんでいた。


「ど、どうしたリリア!? 魔法受けてたか? オークに殴られたか!?」


 ロブが駆け寄るのと同時に、他の弟子たち――エドガー、カイ、セラフィナ、そしてフィリアまでもが、同じようにしかめっ面をしてその場に膝をついていた。


 ロブが目を丸くする。


「おいおい、マジでどうなってんだ。外傷は見当たらないが……内臓か? 毒か?」


「傷の手当て、必要?」


 セレニアもリリアに近づき、心配そうに問いかける。


 が――


「いえ、筋肉痛です……」


 その答えに、場の空気が一瞬で凍りついた。


「………………」


 ロブ、セレニア、アトラ、三人そろって沈黙。


 おまえら、平然と戦ってたじゃねぇか、という顔で弟子たちを見下ろす。


「朝も訓練して、そのまま全力でダンジョン突入じゃからのう……」


 アトラが呆れたように腕を組み、頷いた。


 カイは無言で脚を伸ばしたまま天井を見つめており、フィリアは「お風呂と湿布……」と誰にともなくつぶやいていた。


 セレニアは手帳にメモを取りながらぽつり。


「次はストレッチの時間もちゃんと設けましょうかね……」


「おいおい、敵はオークじゃなかったのかよ」


 ロブは頭を掻きながら、盛大にため息をつく。


 そして、しみじみと漏らした。


「……オークも浮かばれねぇな……」


 アトラとセレニアが


「「それな」」


 と揃って呟いた。




【リリアの妄想ノート】


今日は“初”のダンジョン探索でした!

結果から言えば――完ッッ全勝利!✨✨✨

……だったんですけど、みんな最後は仲良く膝から崩れて「筋肉痛で動けません」って。


いや、私もですけど!?!?!?


ていうかロブさん、何ですかあの「マジかよ……」って顔。

でもでも、ちゃんと褒めてくれましたし!

セラフィナさんもエドガーさんも吹っ切れてて、連携もばっちりで、

なんか……ちょっとだけ、家族みたいで、嬉しかったです。


あとですね、今日いちばん嬉しかったのは――

ロブさんが、すっごくすっごく真剣な顔で、私たちの戦いを見てくれてたこと。

絶対、次も期待されてますよね? うん、がんばろう。


……ただ、明日の訓練は休みにしてくれませんか?

筋肉痛、マジでヤバいです。


感想とブクマ、よろしくお願いします!

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