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34 [オスカー] ヨコシマな自分を隠蔽する

※男性的煩悩回です。苦手な方は飛ばしてください。


 危なかった。もし水のベッドを出すのに成功していたら、勢いで押し倒してしまっていただろう。

 ベッドの距離を離したジュリアの方を見ないようにして、暗がりで頭を抱える。


(かわいすぎる……!!!)

 魔法を失っても幸せだと、自分がいない世界はイヤだと、そんなかわいいことを言われて冷静でいられるはずがない。

 彼女のすべてが欲しいが、同時に、彼女を何より大事にしたいとも思う。


(今手を出すのは違うだろう)

 ここまでガマンしてきたのだ。あと少し、本当に幸せにできる時まで、なんとか衝動をコントロールしたい。


(問題は……、この昂まりをどう飲みこむかだな……)

 小屋の作りとして解除しなければ外に出られないし、外は安全ではないから、暗がりの中をランニングしてくるわけにもいかない。


(補助呪文でも考えるか……)

 そう意識をするのに、水のベッドを出すのに成功して彼女に触れるイメージしか浮かばない。打ち消しても打ち消しても、あられのない姿が浮かんでしまう。


「スカートの中から手を入れるのがいいですか……?」

 記憶の中の彼女の声がささやく。そんなことはしていなかったのに、恥ずかしげにスカートを大きく上げる映像が浮かぶ。その先には、耐えられなくなる自分しかいない。


 落ちつこうとしているはずなのに、むしろ加速している気がする。

(こんなことを考えているとは思っていないのだろうな……)

 全幅の信頼を寄せられているのが申し訳ない。が、彼女がかわいすぎるのがいけないとも思う。


(ジュリアに出会う前は淡白な方だと思っていたのだがな)

 時折そういう気分にならなくもなかったが、ただの生理現象だと思っていた。周りがそういう話をしていても聞き流していた。

 なのに、彼女に出会ってからはずっと熱に浮かされているようで、いつでも彼女が欲しくてしかたない。


(待ってくれ……)

 今の流れでいくと、彼女とひとつ屋根の下で耐え続けるという、ある意味では拷問に等しい状況がいつまで続くかわからないのではないか。

 かといって今更、建物を分けるというのも不自然だし、魔法が使えない彼女を一人にはできない。


 彼女の方からは寝返りや布ずれの音はしない。もう眠っているのだろうか。眠っているとしたら、気づかれないように処理できるだろうか。そう思い、なるべく音をたてないように自身に触れる。


「オスカー……?」

 もう少しというところでふいに小さく呼ばれて、ものすごく驚いた。

「もう寝ていますか……?」

 気づかうような、かすかな音だ。なるべく落ちついて聞こえるように答える。


「いや……。どうした?」

「あの……、ただの思い過ごしならいいのですが」

(気づかれたか……?)

 それで嫌われることはないと信じたいけれど、それでもものすごく恥ずかしい。


「私は……、目を閉じると浮かんで眠れなかったので」

(何が? 同じことが? いやそれはないだろう。いやありえるのか? それはもう手を出せということか??)

 脳内で思考が高速で巡る。パニックになっている自覚はあるが、どうにもできない。バクンバクンと騒ぐ自分の心音を聞きながらジュリアの言葉を待つ。


「あの事件の後……、疲れきって倒れるようにして眠る以外には、どうしても寝つけない時期が続いたから。あなたは大丈夫かなと……」

(そっちか!!!!!)

 完全に忘れていた。あの時はショックだったし、彼女に剣を持たせることは今でも考えたくないけれど、上書きされたインパクトが強かった。

(ジュリアが思っているよりずっとヨコシマだからそこは問題ないとは言えない……)


「すみません……、あんな思いをさせたのに、私ばかり、あなたといられることに浮かれていて……」

「……いや。気にしなくていい」

 もっと気が利いた言葉を返したいのに思考がまとまらない。へたに何か言うとボロが出そうなのだ。

(浮かれているのか……。まったく……、かわいすぎる……!)


「それは……、あなたはまだ気にしているっていうことですよね……?」

「そういうわけでは……」

 ジュリアが動いた気配がする。バサリと重い服が降ろされた音がして、軽い布の音が続く。

(待ってくれ。何をしている?!)


 振り返って確かめたいのと、それをしたら止まれなくなりそうな予感とがせめぎあう。身体はずっと熱を持っていて、少しでも彼女と触れあったら思いがあふれそうだ。


(いやそもそもこんな凶悪なモノが彼女に入るのか……?)

