42 スピラとのいろいろとラシャドの子どもの育て方
ダークエルフのスピラから、人間のくくりに入れていいかは謎だと言われた。
「考え方が普通の人間とは大きく違うっていう意味ね。私たち魔物と人間が対等だと思ってるでしょ?」
「命があって、コミュニケーションがとれる知性があるのだから、当然ですよね?」
「……多くのヒトにとっては、それは当然じゃないんだよ。翻訳魔法なしで話せる私もアイスドラゴンも、対等に扱われることはないからね」
「オスカーもルーカスさんも、ヒトの友人と同じようにしていると思いますが」
「それはジュリアちゃんがそうしてるからでしょ。出会う状況が違っていたら、たぶんオスカーくんからは攻撃……、あれ、私は敵対してたか」
「前半はスピラが思っているとおりだが、後半はお前がジュリアにセクハラしたからだからな。自分は今でも、ジュリアを泣かせたことを許す気はない。ジュリアが許していても、だ」
『スピラ様は何を?』
「出会いがしらにジュリアを『美味しそう』だと言って『子作りしよう』と言いだしたり、突然現れてジュリアに抱きついたり」
『うわぁ……、最っ低』
『好いた相手にそれはないだろう……』
「魔物基準でもありえないらしいぞ?」
「待って。ジュリアちゃんはすごいって伝えたかっただけなのに、なんで私が火傷してるのかな……」
「ふふ。スピラさん、だいぶ丸くなりましたよね。今のスピラさんは好きですよ」
「私もジュリアちゃん大好き!!」
「ジュリア、これを甘やかすな。あきらめさせるのも優しさだからな」
「ご愁傷様。一生あきらめる気はないよ」
「そこはあきらめてください……」
ゴーティー王国の王墓に卵を戻し、透明化で外に出て王墓の時間も戻して、あけた穴をふさいだ。すっかり元通りだ。何かあったと気づかれることはないだろう。
「夜までかかってしまいましたね」
「ああ。よくがんばったな」
オスカーがやわらかく頭をなでてくれる。嬉しい。大きな手に甘えてから、ルーカスに連絡を入れる。
『……となりました』
『そっか。お疲れさま』
『ありがとうございます』
『ジュリアちゃんたちはこの国には来てないことになってるから、好きな国に移動してご飯食べて、ゆっくり休んで。ぼくらは明日、王様に挨拶してから絨毯で大陸に向かうから、その途中で落ちあおうか』
『わかりました』
「とのことですが、どうしましょう? 場所の希望はありますか?」
「そうだな……、ホワイトヒルからホウキや絨毯の普通のスピードで、一日で移動できる範囲がいいだろうとは思うが」
「そうですね。そのあたりにして、明日の朝、その街の冒険者協会に寄ってみましょうか。なにか追加情報があるかを聞きに」
「ああ、そうだな」
「宿は一人ひと部屋ですね」
オスカーとスピラを二人きりで、同じ部屋で休ませるのは心配だ。
「オスカーくんと同じ部屋でいいよ? ケンカしないようにするから」
「できる気がしないんだが?」
「私が売られたケンカを買わなければいいんでしょ?」
「むしろいつも売られる側だと思っているんだが」
「そうかな? ルーカスくんに言われてからはできるだけ気をつけてるつもりなんだけど」
「同室にする理由がないだろう? 宿代に困るほど金がないわけでもなし」
「オスカーくんを一人にしたらジュリアちゃんといちゃつくじゃん」
「それが本音か……」
「ならもう全員一緒でも」
「ダメだ」
「いいね」
オスカーとスピラがバチバチだ。頭を抱えたい。
ルーカスとペルペトゥスが抜けているのが原因だろうと思って、解決策を思いついた。
『ルーカスさん、お迎えに行くので、夜はオスカーと同じ部屋を使ってもらってもいいですか?』
『あはは。女王様のところのしばりがなくなったら、オスカーとスピラさんの収集がつかなくなった?』
『ご名答です……』
『いいよ。寝る時だけぼくとスピラさんで交代しようか』
『ありがとうございます』
「ということにするので、二人ともいいですか?」
「ああ。ルーカスならかまわない」
「私もジュリアちゃんの近くにいたいけど、まぁルーカスくんが見張っててくれるなら」
(ルーカスさんはむしろ推奨してくる時があるけど、それは言わないでおいた方がいいわよね)
ブロンソンに時間ができるまでの数日で、冒険者協会からの追加情報をあたったが、収穫はなかった。
リリー以外のブロンソンの仲間たちには内緒で、オフの日の時間をもらってブロンソンとリリーを連れ、南の孤島に住んでいる先々代魔法卿ラシャド・プレスリーを訪ねる。
自分側のメンバーはオスカーとルーカスだ。スピラとペルペトゥス、使い魔組には凍土で待っていてもらっている。
「お待たせしました、ラシャドさん」
「子どもたちをどう育てるかについて、もう少し考えられたかしらあ?」
「うむ。何人か、わしの子らのことを知っておる知人と連絡をとったのぢゃが。子どもがほしかったが持てなかった夫婦が養子にしてくれると言ってくれた。今は四十の手前か。少し上の世代ぢゃが、わしよりはいくらもマシぢゃろう。
わしも居候して、ひいじいさんとして見守っていいそうぢゃ。真実を告げるかは育ってから様子を見れたらと言われておる」
「そうなんですね」
一番いい形に収まったのではないかと思う。子どもがほしかった人たちとラシャドが一緒に育てるなら安心だ。
「ちなみに、全員一緒にですか?」
「ああ。子どもの専属として住みこみの使用人を増やすとも言うておった。解呪が叶えば、の話ぢゃが。
家の中の部屋も土地も余っておるような知人ぢゃし、わしもそれなりに財産はあるから、金銭的にはなんの問題もなかろう。わしの遺産の贈与先としても文句のない相手ぢゃ」
「それはよかったです」
ラシャドが信頼できる養子先が見つかって何よりだ。
「じゃあ、子どもたちをお借りして、解呪してきますね」
「わしは行けんのか?」
「すみません、解呪方法などいろいろ秘匿しないといけないので」
「わしはそこまでは信用されておらんか。いや、いい。そうぢゃろうとも」
「すみません……」
「自分の命よりも大切な子らを預けるのぢゃ。わしは信用すると決めている」
「ありがとうございます」
決めているという表現は、信用しているのとは少し違う気がする。それが最善だと判断して思いこもうとしている印象だ。
(それはそうよね……)
他に手段が見つかる目処が立たないとはいえ、名前すら明かせない、ほぼ見ず知らずの他人に大事な子どもたちを預けるのだ。そう簡単に信用しきることはできないだろう。
(少しでも安心してもらうには……)
何か手がないかと考えを巡らせる。




