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4 ソフィアとのお茶会とレジナルド対策


 翌日、ソフィアからお茶に誘われた。都合を聞きにきたメイドを集会エリアの外で待たせて、みんなに打診する。


「昨日のことだろうから、行ったほうがいいだろうね」

 ルーカスの判断にスピラが拗ねて口を尖らせる。

「また私は一緒にいられないんでしょ?」

「すみません……、ソフィアさんだけなら大丈夫な気もするのですが」

 参謀ルーカスを見やると、ルーカスが首を横に振った。


「いつ当代や先代たちの目に入るかわからないからね。最低でも先代のレジナルドさんがいるうちは気をつけすぎるくらいの方がいいと思うよ」

「ちぇっ」

 自分のために協力してもらっているのに、最近はずっと放置してしまっている負い目はある。けれど、万が一にもスピラがダークエルフだと知られたら大問題だろう。


「スピラさんの安全のためなのでそこはその方がいいと思うのですが。今度のお休みにでも、みんなで一緒に遊びに行きましょうか。ピクニックとかどうですか?」

「行くっ!!」

 スピラが食い気味に言って、一気に顔が明るくなる。オスカーはため息混じりだが、仕方ないという感じだ。


「楽しみにしてるね!」

 言って、どこで買ってきたのか遊戯板を出してきてペルペトゥスを誘った。

 木でできたコマを動かして戦略的に相手のコマを取っていくゲームだ。子どものころに少しやった記憶がある。ルールは簡単だけど戦略が奥深くて、勝つのは難しかった。

 原型はかなり昔からあるゲームだったと思う。長く生きている二人には馴染みがあったのかもしれない。戦闘以外の安全な暇つぶしが見つかったようで何よりだ。


 オスカーとルーカスと三人でメイドに案内されていく。

 今日は来客用のお茶室に通された。めずらしいお菓子と香りのいいお茶が並び、人払いされる。


「昨日はごめんなさいね? イヤな思いをさせて」

「いえ。せっかくごちそうを用意していただいたのに、途中退席してしまってすみませんでした」

「いいのよ。レジナルドさんとは私もあまり話したことがなかったのだけど、あの人にはあまり好意的な思いがついていないのも納得ね」

 ソフィアが苦笑して首をすくめる。ソフィアには、目にしている人に強い思いを向けている相手とその方向性が見える特殊能力がある。


「好意的な思いがついていないんですか?」

「ええ。レジナルドさんの師匠のラシャドさんはそれなりに愛着があるみたいだけど、ちょっと扱いづらそうね。

 エーブラムは尊敬しているけれど、できるだけ一緒にいたくはない感じかしら。他にも何人か同じような感じの人はいるけれど、あとは憎まれてばかり。

 誰かからの愛情は見えないわね。さみしい人」


「なんでしょう……、一緒にいると苦しい感じがします」

「正しすぎるのね、きっと。正論も過ぎると周りに毒なのよ。あの人が唯一の正義になって、同じ考えではない人が罪人になってしまうから」

「なるほど……。そう言われるとそうかもしれません」


「ふふ。エーブラムの方がずっと人間らしくて好きだわ。いつも判断に迷いながらその時の最善を模索して、魔法の才能以外では向いてないと言いながら重責を引き受けて強いふりをしている、かわいい人」

「ソフィアさんは本当に魔法卿が好きですよね」

「うふふ。そう見えるかしら?」

「はい。私がオスカーを大好きなのと同じくらい、大好きなんだろうなって思います」


「あらあら。ケンカをして家を飛び出したのに?」

「あれは全面的に魔法卿が悪いと思います……。好きだから期待して、好きだからさみしくて、好きだから子どもがほしくて、好きだからそばにいてほしくて。好きだから結局許しちゃうんだろうなって」

「ええ、ふふ。そうね。最近はだいぶ家にいてくれるようになったし、私も子どもたちのことや仕事で忙しくなって、さみしくなることはなくなったの。こんなに充実している日が来るとは思わなかったわ」

「何よりです」


「みんなジュリアちゃんのおかげね」

「私は特に何も」

「あら、ふふ。私はそう思っていると思っておいて? あなたが困っていたら力になるわ。エーブラムに話したかったことは大丈夫?」

「ありがとうございます。大したことではないのですが。レジナルドさんが中央にいると相談しにくいので、ちょっと様子を見ていようかと」

「そうねえ……、エーブラムだけなら私も手伝えるけれど、エーブラムがいいと言ってもレジナルドさんはダメだと言うことがありそうだから、その方がいいかもしれないわね」


「ちょっと時間ができたので、少しゆっくりして、子どもたちのお世話のお手伝いができたらと思っています」

「それは助かるわ。みんなで交代で見ているのだけど、それでも三人はなかなか大変なの」

「ですよね……」

 新生児は一人でも大変だった。特に初めのうちは昼夜問わず二、三時間おきにお腹を空かせるのだ。授乳の合間に寝られるかと思っていたけれど、他の理由でなかなか泣きやまなかったりするとほとんど休めないまま次のミルクになる。昼は義母や使用人にある程度任せて寝させてもらって、やっとなんとかなっていた。


「もし余裕があるなら、エーブラムの方も手伝ってあげてもらえるかしら?」

「えっと……、はい。私たちでできる範囲なら」

「そうね。ジュリアちゃんたちくらいの子ができそうな範囲で、ね」

 自分が本当にできるかどうかではなく、自分と同年代の普通の魔法使いができる範囲でいいというニュアンスに聞こえる。ソフィアは状況がよく見えている人だ。味方でいてくれるのがありがたい。



「ソフィアさんから話を聞けたのは収穫だったね」

 集会スペースに戻ってからルーカスが言った。待っていたスピラとペルペトゥスも合流している。


「誰もレジナルドさんと戦わせない方向で、ぼくらの関与も疑われないで、レジナルドさんを中央から出張らせよう」

「そんなことができるのか?」

「ちょっとしこみに時間はかかるだろうけど、できるんじゃないかな。ジュリアちゃんのこれまでの人徳だね」

「人徳ですか……?」

 まったく身に覚えがない。ルーカスは何を言っているのだろうか。


「ま、任せてよ。みんなはいつも通りにしてて。ジュリアちゃんのしばらくの予定は、ソフィアさんと話していた通りでいいと思うよ」

「? わかりました」

「了解だ」

 ルーカスがそう言うということは、むしろ今は知らないでおいた方がいいことなのだろう。


(知らなければ聞かれても答えようがないものね)

 そこからレジナルド対策が始まっている気がする。

(結局またルーカスさん頼みになったわね)

 申し訳ないのとありがたいのと両方がある。


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