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47 彼の実家への挨拶、両親への告白


 オスカーの実家に挨拶に行ったら、これでもかと大歓迎された。


「今日はなんていい日かしら。今か今かって待っていたのよ? ジュリアちゃんが娘になるのを」

「ありがとうございます、お義母様かあさま

「新居は離れを使わせてもらえたらと思っているのだが」

「それはいい考えだわ!」

「自由に使ってもらって構わない。家具や使用人の手配は協力しよう」

「ありがたい」


 オスカーがお茶を一口含んでから続ける。

「もうひとつ、二人に報告と、協力を頼みたいことがあるのだが」

「何かしら?」

「冠位九位を受けてウッズハイムの支部長に抜擢される方向になるかもしれない。部門長の父さんを飛び越えるのは申し訳ないのだが」

「あらあらあら、それはめでたいわね」

「ああ、めでたいな。息子に超えられて嬉しくない親がいるはずがないだろう」


「ありがたい。それで、こっちの魔法協会のことはわからないから、父さん母さんの力を借りれると助かるのだが」

「もちろんだ。お前が子どもの頃に会っている人もいるし、協力は得られるだろう」

「助かる。現支部長はもう少し大きな街への栄転になると聞いたが、外からの着任だからな。部門長を飛び越えるのも、年齢的にも、よく思わないメンバーもいるだろう?」


「そのあたりは問題ないだろう。ウッズハイムはのんびりした場所だからな。出世のためにガツガツしている魔法使いはいなかったはずだ」

「冠位九位を授与されて来るなら、年齢的に尊敬されることはあっても、ないがしろにされることはないと思うわよ?」

「だと、ありがたい」


(さすがオスカー、いろいろ考えているのね……)

 彼の言うとおり、右も左もわからない状態で組織の長になるのだ。簡単ではないだろう。

(慣れるまでは私もできるだけサポートしたいわね)

 仕事上は、自分は見習いを終えたばかりの新人として入ることになるし、どれだけ居られるかもわからない。あまり多くはできないだろうけれど、できる協力は惜しまないつもりだ。

 せめて家に帰ったらゆっくりできるようにできるといいだろうか。彼には負担ばかりかけて申し訳ないと思う。


「ジュリアちゃん、ありがとうね?」

「え、私ですか?」

 このタイミングで義母からお礼を言われる覚えはない。


「この子、やることはキッチリやるし、ストイックに何かを続けるのは得意だけど、出世欲があるタイプじゃないじゃない? というか、欲自体が薄いと思っていたのよね。

 それが、あなたに出会ってから変わった気がするわ。社会的成功とか結婚とか、しなくても好きに生きればいいとは思っていたけど、親としてはやっぱり嬉しいじゃない?」


「えっと……、お気持ちは、ありがとうございます。けど、今回の抜擢はオスカーの実力と人物がちゃんと買われたからで。私はそれが嬉しいというか……、オスカーの全部が大好きなので、彼を彼にしてくれたお義母様かあさまとお義父様とうさまに感謝してます」

「なんていい子なのでしょう! うちに住んでくれるのも、孫も本当に楽しみだわ」


 義母が嬉しそうに、それからもたっぷりもてなしてくれた。

(こんなにテンションが高い人だったかしら……?)

