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41 卵を見つけて北の凍土に届ける


「ウッディ・ケージ」

「やーい、ジュリアちゃんにもトリ扱いされ……って、なんで私?」

 大きな鳥カゴに入れたのはスピラだ。鳥カゴにも透明化の魔法をかけて、浮かせてホウキにつなぐ。

「中の形はナナメ上くらいからが認識しやすいですよね?」

「そうだけど、自分で飛べるからね?」


「スピラさんはしばらくその中で反省してください」

「こういうプレイって思うとむしろ興奮しそう」

「ジュリア、アレをトリカゴごとモやさないか?」

 肩に乗ったセキセイインコ姿のオスカーからささやかれる。かわいい。


「まあ、実害はないので。聞かないことにします。ラーテ・エクスパンダレ。フィト・ウィア・ウィ。オートマティック・ウォッシュ」

 広域化と威力を上げる古代魔法をかけてから、穴の中へと洗浄魔法を流す。このくらいなら魔力の出口をしぼった状態でも問題ない。


「……すごいね、ほとんど岩と岩のスキマはないみたい。よく加工したなあ。

 上の部屋にいろいろなものがありそう。今あけてる穴から、少しあっちの方向だね。高さは中に入って確認した方がいいかな。

 地下は……、部屋が砂で埋められてるね。絶対に行かない方がいいよ」

「ありがとうございます」


 事を進めればスピラはそつなく対応してくれるようだ。下に降ろしてから鳥カゴから解放した。魔法封じではないただの木のカゴだったから、出ようと思えば出られたはずだ。おとなしくつかまっていたのは本人が甘んじていたからだろう。


「目的地が定まったので、小さくなって行きましょうか。ミニウエレ・エゴ」

 使うのがすごく久しぶりであまり自信はなかったけれど、ほどよい大きさに調整できた。

 オスカーが乗りやすいように身をかがめてくれる。今の自分より大きいと、頼もしくてカッコよく見える。


「ふふ。羽毛がふかふかですね」

 背中に乗ってぎゅっと抱きついた。トリになってもやっぱりオスカーの匂いがする気がする。大好きだ。

「なんでトリの姿になっててまでいちゃついてるように見えるのかなぁ……」

 小さくなったスピラがため息混じりにホウキから飛び乗ってくる。


「マテ。ホウキでトべるならジブンでトべばいいだろう?」

「すみません、私がユエルに乗る話をしたので……」

「いや、ジュリアはいい。むしろノっていられたい」

「オスカーくんだって私みたいなこと言うじゃん!!」

「タチバがチガうだろう」


「あの。この大きさでホウキで飛んで、トリのあなたと同じスピードを出すのにはかなりの出力がいるので。申し訳ないのですが、スピラさんもお願いしてもいいですか?」

「ああ。ジュリアがそうイうなら」

「ありがとうございます」

 トリのオスカーの首元に後ろから軽く口づける。

「うー……、うらやま死ぬ……」

 そう言うスピラには少し申し訳ないけれど、こればかりはどうすることもできない。



 卵があった。


 スピラが示した場所に向けて魔法で穴を掘り進め、少し広い部屋に出ると、まばゆくかがやく金銀財宝と共に置かれていた。台座は金だ。


「大きな水色の卵……!」

「うん。とりあえず元の大きさに戻ろうか」

 スピラの言葉にうなずいて、オスカーに卵の前に降ろしてもらう。

「リーベラーティオ」

 魔法をといて元の大きさに戻る。


「もう必要ないので、オスカーも戻してもらえますか?」

「ちぇっ」

 口をとがらせつつも、スピラがオスカーにかけた魔法も解いた。三人で卵の前に立つ。


「大きいな」

「私たちが小さくなっていたから大きく見えたのかなって思ったんだけど、ちゃんと大きいね」

「はい。イエロードラゴンの卵より大きいですね!」

「アイスドラゴンの卵に間違いないだろうか」

「そうなんじゃない? 色がケルレウスと同じだし」

「じゃあ、透明化をかけて空間転移で持ちだしましょう。ルーカスさんにも連絡して、開けた穴も元に戻さないとですね」

 可能性は低いと思っていただけに、見つけられてすごく嬉しい。



 ルーカスから通信の魔道具越しに提案され、ピラミッドの穴をふさぐ前に、透明化を解いて空間転移で直接北の凍土に卵を運んだ。


「合流してどうするかを相談するより、確かにこっちの方が早かったですね」

「王墓から空間転移ができるようになったのは大きいな」

「穴をふさいじゃうと直接戻れなくなるもんね。さすがルーカスくん」


「前にケルレウスさんにお会いしたのはこの辺だったと思うのですが。ケルレウスさーんっ!」

『なによ、うるさいわね』

 代わりに答えたのはデインティだ。

「あ、デインティさん。こんにちは。ケルレウスさんはどちらですか?」

『ペルペトゥス様と遊びすぎてお疲れになったから休んでいるけど……、その卵……』

「はい。お返しに来ました」


『……とりあえずケルレウス様に見てもらいましょう』

(あれ?)

 飛び上がって喜ぶと思っていたのに、卵を見たデインティの反応がそっけない。どことなく困っているようにも見えた。卵がもう生きていない可能性が高いと思っているのだろうか。


 デインティに案内されて、少しホウキでついていく。卵は浮遊魔法をかけてつないでいる。

(やっぱりぜんぜん、景色の違いがわからないわ……)

 どこまで行っても一面、真っ白だ。多少の丘や山はあるけれど、地形として認識できるほどではない。


『ケルレウス様。ジュリアたちが卵を持ってきました』

『ほう?』

「六十年くらい前に、時間が止まる空間に入れられたドラゴンの卵です。ケルレウスさんの卵ですよね?」

 ケルレウスが顔を近づけて、まじまじと水色の卵を見る。


『……いや』

「え」

『やっぱり違ったのね』

「デインティさん、気づいていたのですか?」

『たしかによく似ているわ。けれど、記憶の中のケルレウス様の卵はもっとキラキラしてキレイだった気がしたのよ』

「そうなんですね……」


『ふむ。シードラゴンの上位種……、リヴァイアサンとも呼ばれるウォータードラゴンの卵ではなかろうか』

「海の怪物か」

「ハズレですか……」

 間違いないと思っていただけに、違うと言われるとショックだ。


「あれだけ苦労したのにね」

「出し入れするつもりがないところから、それを壊さないで物を出すのが難しいことはよくわかりました」


「この卵はどうする?」

「ケルレウスさんのものではなかったし、返す先もわからないので、元の場所に戻しましょうか……」

『そう気落ちすることはない。ヒトの子が真剣に探してくれただけで我は満足だ』

「お役に立てなくてすみません……」


「まだ最初に情報があった三カ国をあたっただけだろう? 続報を待てばいい」

「そうですね……」

『三カ国? みっつの国ってことよね? 待って。これを見つけるまでにそんなにあちこち行ったの?』

「あちこちというほどではないですが、まあ」

『……信じらんない』


「ちょっといろいろ幸運でもあって」

『そういう意味じゃないわよ。そこまでがんばって探してくれてたことに驚いたの。

 ニンゲンもいろいろなのね。まとめて滅ぼそうって思ってた過去の自分に教えてあげたいわ』

「ジュリアちゃんを人間のくくりに入れていいかは謎だけどね」


「ちょっ、スピラさん?! 私はちゃんと人間ですよ?!」

 普通じゃないの次は、まさかの人間じゃないという扱いだ。全力で却下したい。


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