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39 火口の洞窟探索で服を脱ぐ


 火山の火口の中には真っ赤なマグマが見える。活火山だ。今は半分ほどが埋まっているだろうか。いつ噴き出してもおかしくない。


「フェアリー・プロテクション」

 オスカーが中級の防御魔法をかけてくれて、それから自身にもかけた。

「プロテクション・スフィア」

 球体で包む形の防御壁を重ねがけしてくれてから、火口へと降下していく。急にマグマが飛んできても、安全な場所に逃げられるくらいの時間は稼げるだろう。


「魔力、大丈夫ですか?」

「ああ。あと中級魔法数回程度なら。もし洞窟攻略が難しそうなら、一度戻ってどこかで休めたらと思う」

「わかりました」

 自分が魔法使いではなくなって古代魔法も使えなくなったから、彼に魔力を渡すこともできない。負担をかけて申し訳ないと思うけれど、何度も言われるのを彼は望まないだろうから、ムリをさせないように気を配る以上はできない。


「それらしいのはあそこくらいか」

「ですね」

 洞窟らしく見える場所を示されて、同意を返した。

「マグマの中までは調べられないですが、さすがにそこまで意地が悪くはないと信じたいです」

「ああ。それを考えるのはあの入り口を探索して、それでダメだった時だな」


 マグマだまりの数メートル上にある洞窟に、ホウキに乗ったまま入っていく。奥から赤い光がもれてくるのは、ところどころにマグマや炎があるのかもしれない。


「飛んでいくには狭いか」

 入り口はそれなりの広さがあるように見えたが、すぐに狭くなっていく。一人か二人が歩いて通れるくらいか。高さもあまりないから、ホウキに乗ったまま進むのは難しいだろう。

 オスカーが降りてホウキを消す。


「ある程度は見えるがムラがあるな。ライティング。何があるかわからないから身体強化もかけておこう」

 魔法の光が進行方向を照らす。それから、オスカー自身と自分の二人分の身体強化を唱えてくれた。


(もうあまり魔法を使わせない方がいいわね)

 魔力を増やす方法を教えてからそれなりに時間が経っているから、昔よりは増えているだろう。それでも、ドライアド戦から使い続けて今に至っている。上級魔法を使えば魔力切れを起こすくらいには残量が少ないはずだ。


「だいぶ暑いな。冷やしつつ水分を取れたらと思う」

 そう言ってオスカーがひとくちサイズの氷を出してくれる。

「ありがとうございます」

(使わせないようにって思った矢先なのに、甘えるしかないのが辛いわね……)


 前の時に彼の隣に立っていたのも魔法使いの自分だった。少し先輩の彼に助けられることが多かったけれど、助けることもできた。今のように一方的に荷物になったことはなかった。


(魔法使いじゃなくなるって、こういうことなのね)

 それでいいと言った時は軽く考えすぎていたのかもしれない。が、彼の命と天秤にかけるのだから、重さを実感していたとしても選択は変わらないだろう。


 オスカーがホットローブとジャケットを脱ぐ。同じようにホットローブを脱いだけれど、自分はこれ以上は脱げない。ワンピース型のドレスを脱いだら下着しか残らないからだ。冬素材のドレスは外でも暑かった。この場所だとかなり辛い。


「脱いだ服は私が持ちましょうか? とっさにあなたが動きやすい方がいいと思うので」

「ああ、助かる」

 オスカーの服を預かる。ずしっと重さを感じる大きさだ。ついさっきまで彼が着ていたというだけで愛しい。


「クールローブがほしいですね」

「そうだな。こういう時に対応できる体温調節の古代魔法の便利さを実感している」

「古代魔法、便利なものが多いのに、受け継がれなかったのが残念ですよね」

「そうだな。言語が変わっていく中で次第に失われたのだったか」


「そう言われていますね。イメージしにくくて発動させられる人がどんどん少なくなって、現代魔法に置き換えられなかったものはなくなっていったと。

 便利だけど魔力効率が悪いとか、当時の魔法使いたちが必要性を感じなかった魔法とか、あるいはどうしても置き換えられなかったものとかなのかと」

「なるほどな。現代魔法でも、洗浄の魔法のように、今は昔ほど必要がなくなったからか、魔力の無駄をはぶく観点からか、魔法協会で教えられない魔法もあるしな」


 話しながら探索を進めていく。夢の中の洞窟と違ってそれなりに分かれ道がある。戻れるように印を残しながら進み、マグマだまりや行きどまりで引き返すたびに印を増やしていく。

 ファイアバットやファイアラットなどの炎系の小型魔物がちょろちょろしているけれど、意図的に攻撃してくることはなく、あまり害はない。


 それよりも問題は暑さだ。滝のような汗が流れ続けていて、こまめに氷を口に含むことでなんとかがんばっているけれど、長くいると熱中症になりそうだ。

 お互いに汗を気にしているからか、オスカーとの距離はつかず離れずでいる。


「……上をもう少し脱いでも?」

 オスカーがハンカチで顔の汗をおさえながら尋ねてくる。

「はい、もちろんです。あなたがイヤでなければ全部脱いでもらっても大丈夫です」

「助かる」

 オスカーがシャツを脱いで下着だけになると、引きしまった体のラインがよくわかる。少し着やせして見える方かもしれない。


(カッコイイ……)

 あまり見てはいけないと思うのに、ついちらちらと視線を向けてしまう。続けて肌着も脱いで、ぎゅっと絞ると水分が流れ出る。

(けっこうムリをして……、ひゃああっっ)

 上半身だけとはいえ、完全に露出していると刺激が強い。自分の鼓動が速くなっているのを感じる。顔が熱い。

 力強い腕も胸元も、しっかりと凹凸がある腹部も大好きだ。ずっと見ていたいのと、見てはいけないと思うのとで忙しい。


「……ジュリアの方がつらいんじゃないか?」

「えっと……、はい。どちらが、というのはわからないですが、かなり暑いとは思っています」

「その……、なるべく見ないようにするから……、ドレスは脱いでおくか?」

「え」

 想定していなかった提案だ。明らかに体調を心配してくれてのことなのに、ついドキドキが加速してしまう。


「ムリにとは言わないが」

「いえ。……ありがとうございます」

 彼の言葉に甘えさせてもらうことにする。はしたないとは思うけれど、背に腹は変えられない。ここで外見にこだわってムリをして倒れたら、足手まといもいいところだ。

 それに、彼には昨夜も見せている。暗くてあまり見えないか、明るいかだけの違いだと自分に言い聞かせる。


 しめつけている腰紐を解いただけでだいぶ息をつけた気がした。バサリとドレスを降ろすと、体感がまるで別世界だ。なんでもっと早くこうしなかったのだろうと思う。


「服はまとめてあずかりますね」

「……ああ。頼む」

 オスカーが服を手で差しだしつつも視線を向けてこないのは、なるべく見ないようにするという約束を守ってくれているからだろう。そんな律儀なところも大好きだ。


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