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48 お礼巡りーファビュラス王国、エルフの里、ドワーフの隠れ里


 平日は魔法卿とルーカスを手伝いつつウッズハイムに移動する準備を進めながら、休日に各地を巡る。

 空間転移が魔法卿公認になって動きやすくなった。



 ファビュラス王国のキャンディスとジャスティンのところに顔を出すと、赤ちゃんが産まれていた。ほぼ予定日通りの誕生で、もう二ヶ月だという。元気な男の子だ。

 赤ちゃんと出かけるのに、ミスリルで覆った魔法の絨毯じゅうたんを重宝しているという。


 魔石の魔力で運転しながら、ジャスティンが上機嫌で話してくれる。


「ルーカスさんがお披露目を提案してくれて、そこに先代の魔法卿まで送りこんでくれて。その情報で、情勢を見ていた各国のお偉方がだいぶ顔を出してくれたんです。

 量産のための資金なら出すという人も少なくなくて。おかげで僕が目指していた魔道具立国が叶いそうです」


「それは何より。ぼくらもレジナルドさんと距離をとれて助かったから、ウィンウィンだね」


 眠った赤ん坊を抱えたキャンディスが苦笑する。

「過ぎたことだから笑い話なのだけど、大変だったのよ? 二つめができたら自分が先に買うっていう方ばかりで」

「その筆頭がレジナルド氏でしたね。すごい圧と正論で、立場的にも魔法協会は強いので、国王が自ら見に来ていた国まで譲っていました」

「目に浮かびます……」


「なので、次のひとつはそちらにお譲りすることになっていて。その後は、ある程度数ができてから同じタイミングで各国の希望者に届ける予定です」

「うん。その方が波風立たなくていいだろうね」


「ちなみに、お値段はどのくらいなんですか?」

 普通の魔法のじゅうたんも十分な高級品で、個人で持っているのは上流貴族や成功した商人以上というイメージだ。

 ジャスティンが少し申し訳なさそうに告げた金額に驚いて、飛びあがるかと思った。普通のじゅうたんの十倍以上だろう。


「これでもだいぶがんばっているんです。ミスリルは原価が高くて、加工も非常に難しいので。他の素材もいろいろ試したけれど、重さや強度の面で難しかったんです」

「私は今までどおり、魔法で出すことにします……」


「お披露目してもらったことで、ジュリアちゃんが魔法で出してるのも魔道具って思ってもらえるようになるだろうから、もう少ししたら今までより気軽に使えるようになると思うよ。高級品だから、お金持ち扱いはされるだろうけど」

「怪しい何かが空を飛んで行ったって魔法協会に報告されなくなるのはありがたいですね」


「ねぇジュリア。ジャスティンが、専属の運転手を雇うなら絶対に女性じゃないとイヤって言うのよ。どう思う?」

 少し頬を膨らませてキャンディスが尋ねてくる。ジャスティンが苦笑気味に続ける。

「魔石の方がコストが高くつくので専属の魔法使いを雇いたいのですが、どうしてもキャンディスと意見が合わないんです。僕は女性、キャンディスは男性がいいと」


「キャンディスさんはなんで男性がいいんですか?」

「だって、ジャスティンに惚れない女性なんているわけないもの。あ、ジュリアは別よ? オスカーさんを大好きなの知ってるし、私たちの恩人だし。けど、他の人は、ね?」

杞憂きゆうだと言っているんですけどね」


「逆に、ジャスティンさんはなんで女性がいいんですか?」

「ヘタに男を近づけて、キャンディスに手を出さない保証がないでしょう?」

「その気持ちはすごくわかる」

 オスカーがしみじみと同意する。

(キャンディスさん、かわいいものね)


「あはは。それは平行線だね。思いっきり年配の人とかは?」

「男なんて歳が上がってもオオカミかと」

「あんまり目が見えないおばあちゃまとかならいいかもしれないけれど、そうなると今度は運転ができないでしょう?」

「うん。もうあきらめて魔石を使いなね。ぼくらが来た時くらいは代わってもいいけど」


「客人に運転させるのもどうかと思うので、魔石を使うしかないですかね。そうなるともう少し魔力効率を改良したいところです」

「もう、ジャスティンったら。また魔道具のことで頭がいっぱいになって。他の仕事の方が多いんですからね?」

「そうですね……。がんばります」

 二人の間を流れる空気が暖かい。


 赤ん坊とキャンディスの体調次第だけど、結婚式にはできるだけ行きたいと言われた。移動にはこの絨毯が活躍してくれそうだ。



 エルフの里にも行って、しばらく行けなかったぶんの魔力を多めに魔道具に込めた。エルフに化けるためにリンセも一緒だ。スピラとペルペトゥスも合わせたフルメンバーで、久しぶりにキグナスとサギッタリウスに会う。


「は? ヒトと結婚する?」

 サギッタリウスに思いっきり不審がられる。

「はい。なにも問題がなくなったので」

「いや、あるだろう。恋人として愛でるくらいならまだしも、結婚というのはどうなんだ?」


 キグナスもうなずく。

「エルフの里長がヒトと結婚するというのは前代未聞だな」

(私もヒトだから、本当はヒトがエルフの里長になっている方が前代未聞なのよね……)

 そう言いたいけれど言うわけにはいかない。


 ルーカスがカラカラと笑う。

「ヒトとエルフの友好としてはいいんじゃない? ほら、この前も交流のためにもてなしてもらったし」

「あれは幼いのにずいぶん偉そうなヒトであったな」

「実際、ヒトの中では偉いのであろう」

「ヒトの中だと年齢もかなり上ですしね」


「態度が偉そうなのを差し置けば、今後の距離感については納得いくものであった。必要以上にこちらには立ち入らず、最寄りのヒトの町に友好拠点と交易所を作るのだそうだ」

「うん。その報告を受けて、もう動き始めてるよ。そこの魔法協会の支部長がエルフに対して友好的で、会えるのを楽しみにしてた」

「暇を持て余しておるからな。気が向いた時におもむくのは悪くなかろう」


 結婚式について聞かれたが、正体を隠しているためヒトの方に招待するわけにはいかない。やらないと答えたら、エルフの里でエルフ式の結婚式をすればいいと言われた。帰ってから相談して、新婚旅行の途中の予定に入れることにした。



 ドワーフの隠れ里には、いいお酒をたくさん買って持って行った。レジナルドの装備を頼んだお礼だ。


「ちょうど表向きの拠点でデザインの調整をしていると聞いておる。そちらの仲間たちへは我らが届けよう」

 そうゼブロンが言ったが、ゼブロンも長老も周りのドワーフたちもガブガブと飲み続けている。拠点まで運んでいく分が残るか心配だ。

(追加を買って持ってきた方がよさそうね)


 本来はお金を積んでも作ってもらえないドワーフ装備の優先権を融通してもらったのだ。正規の料金をみんなで割って払ってはいるけれど、お酒で喜んでもらえるなら安いものだと思う。

 結婚する話をしたら、ドワーフたちからぜひ祝いたいと言われた。ヒトの式に来てもらうのは大変だから、こちらも新婚旅行期間に立ち寄ることにする。


「ありがたいけど、新婚旅行もバタバタしそうですね」

「いつも通りだな」

「あはは。もう慣れた感じだね。まあ、これ以上はあんまり予定入れないで、ゆっくりした旅程にしなね」

「ああ、そうだな」


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