 ふいにそんな考えが浮かぶ。そうするものだという知識としたい衝動はあるけれど、サイズ感がムリな気がする。


 かすかな足音が近づいてくる。

「あの。オスカー……?」

「……なんだ?」

 自分の心音がうるさい。彼女の声を聞きとるために意識を向ける。


「やっぱりちゃんと見て触れて確かめてもらった方がいいかなって」

(何をだ?!)

 ひと呼吸置けば傷のことだとわかるのだが、思考が湧いていてまるで違うイメージが浮かんでしまう。

(落ちつけ……、ジュリアの信頼を裏切るわけには……)


 なめらかな指先が手に触れてくる。ゾクッと身体が反応する。

(待ってくれ待ってくれ待ってくれ)

 息が上がりそうになるのを必死にこらえる。


「あの……、怒ってますか……?」

(なぜそうなる?!)

 しょんぼりとした声に全力でつっこみたいのを飲みこんで、彼女に答えられる言葉を探す。

「……いや。思考がまとまらないだけで、そういうわけではない」


「なら……、せめて上を向いてほしいです。背中を向けられているのはさみしいので」

(上……)

 怒っていると思われたのは、彼女の方を向かなかったからだろう。実際はまったく違う理由なのだが、それを説明するわけにもいかない。さみしがらせるのは本望ではないから、上半身を上に向ける。


「本当にもうだいじょ……っ」

 言いかけて固まった。心配そうにのぞきこむ彼女のかわいい顔が近い。そして自分の頭のすぐ横に、薄布一枚でしかおおわれていない、たわわな楽園が鎮座している。瞬時に、彼女の甘い香りに意識が飲みこまれた。


 ジュリアの手で包まれた手が、彼女の下着の中へと導かれていく。柔らかくてすべすべな脚の付け根に指先が触れた瞬間、耐えに耐えてきた熱が暴走した。


(っ……! ……うわあああっっっ、どうする?! どうすればいい??!)

 一気に熱さが引いて冷や汗が出そうだ。幸いというべきか、彼女には気づかれていないように見える。

 彼女の腹部にしっかり触れられるように手が導かれ、ゆっくりと素肌を撫でさせられる。


「どうですか……?」

(やわらかくてなめらかであたたかくて心地よくて、おかしくなりそうだ……)

 そんな感想を言えるわけがない。答えられないでいると、ジュリアの胸が顔に押し当てられる。


(これは忍耐を試されているのか……?)

 もしさっき堪えられたとしても、これには堪えられなかっただろう。

「足りなければ心音も聞いてくださいね。私はそれでだいぶ安心したので……」

(そういうことか……)


 行動する前にそう言ってほしい。が、言われたところで状況は何も変わらなかったかもしれない。彼女の鼓動と自分の鼓動が重なって聞こえる。心なしか彼女の鼓動も速い気がする。

 再び彼女を求める気持ちが加速していく。


(頼むから静まってくれ……)

 彼女はそんなつもりではないのに、ここで手を出すわけにはいかないのだ。それに、まだ片づけられてすらいない。逆にそれが理性を保つかなめになっている気もする。


「……ジュリア」

「はい」

「もう……、本当に、あの件は問題ないから……。かけ忘れていた洗浄の魔法をかけてから休まないか?」

「あ……」

 ジュリアが慌てたように飛びのいて、彼女用のベッドに駆け戻り、毛布代わりのホットローブを頭から被った。


(気づかれたか?!)

 さすがにこの提案は不自然だっただろうか。気づかれて驚かれて逃げられたのだとしたら、少しショックだけど、しかたないとも思う。


「ごめんなさいっ、私、汗臭かったですよね?! ここ、真冬だった向こうより暖かくて、厚着で動き回っていたから……」

(そうじゃないが?!)

 盛大にかんちがいをさせてしまったらしい。混乱して泣きそうな声なのに、どうにもかわいくてしかたない。


「いや。ジュリアは驚くほどいい香りで……、むしろ自分の方だ。オートマティック・ウォッシュ」

 魔法で先に自分を洗い流す。洗ったあとの乾燥つきなのが便利だ。なんとか隠蔽が完了して、ホッと胸をなでおろす。


「私はあなたの香り、好きですよ? ずっと嗅いでいたいです」

(だからどうしてまたそういうことを……)

 ジュリアが顔だけ出しておずおずと伝えてくる。薄明かりに照らしだされる恥ずかしそうな笑顔がたまらなくかわいい。


(彼女が言う前の時に、自分は彼女と夫婦だったか……)

 前の自分がものすごくうらやましいと思うのと同時に、夫婦で子どももいたのなら、彼女とつながるのに物理的な問題はなかったことに気づく。

 ごくりと息を呑んだ。

 昼にどう探索を進めていくか以上に、どう夜を耐え抜くかの方が問題な気がする。


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