39 ゴーティー王国の王墓探索
両親、ノーラと朝食をとってからホワイトヒルを出た。オスカー、ルーカスと隣の国までホウキで飛んで、一時的に別れる。
自分は空間転移で、北の凍土からスピラとペルペトゥスをピックアップして戻る役割だ。オスカーとルーカスは売り物になりそうなものや昼食を用意してくれる。
準備を整えて、みんな揃って絨毯に乗った。
「さて、ゴーティー王国に行こうか」
「やっと迎えに来てくれたと思ったら、必要なのが私じゃなくて女性になったペルペトゥスとか、ちょっとすねていいかな?」
スピラが子どものように唇を尖らせる。
「すみません、ペルペトゥスさんとケルレウスさんと一緒に楽しくやっているものかと」
「楽しいのは楽しかったけどさ。暇だから遊ぼうって言われて魔力切れまで相手をさせられるのはやめてほしいし、ジュリアちゃんに会えないのはさみしいし、ジュリアちゃんから必要とされないのは悲しいし、ジュリアちゃんに会えないのはさみしいんだよ」
「同じことが入っているぞ。歳をとりすぎてモウロクしたのか?」
「違うよ?! 大事なことだから二回言っただけだからね!」
「ペルペトゥスさんも、すみません」
「ウヌは構わぬよ。スピラやケルレウスと遊んでおったし、短い間であった」
「ゴーティー王国の打ち合わせをしようか。ここからだと近いからね」
「大陸の東から、西まで移動させちゃいましたからね」
「まずぼくとペルペトゥスさんは前と同じ姿で行商に行くよ。ちょっと疑われるかもしれないけど、証拠はないからしらばっくれて、お墓にアイスドラゴンの卵が納められているかを確認する。で、ありそうなら透明化組が侵入して、気づかれないように確保する。簡単でしょ?」
「口で言うだけならな」
「正直ここが本命だから、あってほしいところだね」
「時間が止まっているなら中身が無事な可能性、ですね」
「冒険者協会からの情報もこれで打ち止めだしな。追加情報はまだなさそうだから、ここがダメならしばらく打つ手がないだろう」
「ですね……」
どうにかここで見つけたいものだ。
ルーカス、ペルペトゥスの謁見組と別れてから、オスカー、スピラと透明化してお墓エリアで待機する。
少しして、ルーカスから通信の魔道具で連絡が入った。
『お待たせ。国の移動については軽く聞かれただけだったよ。ドラゴンの卵、先々代のお墓に納められている記録があるって。時期的には合いそうだけど、種類まではわからないみたい。竜種の卵っていうことになってるって』
『ありがとうございます。さすがルーカスさんです。入ってみますね』
『うん。ぼくらは疑われないように商売してるね』
どの墓がどの代かは刻まれている年号でわかる。先々代が亡くなったのはちょうど六十年くらい前だ。
あまり一般人が来るエリアではなく、今は工事もされていないから人の気配はない。念のためにかけてある透明化はそのままにして、出入り口を塞いでいる岩を魔法でどかして中に入った。それを戻してから光の魔法であたりを照らす。今は通路しか見えない。
「すごく悪いことをしている気分です……」
「悪いことではあるだろうな。墓泥棒をしようとしているわけだから」
「そうかな? そもそもがドラゴンからの盗品で、私たちはそれを取り戻して返そうとしてるだけでしょ? このお墓の持ち主が盗人なんだから、私たちは何も悪くないよね?」
「相手が魔物という時点で、一般的には盗んだことにはならないからな……」
「人間って、世界は自分たちのものって思ってるふしがあるよね。そんなことはないのにさ」
「なんだかすみません……」
「ジュリアちゃんは違うでしょ? 私にもドラゴンにも平等なんだから。一般論の話ね」
三人で、削った岩を積んだ道を歩いていく。
「行きどまりだな」
「行きどまりですね」
「行きどまりだね」
曲がる場所のない一本道だ。
「うーん……、この前、プレイ・クレイで新しいお墓を作った時には、中に曲がるところも階段もあって、どの部屋にもつながる設計だったのですが」