 もっと落ちついているイメージだったから不思議だ。人は状況によって見せる面が変わるのだろう。



 オスカーの実家より、次に向かった自分の家の方が緊張する。


「久しぶりだな、オスカー・ウォード。ジュリアを独り占めしていた気分はどうだ?」

「もう、あなたったら。素直に、長い間ジュリアに会えなくてさみしかったって言えばいいでしょう?」

 いきなりつっかかってきた父を、母が苦笑しつつやんわりなだめる。


「すみません、なかなか帰ってくるタイミングがなくて」

「遠くに行っていたのですもの、仕方ないわ。お勤めお疲れさま」

「おかえりなさい、ジュリア!」

 飛びついてきたノーラをよしよしと撫でる。かわいい。


「ただいま、ノーラ。元気そうで何よりです。こちらには慣れてきましたか?」

 ドラゴンの生け贄にされた彼女を実家で引き取ってもらってから、それなりに時間が経っている。

「ええ! ここはとってもステキね。ジュリアにお部屋を返してって言われても返せないわ」


「ふふ。そのまま使ってもらって大丈夫ですよ。今度ちゃんと引っ越すので、少し荷物を取りに来るかもしれませんが」

「ずっと遠くにいるのが決まったの?」

「いいえ、お隣のウッズハイムに住もうかと」

「そのあたりはゆっくり話せたらと思う」

 オスカーがそう言ったことで、母に応接室に通される。ノーラとはまた後でお茶をする約束をして、父と母とオスカーと四人で座った。


「ウッズハイムとはどういうことだ?」

「自分が……、冠位九位を授与されてウッズハイムの支部長に就任することが内定した。これを機に正式にジュリアさんをもらい受けたい」

 その話がなくても結婚するつもりだったけれど、父の前ではその方が通りがいいだろうと話し合って決めていた。オスカーが言葉と共に丁寧に頭を下げてくれる。


「あらあら、凄いわね。なかなかその歳では聞かない話よ? ねえ、あなた?」

「……そうだな」

「クルス氏の報告によるところもあり、感謝している」

「冠位授与には推薦者が必要だろう? もちろん私ではない。誰だ?」

「魔法卿だ」

 両親が驚きに凍って、少ししてから解凍された。

「なるほどな。ここを出たのは魔法卿付きとしてなのだから、何も不思議はないか」


「ジュリアはどう思っているのかしら?」

 母から尋ねられ、考えながら答える。

「オスカーの冠位授与ですか? もちろん嬉しいです。あってもなくてもオスカーが好きだけど、彼が望んでいたので」

「そう。ウッズハイムに住むのも二人で決めたのね?」

「はい。どちらかというと私がそうしたかったというか……」

 両親にいつか話すと約束していたことを話すなら今日だと思ってここに来た。飛び出しそうな心臓を必死になだめて言葉を選ぶ。


「……前の時に、彼と娘と住んでいたので」

 さっきとは少し違う、わからないことに対する間があった。

「前の時?」

 聞き返してきたのは母だ。思いのほか、落ちついた声をしている。

 オスカーが手を握ってくれる。それに力をもらって言葉を作る。


「ずっと、言えずにいてごめんなさい。私はジュリアであってジュリアじゃないというか……、時間を戻して、ここにいます」

「詳しく聞いてもいいかしら?」

「はい……」

 問い返してきた母の声は優しい。覚悟を決めて言葉にしていく。


「前の時も私は、魔法協会の先輩だったオスカーと結婚して……、ウッズハイムに住んで、娘が一人いました。とても幸せでした。

 けど……、娘の結婚式の日に全てを失って。彼も娘も、お父様たちも……。

 長い年月をかけて方法を探して、オスカーに出会う前まで時間を戻したんです。

 それで……、同じ結末にならないようにいろいろとがんばって……、大丈夫だという確証が持てたから、もう一度、彼と家族になりたいと思っています」


「時間を戻す……、魔法か……?」

「はい。失われていた古代魔法で……、必要な補助素材を集めるのがすごく大変なので、そう発動させられるものではないのですが」

「そう……、ウォードくんと一緒にいて幸せだった記憶があるのね」

「はい。とても幸せでした。……出会い直した今の彼と一緒にいられるのも、本当に幸せです」


 父が一度目を閉じて、それからオスカーを見据える。

「オスカー・ウォード」

「ああ」

「お前はいつから知っていた?」

「……領主邸の任務で、二人で行方不明になっていた時に」

「そんなに前か……。……ジュリア」

「はい」

「なぜ……、こいつには話せて、私たちには言えなかった」

「……ごめんなさい」


「謝ってほしいわけじゃない。理由を聞いているんだ」

「オスカーとは……、あの頃は、距離をとるつもりだったので。なぜそうするのかを説明するのに必要でした。

 お父様とお母様に話せなかったのは……、その歳の娘としてのジュリアを奪ってしまった負い目があったのと、まだこの家に居たかったから……」


「……馬鹿者」

「ごめんなさい」

「時を戻ってきたとしても、ジュリアはジュリアではないか」

「ええ、ほんと。私たちの娘に違いないわ。……辛かったわね?」

「お父様……、お母様……」


 話したら居場所がなくなるのではないかと思って話せないでいた。今となっては、なんでそんな心配をしていたのだろうと思う。

 あふれた涙が止まらない。


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