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33 [ルーカス] おもしろすぎる後輩


 ワイバーン素材の運搬がひと段落したところで、遅めの昼食をとりに、慣れたエリアに戻った。

 魔法協会の出入り口近くで壁を向いて肩を落としている後輩を見かけ、気になって声をかける。


「オスカー?」

「……ルーカスか」

 振り返った顔を見て驚く。

「どうしたの? ジュリアちゃんと何かあった?」

「……そう見えるか?」

「うん。初めて好きな子とキスした後……、ううん、違うかな。好きな子に手を出す一秒前って顔してる」

 オスカーが壁に頭を打ちつけた。

 最近、この後輩がめちゃくちゃおもしろい。


「立ち話もなんだから、昼休付きあってよ」

「しかし……」

「どうせそんな状態じゃ戻れないでしょ? ぼくにムリに付きあわされたって言っていいし、軽く済ますから」

 なかば強引に近くの軽食店に連れていく。自分用にワンハンドのサンドと炭酸水を買って、オスカーには落ちつきそうな飲み物を出しておく。


「すまない」

「で、どうしたの?」

「どう……」

 オスカーが真っ赤になってショートした。間違いなく何かあったやつだ。

「え、何。ジュリアちゃんからちゅーでもされた? それともいっそ脱がされた?」

 今度は、高さがある軽食店の机に顔からダイブした。男前が潰れないか心配だ。それにしてもおもしろい。もぐもぐ。


「お前は……、読心術者なのか……?」

「あはは。よく言われるけど、魔法は使ってないよ。

 で、何がどうなって、そうなったの? ゴーサインってわけじゃないから、そんなに煮えてるんでしょ?」

「……どちらも、緊急時の、緊急対応……だとは、わかっているんだが」

 起き上がってきたオスカーがため息混じりに答えて、飲み物を口にする。


「じゃあ、ちゅーは事故?」

「……とは、言いきれない」

「ふーん?」

 そう言いつつ状況を説明してこないのは、何か言えないことが絡んでいるのだろう。彼女の秘密に関わる何かな気がする。


「なるほど? 緊急対応だって頭は理解してるけど、残った感触を忘れられなくて、ジュリアちゃんといると思いだしちゃって、そういう気になっちゃうって感じかな」

「みなまで言うな。……彼女に他意はないだろうから、そこも申し訳ないと思っている」

「え、本気で他意はないと思ってるの?」

「どういう意味だ?」

 オスカーがいぶかしげに眉を寄せる。本気で想定外なようだ。


「その場では確かに緊急だったのかもしれないけど。でも、他の相手……、例えばそこにいたのがぼくだとして、ジュリアちゃんは同じ行動をとると思うのかってこと」

「同じ行動を……」

「待って、にらまないで。想像しないで。現実には起こり得ないって言ってるんだから」

「それは……、そうかもしれないが」

「だからそれは別にいいんじゃない? ジュリアちゃん、オスカーのこと好きすぎるっていつも顔に書いてあるし」

 オスカーが爆発する。おもしろすぎる。この顔を彼女に見せてやりたい。


 顔の位置が下がって、長く息が吐きだされる。

「……本人から言われたい」

「あはは。そこはまあ、がんばって?」

「励まし方が雑だな」

「まあ、オスカーが解決しようとしてることが解決すれば言ってもらえるんじゃない? 探し人は見つかりそう?」

 パッと顔を上げたオスカーが驚きに目をまたたく。

「……何も話した覚えはないんだが?」

「そりゃあ、ぼくは臨時依頼部門にいるからね。お前の依頼も見てるわけだ」

「職権濫用だ」

「いやいや、マジメに仕事してるだけだから」

 反応を見る限り、今のところ結果は思わしくなさそうだ。もぐもぐもぐ。


「それはそれとして、今の問題はシンプルだよね。オスカーが仕事の時に仕事のモードに戻れればいい。それだけの話なんじゃない?」

「そうなのだろうか……」

「それについては、ぼくにいい考えがある。食べ終わったら魔道具店に行こう」

「魔道具……?」

 何をどう使うのかピンときていないようだけど、今はこれ以上言う必要はないだろう。買って使えるようにして渡せばわかるはずだ。

 それより、もっと聞きたいことがある。


「で、煮えたぎった状態で、何をやらかしてきたの?」

 復活してきていたのに、また机に顔が落下した。おもしろい。

「お前にデリカシーはないのか……」

「あはは。それもよく言われる。でもデリカシーじゃ何も解決しないからね」

 もぐもぐもぐ。おもしろいオスカーを眺めながら食べる食事はおいしい。


「……失態と失言だったと思っている」

「ふーん? 迫った上に、ガマンの限界で、手を出しそうだとでも言った?」

 もう机から起きあがってすらこない。しかばねのようなのに、耳まで真っ赤だ。本当に、見ていて飽きなくなった。


「まあ、それも別にいいんじゃない?」

「別によくはないだろう……」

「そう? ジュリアちゃんの方に気がないならヤバいやつだけど、彼女ならむしろ喜んでるんじゃないかな。

 少なくとも緊急っていう名目がつくなら、お前とはちゅーをしてもいいって判断するくらいなんだから」

 何を思いだしているのか、オスカーからぷすぷすぷすとショート音が聞こえてきそうだ。おもしろい。


「後は、運動でもして発散させるしかないよね」

「それは……、少し考えている。普段から朝夕に軽いランニングや筋トレはしているが。加えて休日に剣技を学び直そうと思っていて、今朝、師匠に連絡を送ったところだ」

「運動としてはいいと思うけど。魔法使いなのに剣技の学び直し?」

「魔法では戦えない敵がいた。戦闘の力量は相手の方が上だと感じた。一撃もらったのもあって、もう少し長引いていたら危なかったと思う」

「ああ、ジャア、だっけ? 話は聞いてる。あの魔道具はヤバイね。魔法使いの面目丸潰れ」

 全身鎧のジャアという敵が持っていた剣に魔法が吸われて、オスカーが鉄の剣で相手をするまでは誰もたちうちできなかったと先輩たちが騒いでいた。相当なレアケースではあるが。


「そうでなくても、魔法を使う戦いの幅も広がるだろうし、魔力切れの時にも役立つだろう。もちろん、魔法の腕ももっと上げないととは思うが」

「いいんじゃない? お姫様を守る力がほしいんでしょ? 仕事とは別になるから、人探しもあって忙しくなるだろうけど」

「今は忙しい方がいいかと思っている」

「まあ、そうだね。忙しいと余計なこと考えなくなるもんね」

 そう言われてオスカーは余計なことを思いだしたのだろう。赤くなってうなる。


(ほんと、前とは別人みたい)

 つい笑ってしまう。

 彼女と出会ってから振り回され続けている後輩が、どうにもおもしろくてしかたない。


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