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【PATRASCHE】使い魔獣パトラッシュ、主を探して  作者: 桜良 壽ノ丞
【Ⅵ】ムクチャカ村の村長~Courtesy costs nothing~

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ムクチャカ村の村長-03(028)



 元村長の言い分に流される事なく、現村長への支持が更に強くなる。弱気だが堅実で、村民のためになる事をやり続ける。


 そんな現職の支持を崩せず、テトラは不満そうにその場から退場した。


「村長、葡萄畑の案、良いと思いませんか?」


「ああ、とても良いよ。宿場として無理のない発展をしていくためには、何かこの村ならではの見どころが必要だと思っていたんだ」


「ソルジャーの行き来だけじゃ整備して貰えないけれど、一般人の往来が多くなれば、きっと整備された街道の維持も行き届きます!」


「地元の食材を使うとなれば、それなりに安定させなければいけない。越冬野菜のための……雪蔵を増やすか」


「うちの氷室を使ってもいい、どうせ夏しか氷は出ないんだ」


 村長が先陣を切るのではなく、皆の意見をまとめ、それを形にしていく。今まで引っ張られるだけで不満のはけ口がなかった村人は、意見をよく聞く村長を慕う。とても健全な姿に思えた。


「なるほど、あのあくどい元村長さんがいなければ、とても住みよい村に思えます。どうやってご主人様になっていただくか……」


 パトラッシュは、幾つかパターンを考えてはいた。


 ・精霊だが、主人が動物アレルギーだったので主従を解消された。


 ・自分は良い魔獣だ。


 ・自分は猫だが長く生き過ぎて何故か喋れるようになった


 そのどれも、言い出すタイミングが非常に重要になる。では、どんなタイミングが良いのか。パトラッシュはジェニス村での出来事を思い出していた。


「正しい事をして、それを認めて頂いた後で切り出すと言うのが一番良いですね。よし、そうしましょう」


 パトラッシュは広場を出て、まずは元村長の屋敷へと向かった。話を聞いただけでなく、実際に悪事を働く姿を押さえなければ、ただの誹謗中傷になってしまう。


「元村長の悪事を、現職に伝えるというのがいいですね。そうしましょう」


 パトラッシュは気づかれずに屋敷の庭に忍び込んだ。たとえ見張りがいたとしても、野良猫が1匹うろついているだけで偵察を疑う事はないだろう。


 少しばかり登るのが下手になった木登りで、屋敷のバルコニーに忍び込む。そこから覗き込むとテトラの書斎が見えた。中ではテトラが熱心に何かを書いている。


 パトラッシュの視力ではそこまでしっかりと見ることは出来ない。ただ、悪態をついて去ったにしては、やけに冷静で真剣だ。


 天窓が開いている事に気付き、パトラッシュが壁をよじ登る。そこから机を見下ろすと、男は村の運営についての資料を読み、箇条書きで何かを書いていた。


「えっと、ダイナ市の物価……葡萄酒は高級なもので3万ゴールドか。うちの村の葡萄は酒用じゃない。食うには絶品だが、葡萄狩りと兼用ならもう少しお手軽な値段、か」


 男は葡萄畑に対し、何かを画策しているらしい。


「石灰質土壌の畑には効くと聞いていたのに、粗悪品肥料だったとは。まったく、国には安全な肥料を検査できる奴がいないのか」


 元村長はろくでもない奴だと思っていたが、葡萄の栽培には詳しいのか、それとも農業に詳しいのか。効率的な肥料を計算し、配合を書き出していく。


 支持者を集め、選挙に挑まなければならないだろうに、一体何をしているのか。パトラッシュはその様子を見ながらうとうとし始め、ふと気付いた頃には夕方になっていた。





 * * * * * * * * *






「駄目だ、そこはそれじゃ上手くいかない! ……いや、普段ならそれでいいんだ、しかし一般人を畑に入れるのなら、それではいけない。いいか、間に合わなくなる! ……来る? それはいいが、誰にも見られるなよ」


 パトラッシュは男が電話をする声で起きた。気付けば天窓に登ったまま3時間が経っている。そろそろ寝床を確保したいところだが、パトラッシュは男の悪事を暴き、村長に伝えなければならない。


