表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/540

47 未来へのヒント


 オスカーが店員に待ちあわせ相手の名を告げると、一番奥の個室に通された。


「ブロンソン氏。アンドレア・ハントからの紹介で来た、オスカー・ウォードだ」

「おう! アンドレアの弟子なんだって?」

 ものすごくガタイがいい、褐色でガテン系の男性だ。タンクトップを着ていても、全身の筋肉の隆起がよくわかる。

(この人が解呪師……?)

 らしくなさすぎて驚いた。


「ああ。師匠には子どもの頃から」

「よし、ならまずは手合わせだな」

(待って。どうしてそうなるの)

「手合わせ……、剣だろうか」

「俺は素手だが。剣と、魔法も使ってもらっていい」

「……師匠の元パーティ仲間で、現役のSランク冒険者だとか」

「おう」

「自分ではまだ役不足かと」

「そうか? 中々おもしろそうだと思ったが」

 ブロンソンが残念そうにしてから、ニッと笑ってこっちを向いた。


「嬢ちゃんはどうだ? かなりの魔法使いだろう?」

 ゾワッとした。まだ自己紹介すらしていないのに、なぜ魔法使いだと、それも「かなりの」だとわかったのかがわからない。


「いえ、あの。私はまだ見習いなので」

「は? どこにこんな、ゾクゾクする見習いがいるってんだ」

「ゾクゾク、ですか?」

「俺はこれでも世界有数のSランク冒険者だ。前衛の格闘家をしている。相手の実力は肌で感じるんだ。

 正直、俺は嬢ちゃんの方が、前に見た今の魔法卿より怖い。勝ち目がないから逃げた方がいいと本能が言っている。

 ゾクゾクするってのはそういうことだ。そういう相手の方が戦って楽しいだろう?」

 血の気が引いた。

 オスカーが庇うように前に立ってくれる。


「っと、アンドレアの弟子が警戒心をむき出しにするってことは、それを隠してるのか? そいつは悪かった」

 降参を示すかのようにブロンソンが両手を上げる。

「俺の特殊技能みたいなもんだ。早々そんなのに会うことはないから、心配しなくてもいい。嬢ちゃん、名前は?」

 答えていいのか迷ったけれど、オスカーの師匠の紹介なのにウソをつくわけにはいかない。それに、気がいい感じもするから、正直に答えることにする。


「ジュリア・クルスです」

「俺はギルバート・ブロンソンだ。高難易度の時には声を……いや、隠しているならダメだな。忘れてくれていい」

 その言葉に胸を撫でおろす。

 オスカーもホッとしたように息をついた。


 ブロンソンのすすめで席についてから、オスカーが本題を切りだす。

「ブロンソン氏は解呪ができると聞いてきたのだが」

「まあ、できるんだよなあ、それが。危険も大きいし面倒だしで、仲間内にしか知られてないんだが。昔惚れた女に拝み倒されたら、ひと肌脱ぐしかないわな」

「師匠に……?」

「おう。かわいい息子の一人の将来がかかってるってな」

「将来……」

 それは二人で歩く未来を想像させる。二人揃ってちょっと照れてしまう。


「ブロンソンさんは魔法使いではないんですね」

「魔道具師にはなれるくらいの魔力量だったんだが、ああいうチマチマしたのは苦手でな。体を鍛える方が向いていて、こうなった。

 解呪は、冒険中に仲間を助けようとして偶然発動させられたんだ。その後、また同じような時に使えるよう、安定させる訓練は受けたが」

「そうなんですね」

「で、一緒に来たってことは、嬢ちゃんか?」

「はい」

「どれ、見てみよう」

 ブロンソンがひとつ息をつき、集中するように目を細める。

 全身に視線を巡らされて、ちょっと落ちつかない。


「……いや、見えないな」

「見えない?」

「呪われているようには見えない。呪いがないと言えばいいか? どこで受けた、どんな呪いだ?」

「えっと……、私自身が呪いを受けたのではなくて。祖先が、世界の摂理と契約したのだと聞いています」

「世界の摂理?」

「はい」

「そうか……、世界の摂理との契約か。悪いな、嬢ちゃん。そのレベルの話は、俺にはどうにもできない」

(まあ、そうよね)

 予想通りの答えだ。


「……どうにも、できないのか?」

 オスカーが残念そうに食いさがる。

「相手が世界の摂理だからなあ……」

「世界の摂理を知っているんですか?」

 少なくとも自分は、前の時に接触するまで知らなかった。


『汝の祖先グレース・ヘイリー。かの者はこの世界を救うために我と契約をした。最も幸福な子孫の幸福を代償に、ヒトが魔法という力を得る契約を』

 世界の摂理はそう言ったけれど、貴族教育や魔法協会で習う話にはない。伝わっているのは原初の魔法使いグレース・ヘイリーの名だけだ。

 魔力開花術式で『世界に摂理あり』と唱えてはいたけれど、それが固有の存在を示すとは普通は思わない。


「一度だけ、ダンジョンの奥でこんな表記を見たことがある。

『この先、世界の摂理の名を知る者の領域なり』

 一歩踏みこんだ瞬間に死にかけた。俺のパーティメンバーはみんなSランクなのに、誰も何もできずに、な。アレはヒトが干渉できるものじゃない」

「……よくわかります」

 自分の時も、誰も何もできなかった。魔法も発動しなかったし、剣で切れる何かでもなかった。結果が先にあって、事象が起きていたような感覚だ。抗いようがない超常だった。

 だから自分には、解呪という発想がなかったのだ。


「何か方法はないのだろうか」

「それは、直接、世界の摂理に聞くしかないんじゃないか?」

「世界の摂理に聞く?」

「おう。世界の摂理との契約ってんなら、それを書きかえられる者がいるとすれば、世界の摂理以外にないだろう?」

 目からウロコが落ちた気がする。その発想はなかった。

「世界の摂理って、こちらから会えるんですか?」

 あの時、突然頭の中で声がして、一度話したきりだ。こちらから何を言っても、それ以降は全く反応がなかった。


「さてな? けど、嬢ちゃんの祖先が契約したってんなら、会う方法があるんじゃないか?」

「確かに……」

「俺は神話レベルの魔物の実在を見たこともある。絶対に不可能、ってわけじゃないと思うんだが」

「そう、ですね……」


 ブロンソンの話を落としこんでみる。

 神話レベルの話。それなら、自分は前に、たくさん見てきた。時を戻す魔法、それに必要な素材。その過程で出会った相手や場所。神話を超えて今がある。

 あの時、世界の摂理の声を聞いた。その実在は知っている。会う方法を探してみる価値はあるかもしれない。


「悪いな、結局、力になれそうになくて」

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

 オスカーも頷いて軽く頭を下げる。

「費用は……」

「いや、いい。アンドレアから前払いされている」

「師匠が……」


「ああ、返そうとは思わない方がいいぞ。この話を受ける代わりに、アンドレアに一日つきあってもらったんだ。返しようがないし、解呪できなかったからといって今更値引きもできない。俺は得したがな」

(代金が一日デート……)

 アンドレア・ハントには子どもがいると聞いている。そのくらい好きだったのかと思うと、ちょっと不憫だ。


「久しぶりにあいつと手加減なしで戦えて楽しかった」

(あ、ただの脳筋だったわ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