50 クエスト達成報酬
ブロンソンが古代の魔道具を借りてくれたことで無事にケルレウスの卵を見つけられた。できる範囲では最善だろう。ひと息ついたところで思いだしたことがある。
「ブロンソンさん、帰る前に一緒に冒険者協会に行きませんか?」
「ん? なんかあったか?」
「私とオスカーのパーティ名で、アイスドラゴンの卵探しの依頼を出しているんです。その中に、『過去の遺失物を追跡する特殊魔法が使える魔法使いか、魔道具』の情報という項目もあって。目的のものを見つけられた場合の追加報酬も設定しています。私たちと同行して事後手続きをすれば、依頼達成として報酬をお支払いできます」
「いくらだ?」
「二百万です」
「もらえるかっ!!!」
ものすごく驚いたように拒否された。
「え。でも、エレメンタルのドラゴンの卵ですよ? それこそエディフィス王国がそのくらいの金額を提示して探してますよね?」
「あのなぁ、嬢ちゃん。でっかい借りがある友人の力になろうと協力して、そんな大金を謝金としてもらえるわけないだろう」
「元々見つけられたらどなたかに払う予定のものですし、そもそもがあぶく銭なので大丈夫ですよ?」
今回の報酬はすべて、前回のゴーティ王国の時に予想外に稼いだお金だ。懐は傷まない。
「オレの気持ちの問題だ。魔道具を貸しだしてくれた知人に一杯おごるくらいは必要だから、その程度なら受け取ろうかと思ったが。その金額は、ない」
ブロンソンが言い切って、オスカーが頷いた。
「なら、その友人とパーティ仲間といくらかいい酒が飲めるくらいを個人的に支払おう」
「そうですね。そうさせてください」
オスカーの提案に乗るとブロンソンは了承したが、今度はケルレウスが首を横に振った。
「それは我が出すべきものだろう。そなたらにも礼をせねばなるまい」
「したくてしたことなので、気にしなくていいですよ?」
「そうもいくまい。何がよかろうか……」
「ツメでももらっておけば? ウロコとか血とかは痛いけど、ツメは切っても平気だし、また伸びるし。エレメンタルのドラゴンのツメならそれなりの金額になるし、市場に流してもそこまで大騒ぎにはならないでしょ?」
スピラが軽く提案する。オスカーの誕生日にダークエルフのツメをプレゼントしただけのことはある。
「そんなものでよいのか?」
「そうですね……、それならケルレウスさんの負担にもならないし、いいかもしれません。ブロンソンさんはどうですか?」
「おう。旦那がくれるってんならそれは受けとっておく。オレが冒険者協会に持ちこむぶんには問題ないだろう。目をつけられたくないなら嬢ちゃんたちのぶんも引き受けるぞ」
「ありがとうございます。すごく助かります」
エレメンタルのドラゴンのツメを入手したとなると冒険者ランクが上がってしまう。あまり目立つことはしたくないから、すでにSランク冒険者のブロンソンが持ちこんでくれるのはありがたい。
ケルレウスのツメを切らせてもらう。
「シャーペスト・ゲイル」
手を前に出して動かないでいてもらえれば簡単だ。
「簡単そうに切ってるが。エレメンタルのドラゴンのツメはそう簡単に壊れるもんじゃないだろ……? もう嬢ちゃんが何をしても驚かない方がいい気がしてきたな……」
「ああ。それがいい。ジュリアだからな」
ブロンソンの感想にオスカーが同意する。
(なんだかもうその評価にも慣れてきたわ……)
苦笑するしかない。
長さがそろわない方が生活しにくいというので、十本全部を切りそろえる。ブロンソンと半分ずつにしようとしたら、そんなに受けとれないと言われた。換金後に金額を見て考えることにする。
様子を見ていたペルペトゥスが首をひねった。
「ふむ。ウヌのツメも切って換金するか? 短くするのもよい気がする」
「全力で遠慮させてくださいっ!!!」
ダークエルフですら換金には向かない。エイシェントドラゴンのアイテムは自分で使うか死蔵する以外にないのに、やらた大きくて持っておくだけでも大変だ。
「切るだけなら切ってもいいですが。その場合はペルペトゥスさんのダンジョンの最奥で切りましょう。もちろんそこにツメを放置です」
「ペルペトゥスの旦那のダンジョンなんてのがあんのか……」
「何回か死にそうなくらい大変なのでオススメはしないです」
「ああ。全力で回避したい」
ブロンソンが苦笑する。相手の強さがわかるからこそなのだろう。
「それでは、ケルレウスさん、お元気で。デインティさんたちにもよろしくお伝えください」
「うむ。卵が孵ったら知らせよう」
「連絡魔法ですか?」
「いや、ヒトのそれは使えぬから、雪の精霊に行かせる」
「わかりました。楽しみにしていますね」
空間転移で近くまで行ける場所で、北の凍土に比較的近い冒険者協会を訪ねる。まず自分たちからの依頼を取り下げた。
ブロンソンがアイスドラゴンのツメを納品し、亡くなった冒険者の認識票と学者風の男の荷物を預ける。認識票のおかげですぐに冒険者は確認できて、学者風の男は一緒に行方不明になった依頼主だろうと推測された。あとは冒険者協会が対応してくれるそうだ。
「アイスドラゴンのツメ、十カケラ。それなりのサイズがあったから、しめて五百万だ。オレは五でいい」
「え、半分の二百五十はもらってください」
「どんだけ贅沢な酒だよ。二百も多いって言ったよな?」
「それは私たちが払う場合かと。ケルレウスさんからの報酬なので」
「どっちだろうと変わらんさ。お貴族様と違って安酒で十分だからな。嬢ちゃんの仲間たちに還元してやったらどうだ?」
「あ、そうですね。なら、ブロンソンさんを含めて全員百で」
「一人分足りないんじゃないか?」
「私は入れていません。そもそも私のワガママにみんなを巻きこんでいるので」
「それなら外れるのはオレじゃないか? 魔道具を借りてきただけだからな」
頭を掻くブロンソンに、オスカーがわずかに口角を上げた。
「こういう時のジュリアは意見を変えないから、とっておくといい」
さすがオスカーだ。自分のことをよくわかっている。
「自分も遠慮なく受けとる。ジュリアの新しい服でも作らせようか」
「ちょっ、それだと実質的には私がもらってますよね?」
「いいや? 自分がもらったぶんをどう使うかは自由だろう?」
「あはは。いいね。じゃあぼくも、みんなでいいご飯にでも行こうか。料亭を貸し切れそう」
「私もジュリアちゃんにアクセサリーとか買いたい!」
「やめろ」
「それをしていいのは婚約者のオスカーだけだよ」
「ちぇっ」
オスカーとルーカスから止められて、スピラが口を尖らせる。
改めてブロンソンにお礼を言って、彼の仲間たちが泊まる宿の部屋に送り届けた。
世界に散らばっている六カ所の祭壇めぐりは終わった。
「ふむ。あの偏屈なムンドゥスに会いに行くかのう」
「……はいっ!」
ペルペトゥスの言葉に大きく頷いた。
いよいよ世界の摂理に会う時だ。




