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40 ゴーティー王国の王墓攻略


 ドラゴンの卵が収められているらしい王墓に入ったはいいものの、一本道はどこにもつながっていない行き止まりだった。いったん外に出ようと言ったらスピラから問い返される。


「外?」

「ふたつ、浮かんだことがあります」

「ふたつも?」

「ひとつめは、外から上の方を魔法で開けて、強力にした洗浄魔法を流しこんだらどうかと。魔力を帯びた水が通れば通路がわかりますよね? 水なら細い隙間からでも通せますし」

「なるほどな……」


「うん。いいアイディアだと思うけど、問題がふたつあるね」

「ですよね……。まず、浮かせた上の方を目撃される可能性が高いこと。先端は街からも見えますからね」

「それを避けて夜にやればいいっていう話になるけど、洗浄魔法を通すような一瞬で私が全部認識するのはムリかな」

「やっぱり難しいですか……」


「もうひとつは?」

「小さな穴なら崩れる心配なくあけられるんじゃないかなと。終わってから物の時間を戻せば直せますし」

「小さな穴でどうするの?」

「一度出て、ユエルとジェットを召喚してきます」

「なるほどな。ピカテットが通れるくらいの穴を開けてみて、ユエルたちに探索してもらうわけか」


「それなら私たちがトリになってもいいかもね」

「動物になると魔法は使えなくなりますよね? 小さくなってユエルに乗せてもらおうかなと思ったのですが」

「小さくなれるのか?」

 オスカーが目を丸くする。

「ありましたよね? 古代魔法に」

「うん、あるね。好きな食べ物を山のように食べた気になれるっていうくらいしか用途がないと思ってたけど」


「ふふ。一緒に試して、元の大きさに戻ったらお腹いっぱいじゃなくて驚きました」

「重ね重ね前の自分がうらやましいよ……」

「逆に、大きくなることもできるのか?」

「なぜかそっちはないんですよね。小さくなって戻るしか」

「小さくする方が用途が多いからかな。荷物を運んだり相手を小さくして戦いやすくしたりっていう開発意図だろうね」


「でも、自分以外にはかけられないんですよね?」

「うん。完成してるものはね。やろうとしなかったんじゃなくて、できなかったんじゃないかな」

「つまり、ジュリアとスピラは小さくなれるわけか」

「はい。サイズに応じて魔法の出力も下がりますが」

「なら、スピラの魔法で自分をトリにしてもらい、小さくなったジュリアとスピラを乗せればいいんじゃないか?」

「いいね。それでいこう」


「ヒトの言葉を話せるトリにしてくださいね?」

「それは残念。セキセイインコが妥当かな。メタモルフォーセス・メロプシッタカス」

 スピラが唱え、オスカーが水色と白のセキセイインコに変わる。手を差しだすとちょこんととまった。


「かわいい」

 思わずひたいにキスをする。

「あ、ずるい。ジュリアちゃんにちゅーしてもらえるなら私もトリがいいな」

「オイ」

「話すのは大丈夫そうですね」

 エタニティ王国でカテリーナが話せるトリの声帯で話していたのと同じような感じだろうか。


「じゃあ、次は……、シャープ・トルネード」

 幅をしぼった細く鋭い竜巻を作り、上に向かってまっすぐに岩を削っていく。

「もし魔力があるものに当たりそうだったら教えてください」

「うん。これ、ドラゴンの卵も割れそうだもんね」

「はい。命があるものは修復できないので」

 外の光が入ったのと同時に魔法を消した。このくらいの穴なら気づかれることはないだろう。同じ要領で下の方も数メートル削る。


「ジュリアちゃん、一度外に出て、この穴から洗浄魔法を流すのはどう? 全部は認識できないけど、リスクがないならやる価値があるくらいには把握できるかなって」

「やりましょう」

 そこまで話したところで通信の魔道具が反応する。

『そっちの首尾はどう?』

 ルーカスの声だ。


『あれ、ルーカスさん。通信がつながりますね』

『つながらなかったの?』

『はい。さっき試した時は』

『アナをアけたからじゃないか?』

 インコの姿のオスカーに言われて上を見上げる。その可能性は高そうだ。

『待って。どこからつっこんでいいのか……、まず今の声はオスカー?』

『はい。スピラさんの魔法でセキセイインコになっています。かわいいですよ』


『穴を開けたっていうのは?』

『魔法の竜巻をドリルのようにして、こう、細い穴を上と下に。あ、もちろん後でちゃんと戻しますよ』

『ごめん、話についていけないんだけど。どうしてそうなったの?』

『中には入れたのですが、その先がふさがっていて、どこに行っていいかわからなくなったので。ヘタにいろいろ動かすと全体が崩れちゃわないかなって』

『それで穴を……』

『すみません……』


『いや、ぼくらのパーティだけで解決するって考えると、そういう力技しかないかもね。ブロンソンさんのところのカミール・スミスさんなら手段がある気がするけど、今回の件には巻きこめないからね』

(カミール・スミス……)

 記憶をたどってみる。罠を解除したりする人だったか。確かに、何か探索系の方法を知っていそうな気がする。


『ちょっと聞いてみてからにすればよかったですかね』

『あはは。もう穴を開けちゃったんだから、あとの祭りだね。思うようにやっておいで』

『ありがとうございます』

『その様子だとまだかかりそうだから、ぼくらのアリバイ作りは続けておくね。終わったら連絡して』

『わかりました』


 通信が切れたところで、スピラが口を開く。

「通信の魔道具が使えるなら、空間転移もできるようになってるんじゃない?」

「あ、そうですね。やってみましょうか。テレポーテーション・ビヨンド・ディスクリプション」

 スピラの袖に軽く触れて、王墓の外、入り口前をイメージして空間転移を唱える。透明化したままだから、王墓自体を動かさないなら人がいたとしても問題ないはずだ。


「できましたね! これでだいぶ楽になりますね」

「待って。袖をつままれるってなんかいいね。初々しい感じでドキドキする」

「ダマれモウロクジジイ」

「オスカーくんって私には口が悪いよね」

「ヒトのコンヤクシャにコナをかけつづけるジイサンにむけるやさしさはナイ」

「インコの姿ですごまれても怖くないよ、ベロベロバー」


 スピラがバカにしたように手をひらひらさせて舌を出し、インコのオスカーが激怒して飛びあがる。

「ちょっ、二人とも落ちついてください」

「まだこのスガタでいるヒツヨウはナイだろう? モドセ」

「え、ヤだよ。なんなら一生そのままでいてほしいくらい」

「スピラさん、ちょっと言いすぎです。めっ、です」

「ジュリアちゃんに怒られちゃった。怒り方もかわいいね」


「ちょっ……、本気で怒りますよ?!」

「ジュリア、スピラをトリのエサにカえるんだ」

「できませんって……」

(ちょっと誰かこの二人をどうにかして……)

 頭を抱えたい。


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