第二十一話 一緒に海に行く
そして数日後の、天気の良いある日。
「(ザーーーッ・・・、ザーーーッ・・・)」
「う〜ん、今日は良か〔良い〕天気やね〔だな〕〜」
僕は今、海水浴場に来ている。
余り外には出ない悠ちゃんを、折角だから泳ぎに誘ったのだ。
早く行かないと、盆になるとクラゲが出て来て泳げなくなるので。
彼女が水着を買ったのを見計らい、連れてきた。
また干潮になると、マトモに泳げないので満潮になる時間を選んだ。
それで今は、彼女が海の家に着替えに行っているのを、待っている所である。
・・・
正直言って、有明海は海水浴をする様な海ではない。
遠浅で、日本最大の干満の差のある海だから。
干潮の時は、最低でも数100m以上、先に行かないとマトモに泳げないし。
満潮の時は逆に、場所によっては2,30m行っただけで、海底がイキナリ5,6m落ち込む場所もあるので。
小さい子供は目を離せない。
それ以前に、海水が潟特有の泥水みたいな水なので。
積極的に泳ぐ気にはなりにくい。
なので、地元の人間も仕方なく利用している感じで。
どちらかと言えばプールを使うか、余裕があるなら天草の方で泳いだりしている。
元々、そう言う事情がある上。
近年の海水浴を敬遠する傾向が、それを更に助長させていた。
更に今年は、異常な猛暑であるのと。
平日なのも重なり、海水浴場にはあまり人影が見えない。
「今日も雲仙が、良〜〔良く〕見ゆる〔見える〕」
痛いほどの陽の光の中、それを涼しい海風が中和する様に吹いているので。
何とか、砂浜に居られた。
暑い中、僕は遠くに見える雲仙を見ながら、現実逃避していたら。
「颯ちゃん、待たせてゴメンね〜」
背後から、悠ちゃんの声が聞こえた。
「・・・颯ちゃん、どおかな〜・・・」
「・・・」
振り返り、声の主を見ると。
その姿に、僕は驚いた。
彼女が着ている水着は、ブラがカップの周りをフリル、パンツの上部をフリルとサイドをリボンで飾られた。
上品な花がらの、可愛らしいデザインのビキニであった。
「悠ちゃん、可愛かあ〔可愛い〕〜・・・」
「えっ!」
そんな可愛らしいデザインの、ビキニを着ていた悠ちゃんが。
いつも以上に、何だか可愛く見えた。
「・・・颯ちゃん、それホント・・・」
「う、うん」
「はあ〜、良かった〜♪」
僕が漏らした言葉を聞いて、悠ちゃんが問い掛けると。
半ば呆然としながらも正直に答えたら、彼女が満面の笑みで喜んだ。
「さあ、一緒に泳ご♡」
「ああっ、悠ちゃん、チョット待って〜」
僕の返事を聞いて、ご機嫌になった悠ちゃんが。
イキナリ僕の腕を組み出した。
ただでさえ、柔らかな感触が肘に当たるのが。
水着を着ている為、いつよりもその感触がした。
更に、その他の場所も、彼女の滑らかな素肌が触れて。
僕は、何だか落ち着かなくなっていた。
「ほら、早く〜、颯ちゃん〜」
「ちっ、ちょっとぉ〜、そぎゃん〔そんなに〕引っ張らん〔引っ張らない〕で〜」
ハシャいだ悠ちゃんが、僕を強引に引っ張る。
そんなに引っ張ると、柔らかい物がもっと押し付けられるので。
僕は、色んな意味でヤバくなる。
僕の、そんな状態に気付きもしないまま。
彼女が、僕を海の方へと引っ張って行ったのだった。
**********
「はあ〜、疲れた〜」
「私も疲れたな〜」
あれから二人は、悠ちゃんが言ったみたいに泳いだだけでなく。
二人で海岸沿いで、水を掛け合ったり、逃げる彼女を追い掛けたり。
まるでカップルが海で戯れ合う、テンプレの様な事もした。
幸いな事に、人が少なかったので、そう言った事は無かったが。
人が多かったら、多分、”爆発しろ!”と言った、殺気の篭った視線が僕に降り注がれたであろう。
「ねえ、颯ちゃん」
「ん、なに?」
「・・・あのね、颯ちゃん。
この水着、可愛い?」
「・・・うん、水着もやけど〔だけど〕。
それを着た、悠ちゃんの方がもっと可愛か〔可愛い〕・・・」
「・・・颯ちゃん、ありがとう・・・」
二人が並んで休んでいると、再度、悠ちゃんがそう言い。
僕が、照れながらも正直に答えたら。
彼女が、僕をジッと見詰めてお礼を言った。
「良かった、この水着、颯ちゃんにだけ見せる為に選んだんだよ」
「そうなの・・・」
「うん、一緒に行った叔母さんが。
紐のやつとか、布の面積が少ないのとかを選んできて、大変だったけど。
何とか可愛い、このデザインの水着で妥協させたの・・・」
「母さん・・・」
母さんが、水着を選びに一緒に行ったのは、知っていたが。
まさか、そんな事になっていたなんて、知らなかった。
「良かった、颯ちゃんに可愛いって言われて・・・」
「(ピトッ)」
ウットリとした口調でそう言いながら、悠ちゃんが僕にしなだれて来た。
「颯ちゃん、颯ちゃんの肌、熱くて気持ちが良い・・・」
僕の肩に頬を付け、ウットリした口調のまま、そう呟く悠ちゃん。
そんな彼女の肩を抱くと、冷えた所為だろう。
触れた肌から感じる体温が、何だか少し冷たい。
いくら暑くても、長時間水に浸かったら、体が冷えてしまうだろう。
「(グイッ!)」
「あっ・・・」
「体が冷えとる〔冷えてる〕ね、もっとコッチに来んね〔来てよ〕」
「う、うん・・・」
冷えた体を温める為、僕は悠ちゃんにくっ付く様に言うと。
それを聞いた彼女が、更に僕にくっ付き。
彼女がくっ付いたら、抱いた肩に引き寄せ、更に密着させる。
「颯ちゃん、おねがい頭を撫でて・・・」
「なで・・・、なで・・・、なで・・・」
「ああっ・・・」
僕にくっ付きながら、こんどは胸元にしなだれ。
頭を撫でるように甘えるので、要望通り頭を撫でたら。
感に耐えない様な溜息を漏らした。
「颯ちゃん、気持ち良いよぉ・・・」
僕が頭を撫でていたら、ウットリした声でそう漏らす悠ちゃん。
こうして僕は、彼女の体が温まるまで、しばらくの間そうしていた。
その後も二人は泳ぐことも無く、ずっと一緒に居たが。
何となく、甘い空気が二人の間に漂い。
そして家に帰るまで、甘い空気はそのままであった。
今回でてきた、海水浴場のモデルにしたのは、実は熊本県じゃなく。
有明海の他の地域にある、今は無き某海水浴場です。
その為、海水浴場の詳しい描写は、書きませんでした。




