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13 惚れ薬の効果が切れるのを待つ


 約束の時間に母屋に着くと、使用人に客間に通された。眠そうなソフィアが一人で迎えてくれる。

「おはよう、ジュリアちゃん」

「おはようございます、ソフィアさん」

「ごめんなさいね? わざわざ来てもらったのだけど、まだ男性陣が誰も起きてきていないのよ」


「魔法卿たちが寝たままなんですか?」

「ええ。全員、朝方に戻ってきたものだから」

「え。あの後、そんなに長く戦っていたんですか?」

「そうみたいね。適当な場所に移動して戦って、回復して戦って、回復して帰ってきて……、で、お師匠様たちは疲れきっていたわ。移動と回復魔法を使っただけのエーブラムも疲れたそうよ」


「なんだかすみません……」

「あら、ジュリアちゃんのせいじゃないわよ? きっかけはそうでも、ただじゃれたかっただけでしょう。起きてきたら今日は休むように言うから、みんなでお出かけはまた来週にしましょう?」

「そうですね」

 ソフィアからの提案は渡りに船だ。一週間後ならレジナルドの惚れ薬は切れているはずだから、外出自体がなかったことになる可能性が高い。


「お任せしてもいいですか?」

「ええ、もちろん。騒がせているのはこちらなのだし」

「ありがとうございます」

 レジナルドに惚れ薬を飲ませてしまったのは自分たちだとは言えない。そのうちソフィアには何かお詫びをしたいところだ。


「そうそう、ジュリアちゃん。少しだけ二人で話せるかしら?」

「私とソフィアさんで、ですか? はい、もちろん」

「廊下で待っていよう」

「ごめんなさいね?」


 オスカーとルーカスが離席してから、ソフィアが声をひそめる。

「あのワッフル、どこのお店のものかしら?」

「あ、魔法協会本部からそんなに遠くないですよ」

 いくつかの目印と行き方を伝えながら、オスカーたちがいてもいい話ではないかと内心で首をかしげる。


「気に入りましたか?」

「ええ。確かにおいしかったのだけど……、それよりなんだか、私もエーブラムも気持ちが若返った気がしたのよね」

「若返った?」

 若返りの効果はついていないはずだし、二人の見た目も変わらなかった。

 聞き返したら、ソフィアが気恥ずかしそうに顔を赤らめて頬に手を当てた。


「ふふ。内緒よ? いつもより触れあいたい気持ちが強くなったの」

(それ惚れ薬の効果ですごめんなさいっ!!!)

 内心で盛大に謝る。普通の市販品に期待されても困る効果だ。


「えっと……、たぶん、それ、私の友人しか買えない方の、市販品とはちょっと違う貰いものの方かと……」

「あら、そうなの? どうすれば買えるのかしら?」

「……時々差し入れさせてもらいますね」

 スピラからオスカーが預かった惚れ薬がある。少量にしたと言っていたから、時々ソフィアに分けるだけなら問題ないだろう。


 もしオスカーがイヤなら、実は自分も惚れ薬や媚薬は作れる。ダークエルフの唾液を使うものが一番強力だけど、他にも効果が望めるレシピは知っている。

(作る日が来るとは思っていなかったけど)

 スピラから習ったのも、他のレシピを知ったのも、オスカーを助ける方法を探している間だった。一緒に使う相手はいなかったし、売ってお金にするのは邪道だと思っていたから、作る機会はないと思っていた。

(本人たちが望んでいるのだから、いいわよね……?)


「まあ、嬉しいわ。ジュリアちゃんにはもらってばかりね」

「いえ。ソフィアさんにはいつもよくしていただいているので、少しでもお礼になるなら」

「ふふ。私で力になれそうなことはなんでも言って?」

「ありがとうございます」


 廊下で待っているオスカーたちと合流する。

(待って、ほんと、カッコイイ……)

 顔を見るだけでひざから崩れそうだ。惚れ薬のせいでバフがかかっているのはわかっていても、カッコイイものはカッコイイ。恥ずかしくてルーカスの後ろに隠れる。

「あはは。今日は三人でゆっくりしようか」

「ああ、そうだな……」

 心なしかオスカーも赤い気がする。


 屋敷を出て拠点へと戻る。

「ソフィアさんとどんな話してたの?」

「えっと……、内緒、です」

 ソフィアがそう言っていたのを思いだす。オスカーにも話さない方がいいのだろう。人に知られるのが恥ずかしいのはわかる。薬は自前で作るしかなさそうだ。


「そっか。ちなみにジュリアちゃんも作れるの?」

「……何を、ですか?」

 ギクリとしつつ尋ね返す。ルーカスが合点がいったという顔で笑う。

「さて、何かな。それより、ジュリアちゃんの朝ごはんを期待してもいい?」

「はい、もちろんです。ブランチにしましょうか」


「食後の休憩をはさんだら鍛錬だな」

「今日はゆっくりしようって言ったよね?」

「鍛錬は息抜きだろう? ゆっくりな過ごし方だと思うが」

「ふふ。付きあいますね」

 オスカーに同意だ。どうにも気持ちが浮き足立ってしまう時は体を動かすに限る。

「あー、うん。君たちはそうだったね……」

 ルーカスは苦笑しつつ、実際に体を動かすの以外はつきあってくれた。



 事故でレジナルドに惚れられてから数日が経った。スピラによれば惚れ薬の効果は二、三日とのことだから、そろそろ切れてもいいはずだ。

 オスカーと半分にしていた分は丸一日くらいで効果が切れた。二日目の夜に寝て起きたら戻っていた感じだ。いつでも手をつないでいたいけれど、人目をはばからないで襲いそうになることはなくなった。


(記憶はしっかり残っているから、思いだすのも含めてドキドキや大好きが増えている気はするけど)

 そうでなくても毎日大好きが増えているから、そこも含めていつも通りという気もする。

 惚れ薬は使用量が減ると効果が弱くなるのではなく、期間が短くなる。効果の強さは作った時の素材や魔力量で決まっている。スピラのそれは即効性があって強い方だろう。


 平日に入ってからは無理に夕食に呼ばれることはなかった。レジナルドも現役並みに狩りだされているらしいから、忙しくてそれどころではないらしい。

 代わりに、土産だと言って食べきれないほどのワッフルを持って来られた日はあった。ひとつでいいと断って、残りは屋敷の人たちに振るまってもらったら、少しレジナルドの株が上がったそうだ。


(このまま無事に効果が切れますように)

 そう期待して、休日の外出を取りやめる連絡が来るのを待っていたが、繰り越した予定日になってもキャンセルにはならなかった。


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