表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/540

8 魔法協会メンバーとの顔合わせ


「最後にオフィスに入るが……」

 ひととおり案内してもらってから、内勤用のデスクが並ぶエリアの前で足を止める。全員から受付の様子も見える作りだ。

「見習いの間は研修室を使うのと、研修後に他に移る魔法使いも多いから、デスクは入らない。必要がある時には自分のデスクを使ってもらってかまわない」

「わかりました。ありがとうございます」


 知っているだろうことも説明してくれたのは、周りに見せるためだろう。前の時と同じ言い回しも多くて、憧れの先輩だった頃に戻った気分だ。

(どうしてこんなにカッコいいのかしら……)

 昔も今も好きすぎる。見惚れないようにするので精一杯だ。


 受付に近い方に臨時依頼部門と育成部門、遠い位置に管理部門と父のデスクがある。一般対応が多い部門が受付近くになっている形だ。

 オスカーに連れられて、最初に父のデスクに向かう。

(すごく注目されている気がするわ……)

 気のせいではないだろう。前の時には新人が珍しいのだろうとか、支部長の娘だからだろうと思っていたが、それだけではないのを知ってしまった。前の時以上に恥ずかしい。


「クルス氏。クルス嬢の案内を終えてきた」

「ああ。どうだった? ジュリア」

「はい。とてもカッコよ……、じゃなくて、わかりやすかったです」

 つい本音がもれそうになって慌てて取りつくろう。

「私が聞いているのはウォードについての感想じゃない。魔法協会についてだ」

「あ」

 恥ずかしすぎる。隣のオスカーも恥ずかしそうだ。巻きこみ事故を起こして申し訳ない。


「……まだ慣れないですが、これから学んでいければと思います」

 本当は勝手知ったる場所で、懐かしさ以上の感想が浮かばないとは言えない。なんとか違和感がない言葉をひねりだした。

「そうだな。明日からはあまりこのエリアには来なくなるから、今日のうちに、いるメンバーには挨拶をしておくといい。それが終わったら今日は帰りなさい」

「わかりました」


(デスクに投影の魔道具は……、見当たらないわね)

 自分が来る前に仕舞ったのだろう。ルーカスの話がなかったら、職場の父は前の時と変わらないように見えたに違いない。


 改めてみんながいる方を見る。

 懐かしい顔ばかりだ。名前がおぼろげな人もいるけれど、今日が初対面ということになっているから覚え直せば問題ない。

 結婚して引っ越したこともあって、ここには娘の結婚式で巻きこんだ人は少ない。ルーカスと、その直属の上司のコーディ・ヘイグくらいか。ルーカスはオスカー、ヘイグは父の親友枠だ。


 オスカーに立ち合ってもらって、近くの管理部門から顔合わせをしていく。

 フィンの護衛で家に来ていた部長、ビリー・ファーマーは不在なようだ。調査中の案件がいろいろとあるからだろうか。

(あ、この人は確かストンさん)

「デレク・ストンですが。どうぞよろしく」

 当たると少し嬉しい。見た目も雰囲気も四角くて、比較的印象に残っていた。管理部門の中堅だ。


 続けて、ルーカスがいる臨時依頼部門のエリアに足を運ぶ。一番人が多いところだけれど、今日は内勤はそれほど多くないようだ。

「クルス氏のお嬢さん、こんにちは。無事に魔法使い見習いになったんだね」

「はい。ルーカスさん……、ブレア先輩にもお世話になりました。改めてよろしくお願いします」


「あはは。ルーカスさんでいいよ。堅苦しいのはイヤなんだ」

「じゃあ、ルーカスさん。私も、前に言った通りジュリアちゃんで」

「んー……、それは……」

 ルーカスがデスクの父を見る。

(お父様……、どうして人を殺しそうな目でこっちを見ているのかしら)

「クルス氏の許可がないと、ちょっと」

「お父様の?」


 ルーカスの近くのヘイグが豪快に笑って、声を響かせる。

「エリック。お嬢さんをクルスさんと呼ぶと紛らわしいし、同僚になるのにお嬢さんって呼ぶのもどうかと思う。

 ジュリアさんとかジュリアちゃんとか、名前で呼ぶのを解禁してもらえた方がいいと思うんだが?」

 そういえば前の時にも、ヘイグが似たようなことを言っていた気がする。


 父の眉間のシワが深くなる。

「それは私が決めることではない。ジュリアがよければ、それでいいだろう」

「だそうだ」

「もちろん、みなさん名前で呼んでもらって大丈夫です」

 部屋中から軽く歓声があがる。前の時にはただ歓迎されただけだと思ったが、父の言動を知った今は少し苦笑してしまう。父の言葉のニュアンスも違って聞こえるのがおもしろい。


