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23 平和的に先代を遠ざける方法


 先代魔法卿レジナルド・チェンバレン。彼にだけは、普通ではない魔法が使えることを知られるなと当代から言われている。頭が固く、個人の希望より全体の利益を優先するため、知られたら冠位や次期魔法卿候補を避けられないそうだ。

 中央魔法協会にある原初の魔法使いが作った魔力開花術式の部屋に、世界の摂理に会う祭壇があるそうだが、レジナルドがいるとそこに入るのにも都合が悪い。


 ただでさえやっかいなのに、スピラの惚れ薬をレジナルドが口にした事故で恋愛対象として執着されたのは想定外だった。

 そんなレジナルドだったけれど、オスカーとの婚前交渉疑惑を持たれてから、なんとなく避けられるようになった。それでいて時々こちらを見てくるから、なんとも落ちつかない。


「まったく、最近の若いもんは」

 そんなふうに愚痴る声も聞こえた。完全にかんちがいされているから誤解を解きたい気もするけれど、オスカーもルーカスも誤解させたままにした方がいいという感じだ。


 そんな日を何日か過ごしたころ、みんなで当代の執務室で書類仕事を手伝っていたら、見覚えがあるエンブレムがいくつか目に入った。ルーカスが満足げに集めて、ひとまとめにして魔法卿のところに持っていく。


「魔法卿、今話していい?」

「なんだ?」

「いくつか招待が来ているんだけど」

「内容にもよるが。俺が行くのは厳しいぞ」

「うん。先方もそれがわかってるんじゃないかな? みんな代理でもいいって」

「なるほど? 言ってみろ」


「じゃあ、まず、ぼくらも関わったエタニティ王国」

「ああ、懐かしいな」

 カタリーナ、レナード、セリーヌのところだ。魔道具の暴走を止めるために魔法卿の前で大陸を覆う魔法封じを使い、ルーカスのおかげで今ここにいる。


「だいぶ国内が落ちついてきたから、改めて、国を救ってもらったお礼をしたいって」

「行ってやりたいのは山々なんだがなあ」

「補足として、忙しければ代理の方、例えば尊敬する先代に来ていただくのも歓迎するって」

「ほう?」

 当代が先代レジナルドの方を見やると、レジナルドがニヤリと笑った。

「やぶさかではない」


「いいだろう。師匠に代わりに接待を受けてもらおう」

「うん。じゃあエタニティ王国はそういうことで。次に、ファビュラス王国。この前、絨毯の話をしてたとこだね。

 子どもを乗せやすく、スピードも出しやすい魔道具の絨毯の実用化の目処が立ったから、各国の国賓と共に魔法卿もお披露目に招待したいって」

(ジャスティンさんとキャンディスさんのところね。ジャスティンさん、完成させたのね)


「あれか! それはぜひ行きたいし、ひとつ譲ってもらいたいところだが……」

「当代が忙しければ、高名な先代に来てもらえると嬉しいって」

「なんだ、レジナルド(ししょう)の復帰がだいぶ知られているんだな。どうだ、師匠?」

「いいだろう。高名なおのれが、ラシャド(ししょう)の子らのためにひとつ買い求めてこよう」


「ファビュラス王国はオーケーだね。それから、マスタッシュ王国」

 女王ブルネッタに、男のジュリオが執着されたところだ。確か魔法協会とは交流がないと言っていたはずだ。


「何代か前に魔法協会や冒険者協会を巻きこんで代理戦争になってから、魔法協会とは縁を切っていた国だね。

 今の女王様から、争いの火種がなくなったから魔法協会との友好関係を結び直して、支部の再設置を相談したいって」

「ほう? それはいい傾向だな。アレだろう? ずっと争っていたゴーティー王国が、なんでかものすごく遠くに移動したっていう」

「そうらしいね」


「支部設置の担当者は行かせるとして、一度くらいは俺が挨拶した方がいいんだろうが……」

「女王様はイケオジって噂の先代魔法卿に会ってみたいって」

(あれ? 女王様って、だいぶショタだったわよね?)


「また師匠か」

「どうだ? エーブラム。己の方がお前より人徳があるだろう?」

「師匠に行ってもらうのはいいが。そろそろスケジュールが厳しくないか?」

「日にちの指定がないところと連絡をとりあって、移動時間も計算して調整すれば問題なさそうだよ?」

「いいだろう。己が行こう」


「マスタッシュ王国もレジナルドさんね。それから……」

「まだあるのか?」

「うん。あと二件。けどこっちはレジナルドさんには荷が重いかな」

「ほう? 小童。内容を言ってみろ」


「え、だって、ドワーフの里とエルフの里からの友好の話だよ? レジナルドさん、亜人は嫌いでしょ?」

「ヒトと同じだと思って信用しすぎるなとは言ったが、嫌っているわけではない」

「そうなの? あ、ドワーフからは、ヒトとの友好の証として、代表者の装備をオーダーメイドで受けるって……」

「己が行く! いいな? エーブラム」

「ああ。ドワーフ装備のオーダーメイドは師匠の長年の夢だったからな。異存はない」


「エルフの方はどうする? 里長代理が酒宴を設けるって」

 当代が驚いたように目を見開いた。

「それはエルフの里にヒトを迎え入れるという話か?」

「そうだね。そういうことみたい」

「本当か?! 今まで場所すら特定できなかったんだぞ?!」

「え、そうなんですか?」

 自分たちは普通に行き来している。というか今の里長は自分ということになっている。

(代理っていうことはキグナスさんとサギッタリウス様よね)


「ああ。このあたりだろうと言われている場所はあるんだが、おそらくは結界か何かが張られているんだろう。魔法協会の関係者が立ち入った記録はない。これは歴史に残る偉業だぞ!」

「ふむ。エーブラムが忙しいようなら、己が親善大使を勤めよう」

 忙しいようならと言いつつレジナルドはノリノリに見える。


「じゃあ、レジナルドさんが全部回れるようにぼくがスケジュール調整をしてもいいかな?」

「ああ、任せる」

「了解。そろそろセイント・デイだけど、そのあたりはあけた方がいい?」

「いや、先方の都合がつくならすぐにでもここを出たい」

「わかった。魔法協会の備品の魔道具の手紙でやりとりしてもいいかな? その方が早いだろうから」

「ああ、好きに使え。全部国賓レベルか、それ以上の話だからな」

 当代が当然という感じで許可を出す。


 戻ってくるルーカスが、魔法卿たちには見えないように笑って、ピースをしてくる。

(これってつまり……)

 どこも聞き覚えがある名だ。しこみに時間をもらうとルーカスが言っていたのはこれらのことだったのだろう。争わないでレジナルドを中央から引き離すという無理難題をこなしてくれたことになる。

(……ルーカスさん、おそろしい人!!!)


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