 四つ足を踏ん張って一度伸びをし、それから体の毛を舐めて整える。パトラッシュは電話の相手が来るのを待っていた。


 しばらくして、黒づくめの服を着た男が屋敷を訪ねてきた。男だと分かったのは、その革靴のせいだ。いかにも怪しい恰好で、周囲を気にしながら入って来る。


 元村長は玄関まで出迎え、そして男を自室に案内した。


「外は寒かっただろう、紅茶を入れた、温まってくれよ」


「有難う。先程の話だが、上手く村人のアイデアを形にしたいんだ」


 そう言ってコートを脱いだのは……


「おや、村長さん?」


 パトラッシュは意外な人物の登場で目をまんまるに見開く。村長にとっても元村長にとっても、互いに次期村長を狙うライバルのはずだ。その2人が何故会っているのか。


 しかも元村長は騙す為に村長を招いた訳ではなく、村長も邪魔者を消しに来たようでもない。紅茶に毒でも入れたのか……気付かない村長はゆっくりとソファーに座り、寛いでいる。


「テトラ、先ほどの案だが、どうすればいい」


「まず近隣の町や村で、害虫の話を仕入れる所から始めるべきだ。この村は今まで訪問者が少なく、害虫が入って来る心配はなかった。しかし、人の往来が増えれば、そこに紛れ込んで入ってくる」


「他所の村や町で流行った葡萄の病気や害虫の情報を集め、対策するのが先、ということか」


「ああ。次に葡萄酒の事だが、不味ければ何にもならない。まずは葡萄酒に適しているかを先に試す方がいいだろう」


 元村長は、実に的確なアドバイスを送る。村長よりも村長らしく、頼りになる。罠に填めようとしているかと疑うが、言っている事、真剣な表情、両面においてそうでもない。


「倉庫には今年収穫した分がある。少量なら葡萄酒にしている家庭もあるし、やってみよう」


「他所の高級酒や手頃な価格のものと、皆で飲み比べるべきだな。この村は贅沢を知らん。贅沢を知る者に飲ませなければ」


「ああ、分かった。オーナー制度については概要を急いでまとめる。決める前に国に相談すれば、決まりを守るというイメージも良い。来年中には募集を掛けたい」


「その点は俺が役に立つ。親父の時の伝手は今でも使える」


 村長と元村長は、政策で言い合ったり、陰で悪口を言っていた時とはまるで違った。互いが互いを信じ、協力している。


 パトラッシュは村長に元村長の悪事を伝えるため、この場所にいる。しかし、言った事や噂以外に何も証拠はなく、悪い事をしている瞬間は掴めなかった。


「有難う。いつも助かるよ、村を良くしたいとは思うが、俺はこの通り、人をグイグイと引っ張っていくタイプじゃない。水源の枯渇の時も、出回っていた肥料が合わなかった時も、テトラが動いてくれたから……」


 いつも、という言葉にパトラッシュは引っ掛かりを覚えた。


「よしてくれ。俺は親父たちの代までの悪しき慣習から、とうとう抜け出せなかった。肥料の件も、親父たちは良いと信じていた。俺もそう聞いて配ったが、結果中身が違った。あれで俺はもう覚悟を決めたんだ」


「今からでも真実を話そう。お前が悪い訳じゃない、悪い連中と手を切るため、国が悪人達の証拠を握るまでの時間稼ぎのため、そう伝えたら誰も外には漏らさない」


「いや。実際に村への納品を認めたのは俺だ。そして畑を壊滅させた。悪徳商人に手を引くと告げた時、井戸に毒を入れられた。また同じことをされては困る。俺はまだ誰に知られることなく、仲間のフリを演じなければ」


 パトラッシュはようやく理解した。


 村長と元村長は、裏で繋がっていたのだ。


 真正面から悪しき政治を正すのは難しい。悪人からの嫌がらせもある。そこで、健全な村の運営に切り替えるべく、友人である今の村長に椅子を譲った。


 そうして自分は表では悪人の仲間を演じ、彼らが捕まるその日を待ち続けている。


 どちらも悪人ではない。村長役と悪役をそれぞれ演じてきただけの、善良な村人だった。

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