「俺はコーディ・ヘイグ。エリックとは同期になるんだが、うだつが上がらない中間管理職だ。よろしく、ジュリアさん」

「よろしくお願いします、ヘイグさん。フィン様の護衛でうちにいらしていましたよね」

「おう。覚えていたか。アレはまあ、どっちかっつーとジュリアさんの護衛だな。エリック一人で十分だろうに」


「領主邸ではそれで十分じゃなかったからな」

「ってことらしい」

「すみません、お手間をおかけしました……」

「いや、仕事だし、おもしろいもんも見れたからな。ジュリアさんが魔法協会に入ってからが楽しみだ」

「ありがとうございます」


 ヘイグ主導で臨時依頼部門のメンバーが紹介されていく。ルーカス以外は前の時もあまり関わりがなかったから印象が薄い。何人かのお姉様たちを覚えているくらいだ。

 挨拶が終わって育成部門に向かう前に、ルーカスが笑顔でひらひらと手を振ってきた。

「じゃあ、ジュリアちゃん、またね。またぼくともお茶してね」

 部屋中から視線がルーカスに刺さる。一番鋭いのは父だ。ルーカスは気にした様子もなく笑っているから、笑顔で小さく手を振りかえしておく。


 オスカーが育成部門の部長、アマリア・ブリガムに声をかける。見習いの間は育成部門の管理下に入るから、直属の上司になる。

「よろしくね、ジュリアちゃん」

「よろしくお願いします、ブリガムさん」

「アマリアでいいわ」

「アマリアさん」


「クルスさん……、お父様から、ウォードくんを教育係にすると聞いたのだけど。あなたたちもそう聞いているのかしら」

「ああ。クルス氏から指名された」

「はい。ウォード先輩から習うように言われました」

「そう」


 アマリアが困ったように視線を動かす。何気なくその先を追うと、不機嫌そうにこちらを見ている姿がある。

(ダッジさん……?)

 お見合い候補にもいたカール・ダッジだ。「さすが冠位の娘」だと言われた先輩で、前の時にはオスカーに先輩風を吹かせながら二人で研修を受け持っていた。

(オスカーの話の方がわかりやすかったけど)


 最初のころは距離感が近くて苦手だった記憶がある。しばらくしたらほどよくなったから、調整はできる人だと思っている。

 不機嫌なのは父がアマリアとダッジを飛び越えて、オスカーを担当に指名したからだろう。お見合いを断っていることで嫌われているのもあるかもしれない。

(ちょっと気まずいわね……)

 そう思いつつ、軽くほほえんで会釈をしておく。


「つもる話はゆっくりしましょう。そのうちみんなの都合がいい時に歓迎会ができるといいわね」

「ああ、そうだな」

「オレが調整しますよ、ブリガムさん」

 ダッジが大きめの声で言った。ありがたいはずなのだけど、ちょっと怖い。

(ダッジさんと距離感をやり直すのはちょっと憂鬱ね……)


 出口まで見送ってくれるオスカーをながめて癒されておく。彼にはドキドキするし緊張もするけれど、それはどちらもイヤな感じではない。むしろ不思議と、他のイヤな感覚が溶かされていく。

(大好き……)


「クルス嬢」

 ふいに呼ばれてドキッとする。

(え、私、声に出して言ってないわよね……?)

「帰りは馬車でいいだろうか。早めにホウキは教える予定だが、今日の今日というわけにはいかないから」

「はい。ありがとうございます」

(そうよね。仕事の話よね。ここは職場だもの)

 当たり前すぎることを自分に言い聞かせる。


(昔も今も、私ばっかりドキドキしているみたい……)

 オスカーは落ちついたものだ。そんな仕事モードの彼がとてもカッコいい。

(……大好き)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そうですね。2回目だけど初対面のフリをしないとですね(苦労 でもいつか声を出しちゃいそうですね〜。 お仕事モードのオスカーさん。いいですね〜♪ ずっとみてられそう(笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