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47 アイスドラゴンの卵の行方を追う


 ブロンソンと、借りてもらった過去視の魔道具と一緒に、改めて北の凍土に来た。アイスドラゴンのケルレウスに、当時卵があったはずの場所まで案内してもらう。


「悪いな。知られたくないこともあるだろうが、オレの名前でしか借りれんかったから、見届けて返す責任があるんだ」

「それは大丈夫です。ブロンソンさんはずっと私の秘密を守ってくれているし、ケルレウスさんに会っても協力してくれているので。信頼してます」

「そうかい。当然のことしかしてないが、それならよかった」


 ブロンソンが借りてきた魔道具を受けとる。壁掛けの楕円形の鏡くらいのサイズで、周りの装飾もそんな雰囲気だ。真ん中の部分は鏡ではなく、くもりガラスのような質感をしている。


「で、使い方なんだが。ピンポイントで見たいもんを出す方法は研究者にもわからんそうだ。古代魔法言語で時間を言いながら魔力を流すと、指定時間分が戻った様子を見られるらしい」

「なるほど……」

「一応、六十年前の言い方は聞いてきた。そんな前を見られるだけの魔力を流すのは難しいとは言われたが」


「えっと……、オーウム・アンテ・シーカ・セクサーギンター・アンヌス……?」

 試しに指定してみたのは「六十年くらい前の卵」だ。

「嬢ちゃんは古代魔法言語まで知っているのか……」


 魔道具があわく光り、魔力を要求されている感じがした。求められるままに流していく。だいぶ持っていかれる感覚がある。

 ケルレウスがこのあたりだと言っていたところに、アイスドラゴンの姿と卵が映った。


「すごい! 映りましたね!」

「すごいのは嬢ちゃんなんじゃないか……?」

「……ベルス」

 ケルレウスが小さくつぶやく。一緒に映っているアイスドラゴンはベルスのようだ。

「キレイですね」

「ああ……、とても。……キレイだった」

 ケルレウスの目元からキラキラとしたものが落ちる。そのまましばらく映しておく。


 ケルレウスが落ちついてから話を続ける。

「……六十年くらい前の卵という指定だと、ヒトが来るまで、ヘタすると一年単位で待たないとって感じになりますかね。

 映し続けるのには魔力も足りないし、ちょっと変えてみますね。ホモー・アンテ・シーカ・セクサーギンター・アンヌス」

 指定を「六十年くらい前のヒト」に変える。人の町では無意味だろうけれど、ここに人が来ることはほとんどないから目的の状況が見られるはずだ。


 魔道具が反応して、人とドラゴンが話しているらしい様子が映った。

「見られるだけで、さすがに声までは聞こえないんですね」

「……この人間たちだ」

 ケルレウスが苦虫を噛みつぶしたように言った。

「そうなんですね……」

 冒険者たちだろうか。厚着をしていて顔は少ししか出ていないけれど、人がよさそうには見えない。山で出会ったら山賊と見間違えそうな顔つきだ。


「見ただけで友だちにはなりたくない顔をしてるね」

「あはは。たぶん、みんな思ったけど言わなかったやつね」

 スピラの感想にルーカスが軽く笑う。

「そうなのか?」

「ケルレウスさんからはそうは見えないんですか?」

「ヒト型の顔の違いはわからんな」

「ああ、なるほど」

 自分たちが魔物の顔をあまり見分けられないのと同じだろう。ベルスの方がケルレウスよりシュッとして細いとか、その程度しかわからない。


「学者風の人間もいるな」

「一人だけ毛並みが違うね」

「この人はケルレウスさんたちと話せたのが純粋に嬉しそうに見えますね」

 山賊風のリーダーに、山賊の下っぱのような部下が三人。それから山賊風の魔法使いが一人。加えて、インテリに見える学者風の人物が一人。そんな構成だ。


「うーん……、しばらく問題がなさそうな感じが続くんですよね? もう少し指定を変えてみましょうか。ホモー・ジェストラム・オーウム」

 唱えたのは「ヒトが卵を運ぶ」だ。映る景色が夜に変わる。小さなランタンの光で様子がわかる感じだ。


 あたりを少し広く見てみる。

「……寝ていますね。ケルレウスさんもベルスさんも、他のここの魔物たちも」

「そうだ。雪の精霊たちもだ。だから誰もこの後のことを知らない」

「魔法で卵を浮かせていますね」

「ホウキに結ぶのに使ってるのは普通のロープだね。用意がいいから最初からそのつもりだったのかな」


「ちょっと言いあいになっている感じでしょうか」

 学者とリーダーが険しい顔で口論をしているように見える。それから、学者がしぶしぶ従って歩きだす。下っぱが浮かせた卵を結んだロープを引いていく。


「追ってみましょう」

 移動していく方向に魔道具を向けて、あとについて歩いていく。

「ここから大陸を出られる場所まではどのくらいありますか?」

「どうだろうか。それなりに奥の方だから、このペースで歩くなら数日といったところか」


「目が覚めた時にこの凍土は探したんだよね?」

「もちろんだ。影も形もなかったから、ここからは出ているだろう」

「数日……、一気に見るのは魔力がきつそうなので、休み休みいきましょうか」

「私も代わるよ」

 スピラがそう言って魔道具を受けとってくれる。が、その瞬間に映像が見えなくなった。


「人が変わるとダメなのでしょうか」

「魔力の質が変わるからコマンドが無効になるんじゃない? ホモー・ジェストラム・オーウム」

 スピラが改めて唱えると、同じ様子が映った。


「思っていた以上に魔力を持っていかれるね。ジュリアちゃん、大丈夫?」

「ありがとうございます。一応、まだ大丈夫です」

「あとこれ、時間の流れのままに映るっていうより、場所に反応して関係することを映してる気がするね。ホウキで移動したら早回しで見られるんじゃないかな」

「やってみましょう」


 ホウキを出して浮かびあがる。ペルペトゥスが走ると言ったら、オスカーも運動不足解消のためにつきあうと言いだした。さそわれたルーカスが全力で拒否して飛んでくる。

 スピラが魔道具を見ながらホウキを飛ばしていく。

(危なくないかしら?)

 一応、スピラの代わりに前方確認をしておく。何もない空が開けているから、この場所でなら大丈夫そうだ。


「うん、そうだね。連続して早回しになるっていうより、その場所にいる時の様子がわかる感じ。進路の予想がズレなければこのくらいのペースで追っていけそう」


「ふむ。そういえば、世界の摂理の祭壇に行きたいのだったか」

 卵を追うのに集中していたら、空を飛んで追ってきているケルレウスからふいに聞かれた。


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