〜STORY 37 4月18日 壱 〜
「ふんふんふ〜ん♪今日は〜優希君と〜おっしごと〜♪」
平日の放課後、午後3時を回り少しずつ青い空から夕焼けへと変わっていく時刻となった
そんな空の下、有馬紫織はバイト先の喫茶店【シリウス】までの駅近の商店街の【奏苑通り】にいた
火曜日という週明けであまり好まれていない曜日だが
紫織にとって今日はいつもの火曜日ではない
この日は紫織が恋焦がれる愛しの優希と一緒(飛香もいるが)のバイトのシフトで、今日は店長の片倉から優希と同じ作業をして欲しいと事前に言われていた為、紫織のテンションはとても高く、気分良く鼻歌を奏で【シリウス】までの道のりをスキップしながら歩いていた
「おっはようございま〜す!!」
店に入り先に勤務していた先輩や常連のお客に上機嫌に挨拶をして事務所に入ると店長の片倉涼音が少し頭を抱えながら事務所のテーブルに座っていた
「おはようございます片倉さん!…どうかなさったんですか?」
「ん?あぁ…おはよう有馬。いや何、別に大した問題ではないよ。」
持っていた書類をテーブルに置くと涼音は紫織の方に椅子を向けると少し困った表情を紫織に向けた
紫織もごくっと息を飲んだ
クレームだろうか、それとも暴力団の組員から上納金を要求されたのだろうかとあまり良くない事ばかりが紫織の頭の中に過ってくる
マイナスな事ばかりがよぎる中、片倉はスゥと息を吸い込み
「仁科が体調不良で今日は来れないみたいなんだ」
と、紫織にとって朗報と呼ぶべき事を届けた
その時、紫織の脳内ではゴーンとチャペルの鐘の音色が響いた(因みにチャペルの鐘には邪気や災難を追い払い、幸せを呼び込む力があると言われている)
「ふっ…なんだ有馬。仁科が来れないことが嬉しいって表情だな?」
「そ、そんなことないです!!いくら仁科さんだからってそんな失礼な事思わないですよ!!」
紫織は優希との仲を邪魔する存在がいなくなって嬉しさのあまり弾けそうになる表情と飛香が来れないことが残念という表情が同時に出てきそうになったが瞬時に考えてる事を片倉に見透かされた紫織は顔を引き締め咄嗟に嘘をつく
「ならそこにある鏡で自分の表情を見てみろ」
涼音に促され紫織は事務所に置いてある姿見鏡で自分を見てみると
鏡には満面とまでは言わなくても他人から見ても嬉しそうな表情をした紫織が映し出されていた
仲の良い友達や家族に見せたら「あれ?紫織嬉しそうだけどなにかいい事でもあったの?」と聞かれんばかりの笑みだった
「(や、やだ!私ったら……でもついついにやけちゃうよ……)」
「ふっ…想い人と一緒に作業が出来るようで何よりだが仕事は仕事だ。節度は守ってもらわないと困るぞ?足が地につかない状態で作業して万が一ミスでもしようものなら今後お前達に作業させるわけにはいかんからな」
「節度を守ったら優希君とイチャイチャしてもいいんですか片倉さん!!」
「少しは話を聞け馬鹿者!!【ゴチッ】
「ひぅ!!」
涼音の話の一部分のみだけに反応し興奮し若干トリップしかけてる紫織の頭に涼音は拳骨を喰らわす
あまりの衝撃からか頭からモクモクと煙が立ち上がっているように見えるが気のせいだろう
「バイト中にイチャつきでもしてみろ!即刻クビにしてやるからな!!」
「ふぁ…ふぁい。ごねんなひゃい片倉さん。」
紫織も涼音のゲンコツがあまりにも痛かったのか少々涙目になってしまっていた
とてもこの身体から繰り出される拳骨ではない
きっと、格闘技か何かをやっていたのだろうかと紫織は頭の中でそう勝手に解釈した
「おはようございます片倉さん。今日もよろしくお願いしますね…って!どうかしたんですか!?」
そんなやりとりをしてると事務所のドアが開き、話の中に出てきた優希が事務所に入ってきたがいつものように入ってきたら店長は超が付くほどの不機嫌で頼りになる先輩が涙目だったら流石に驚かざるを得ない
蹲る紫織に駆け寄り頭をさする優希に紫織は「大丈夫…ありがとう優希君。」と震えた声で回答した
「心配無用だ北条。少々この馬鹿にお灸を据えただけだからな」
頭を押さえる紫織の前で仁王立ちする片倉からは修羅の雰囲気が出ていて、優希はぶるっと寒気がした
そして馬鹿なことはしないと優希は心に誓う。紫織には申し訳ないが…
「そうだ、おい北条。お前確か仁科と家が近所だったよな?あいつ今日休みだからあいつの分もしっかりやるんだぞ?」
「あ、はい。朝のうちから飛香のお母さんから聞いていましたので。任せてください!」
どんと胸を叩き意欲を見せる優希にフッと涼音は軽く笑みを浮かべた
「それならおまえたちもさっさと着替えて早く持ち場に行け。私も仕事が終わったら表に出るからな」
涼音はそう言ってPCデスクの方に向き直り、数字などが多く書かれたモニターにてをつけ始めた
事務所を出て更衣室までの通路を優希と紫織は無言で通っていた
いまだに痛いのか頭を摩ったまま紫織は隣を歩く優希をちらっと見たと思ったらすぐに目をそらすのを何回もやっていた
「(うぅ〜片倉さんのげんこつはいつも痛いなぁ〜。でも今日は仁科さんはいないから優希君ともっと仲良くなるチャンスだし…今日は頑張らないと)」
「それじゃ僕はこっちなのでまた後で」
「えっ?……」
気づくと男子更衣室のドアの前に着いていて優希は既にドアノブに手を掛け中に入ろうとしていた
「ゆ、優希君!!」
まだ何も言えてないのにこのままバイトを始めてしまったら変わらないと思い紫織は唇をキュッと噛み締め優希の服の袖を掴み足止めをした
「どうしました紫織さん?」
首を横にして尋ねる優希に紫織は袖を離し
「き、今日は……仁科さんいないみたいだけど……頑張りまひょうね!!」
大事な部分を噛んでしまい紫織の元から赤くなっていた顔が更にカーッと真っ赤になってしまう
そんな紫織に優希は当初ポカンとしていたがすぐに顔を引き締めて
ってしまった
「はい!!頑張りましょう!!」
と言って優希は更衣室へ入っていった
「あっ……言うこと間違えちゃった……」
紫織はショックで時間ギリギリまで男子更衣室の前に立ち尽くしていた




