24 二年目のセイント・デイは
夕食は集会エリアの中に設置したダンジョンエリアでとることにした。いつもより豪華な食べ物を用意して、軽い祝宴だ。
「驚きました。本当に平和的にレジナルドさんがしばらくここに戻れないようにできるなんて」
「言ったでしょ? ジュリアちゃんの人徳だって。ぼくはちょっと連絡してお願いしただけだよ。
この前の朝のこともタイミングがよかったね。まだ気持ちは残ってるけど、それよりも離れて忘れたい、セイント・デイなんて近くにいてたまるかって感じだったから。
もしそれより前の状態だったら、話すタイミングを選ばないとジュリアちゃんといる方を優先されかねなかったからね」
「すごくいろいろ考えてくれていたんですね」
「あはは。参謀らしいでしょ?」
「ありがとうございます」
「それで、ひとつだけジュリアちゃんに協力してほしいことがあって」
「なんでしょう?」
「ブルネッタさんのところだけは善意で動いてもらうのが難しくて、別の利益を提示するしかなかったんだよね」
「というと……」
「一日だけ、ジュリオとしてデートにつきあってもらえるかな? イヤならジュリアちゃんを行かせない方法を考えるけど」
「あ、なるほど。ブルネッタさんがイケオジ派になるのは想像がつかなかったのですが、そういう交換条件だったんですね」
「うん。ジュリオに会えるならなんでもするって」
「なんだか申し訳ないのですが……、罪滅ぼしに一日くらいはつきあいます……」
「ごめんね? ぼくも全面的にバックアップするから」
「自分も同行する」
「えっと……、できればオスカーはお留守番で。あの格好はやっぱり見せたくないので」
「ブルネッタさんにドレスをプレゼントすれば? それから、涼しいところにデートに行くって言って絨毯に乗せて、寝かせて夢を見せちゃえばいいんじゃないかな」
「そうですね……、着替えた後、そういう状況なら、オスカーに同行してもらってもいいです」
「じゃなかったらまた目隠しだね」
「すみません……」
「いや、逆の立場の時にはジュリアも目隠しをしていたからな。どちらの条件もかまわない」
「じゃあそんな感じで、ブルネッタさんにはレジナルドさんの接待が終わった後のご褒美にしようか。
あとは各所と日程のやりとりをして、できるだけ長くレジナルドさんが戻れないようにすれば完了かな」
「レジナルドさんが出発したら、ソフィアさんか魔法卿に、原初の魔法使いが設置した魔力開花術式の部屋に入りたいって言う感じでしょうか」
「意図してレジナルドさんを遠ざけたって思われないように、少し日にちを置いて話してみるのがいいと思ってるよ。セイント・デイのデートを楽しんでもらって、その後くらいかな」
「……いいのか?」
「もちろん。そういう日くらいは二人でゆっくりしなね」
「ありがとうございます」
三人で行動することが多いから少しルーカスに申し訳ない気もするけれど、ルーカスがそう言うなら甘えさせてもらいたい。
(セイント・デイはオスカーとデート……!)
そう思うだけですごく嬉しい。
オスカーが好きな色のドレスを選んで、彼からもらったネックレスと指輪を身につける。ていねいにお化粧をするのは久しぶりだ。
(かわいいって思ってもらえるかしら?)
いつも一緒にいられるようになったけれど、改めてデートをするというのは特別だ。
(そういえば、スピラさんはまだ接近禁止中なのよね)
ルーカスがスピラに一ヶ月の接近禁止を言い渡した時に、セイント・デイが含まれるのを見越していたのだろうか。
(ルーカスさんのことだから十分ありえるわ……)
ルーカスのおかげで、レジナルドももう最初の訪問地に向かっていて中央にはいない。
ルーカスが味方でいてくれるのがありがたい。
仕上げにオスカーが買ってくれたホットローブを着て待っていると、約束の時間に扉が叩かれた。
ドキドキしながら走りよって、ひとつ深呼吸をしてからドアを開ける。
「……おはよう、ジュリア」
「おはようございます……」
(ひゃあああっっっ)
街中でも溶けこめるくらいの正装のオスカーがものすごくカッコイイ。見惚れて動けなくなりそうだ。
エスコートするように手を差しだされる。今日は恋人つなぎにしないで、そっと上に重ねてエスコートを受ける。いつもとほんの少し違うだけなのに、心音が跳ね上がった気がする。
「ジュリアを自分のホウキに乗せるのも捨てがたかったのだが、今日は馬車を借りておいた」
「……はい。ありがとうございます」
彼のエスコートで、ドアの前まで迎えに来ている馬車に乗りこむ。カーテンを閉めると外から見えなくなるタイプだ。二人きりの馬車は久しぶりで、ちょっと緊張する。こぶしひとつぶんくらいの距離をあけて隣に座った。
「まず手袋を受けとり……、魔道具の展示を見て、昼食、セントラルの街を散策してから劇を見て、夕食をと考えているのだが、いいだろうか」
「ありがとうございます。楽しみです」
プレゼントはお互いにオーダーメイドの革手袋を贈りあうことにして、事前に注文してある。やわらかい素材で手になじむとソフィアがオススメしてくれた店だ。職人が魔法卿の家まで来て採寸してくれた。届けてくれる話もあったが、セイント・デイ当日に店に取りに行かせてもらうことにした。
魔道具展や劇も、楽しそうだと話していたものだ。
(オスカー大好き……)
そう思いながら見つめていると、つないだ手の握り方が変わった。指がからんで、ふれあいを求めるかのように動く。
「……ジュリアはいつもかわいいのだが」
(ひゃんっ)
紡がれる音がどことなく熱を帯びて聞こえるのは自分の期待のせいだろうか。
「今日は……、いっそうかわいくて、どうにかなりそうだ」
(ひゃあああああっっっっ)
どうにかなりそうなのはこっちだ。心臓がうるさすぎる。
「……あなたも。いつもカッコイイけど、今日もとびきりカッコイイです……」
つないだ手に力が入って、視線が絡む。少しあけていた距離がつめられて、やんわりと頭に手が添えられ、唇が触れあわされる。
(だいすき……)
愛しさをこめて応え、もっとと彼を求めるように首に腕を回す。
去年のセイント・デイは師匠に会いに行って、戻ってから少しデートはできたけれど、夜にまたスピラに塗り替えられた。今年は誰の邪魔も入らないで、こうして二人で過ごせるのが嬉しい。




