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短編(ホラー、パニック)

キミは喋る人形

作者: くまのき
掲載日:2018/04/01

「わたし、おともだちがほしいの」


 人形が語り掛ける。

 悩める僕を、励ましてくれているんだね。


「わたし、おともだちがほしいの」


 キミはあの子にとても似ているね。

 僕が今気になっている、あの子。


 いつも、駅で出会うんだ。

 彼女は小さな歩幅で歩いている。

 いつも母親に手を引かれている。

 いや、父親だったかな。

 どちらでも良いか。

 とにかく、大人に手を引かれて歩いている。


 そんなあの子に似ているキミ。

 手の平に乗せて、可愛がってあげよう。


 それでキミは、いつから僕の傍にいるんだっけ?

 思い出せないな。

 まあそれもどうでも良いか。


 キミも小さくて可愛いね。

 手の平に収まるサイズ。

 僕の上着のポケットにでも入ってなよ。


 ほら、今日もあの子がやって来た。

 いつも通りにやって来た。

 いや、いつもとは違うかな。

 今日は一人だ。

 一人で歩いている。


 どうしよう。

 これは、仲良くなれるチャンスかもしれない。

 いつものように傍に親がいたら、素直にお話出来ないものだからね。

 声を掛けてみようかな。

 キミはどう思う?


「わたし、おともだちがほしいの」


 そっか。

 そうだね。

 尻込みしていても仕方が無い。

 話しかけてみよう。


 やあ君。

 今日はお父さんと一緒じゃあないのかい。

 それとも、お母さんと一緒じゃあないのかい。

 そうだ、面白い物を見せてあげるね。


 ほら、僕の右手の人形。

 君にそっくりだろう。

 ポケットに入れておいたから、腕が少し曲がってしまっているね。

 でも、こんなに君にそっくりだ。


 おや、不思議そうな顔をしているね。

 どうしたのかな。

 似ていると言ったのが気に障ったのかな。

 謝るよ。


 そうか、確かに君は人形なんかとは違うね。

 人形は片手で軽々と持ち上げる事が出来る。

 でも君は、こうやって両手でしっかりと支えてあげないとね。


 やあ、あなたはこの子のお父さん。

 お母さんだったかな。

 それともお兄さん。

 まあ良いや。

 どうもこんにちは。


 何故そんなに怒っているのですか。

 落ち着いてください。

 この子も怖がっている。


 そうですね、僕は確かにあなたの知り合いでは無い。

 でもこの子の事は知っていますよ。

 いつも見ている。

 毎朝見ている。


 ああ、あの子を連れて行ってしまった。

 何が気に食わなかったのかな。

 金輪際近づくな、だってさ。

 どうしてだろう。

 キミは分かるかい。


「わたし、おともだちがほしいの」


 そっか。

 また慰めてくれるのかい。

 ありがとう。

 そうだね、また明日になればあの子に会えるよね。


 じゃあ、僕のポケットに戻るかい。

 おや、入らない。

 そうか。

 じゃあ抱っこして帰ろうね。


 そして次の日。

 あの子に会えなかった。

 次の日も、また次の日も。


 何かあったのかな。

 病気とか。


 そう言えば、あの子の家がどこにあるのかも知らないや。

 お見舞いに行く事も出来ない。

 教えて貰っておくべきだったなあ。


 そしてまた会えない日々。

 これでもう何日経つだろう。

 もしかして、もうあの子に一生会えないのかな。

 それは寂しすぎるよ。


 会えない。


 もう、本当にあの子に会えないのか。


 キミはどう思う。


「わたし、おともだちがほしいの」


 何を言っているんだい。

 いつものように、僕を慰めておくれよ。


 ほら。抱えてあげよう。

 両手で、しっかりと支えてあげる。


「わたし、おともだちがほしいの」


 おともだち。

 キミの言う事が理解できない。

 何故僕を慰めてくれないんだい。

 いつものように。

 いつものように。


「わたし、おともだちがほしいの」


 ああそうか、そうだね。

 ただ一方的に慰めを求めるのは間違いだった。

 よく考えれば、キミにも要求という物があって然るべきだね。


 分かったよ。

 僕がキミの友達だ。


「おともだちに、なってくれる」


 ああ、なるとも。

 友達だ。

 そう、友達なら僕を、










「自殺ですか」

「それは分からない。遺書も無い」

 若い刑事の問いに、老刑事が答えた。

「しかし首を吊っていたわけでしょう。彼自身で縄を準備した形跡まであるとの事ですが」

「うむ。それに最近の彼は、精神的に随分と追い詰められていたらしい」

 老刑事はそう言って、一冊のメモ帳を手渡した。

 若い刑事はそれを読む。周辺への聞き込み結果が書いてあった。

「なるほど。人形を見てくれと言いながら、何も無い右手だけを見せていた、と。違法薬物の疑い有りですね」

「ああ。駅で少女に付き纏い、急に抱きかかえ、腕をねじ曲げようともした」

「やはり、錯乱の末の自殺なのでは」

 老刑事は、首を横に振った。

「だが、首に縄のあとが付いていないんだ。代わりに、手で絞められたような痕が残っている。小さな手の痕。小さな、小さな。まるで人形のような」

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