「入り口も塞いであったから、納めるものを全て納めた後にところどころで塞いでいる可能性はないか?」
「あ、なるほど」
「盗掘対策だろうね。納めるものも競ってるなら、本物の泥棒にも狙われるだろうから」
「魔法使いでもない限り、入り口を開けるのも大変だと思いますが」
「道具とか人数とかでなんとかするのかもね。そういうのに狙われないくらいのセキュリティは考えてるんじゃないかな」
「納めたものを出す必要はないわけだから、何ヶ所も塞ぐのは理に適っている気がするな」
「ですね。家のカギをひとつからふたつにするだけでも効果があると言われるくらいですから」
スピラがクスッと笑う。
「一気に規模がかわいくなったね」
「すみません……」
「ううん。かわいいなって思ってるだけだよ」
「ナチュラルに口説こうとするその口に岩をねじこんでいいか?」
「入らないよね?! ここの大きさのはどうがんばっても」
「問題はどの岩にするかだが……」
「待って。真剣に吟味しないで」
「どかした先が通路になっているのはどれかっていうことですよね?」
「ああ」
「待って、ジュリアちゃん。オスカーくんを信用しすぎじゃないかな」
「大丈夫ですよ? オスカーが理不尽に相手を傷つけたことは一度もないので」
「ああ。もしケガをしたらすぐに回復させよう」
「言ってることがぜんぜんかみ合ってないからね?!」
オスカーといるとスピラのテンションが高くなっておもしろい。
「うーん……、ヘタにいろいろ動かすとお墓自体が崩れる可能性もありますものね。内部構造がわかるといいのですが」
全員で頭をひねる。が、なかなかいいアイディアは出てこない。こういう時に向いている古代魔法もない気がする。
「そういえば探索系が得意な人、私たちの中にはいなかったですね……」
「たいていは力技で解決できたからな」
「今回も全部壊していいなら簡単なんだけどね」
「ペルペトゥスさんのダンジョンは、壊せるところは壊して問題なかったですしね」
「合言葉とか壊せない扉とかはあったけど、どっちかっていうと魔物の力押しが多いダンジョンだしね」
「それはそれで攻略が大変でしたが」
「あれをヒトが攻略できた時点でおかしいからね?」
「要はジュリアもスピラも探索系は苦手ということか」
「はい。あなたは……」
「もちろん、苦手だな」
「ですよね……」
意気揚々と入ってきたのにあっというまに詰んでしまった。
「ルーカスにでも聞いてみるか。何か出てくるかもしれない」
オスカーがそう言って通信の魔道具で連絡をしようとするが、つながらないようだ。
「ここの中はダンジョン空間と似たような状態なのかもしれませんね」
「内部の時間が止まっているらしいから、祭壇エリアに近いのかもね」
「確かに中は新しくてキレイだな。外側は多少経年劣化しているのに」
「だと、外への空間転移はできなさそうですね。入り口の前までは戻れるでしょうが」
すぐに試してみたが、やはり空間転移で外には出られなさそうだ。
「出口を卵より大きく開けないと出られないということか」
「卵にも透明化をかけるにしても、向こう側に人がいたらアウトですね」
「見張りをお願いする連絡もできないんだもんね。思っていたよりめんどうだね」
「うーん……」
何も解決案が浮かばないまま問題ばかりが増えている。
「スピラは魔力探知ができるのだろう? ドラゴンの卵の魔力は感じないのか?」
「今は二つの理由で厳しいかな」
「二つの理由ですか?」
「うん。ひとつは、この場所自体が魔力を持ってるから、それに薄められちゃうってこと。もうひとつは、ジュリアちゃんの魔力の中にいるから、二重に濃い色メガネがかかってる感じ」
「なるほど……。とりあえず私の方は魔力を弱めましょうか? トランスパーレント・ライトノンマジック。このくらいでどうでしょう?」
「うん。多少わかりやすくなったかな。……難しいね。下にも上にも魔力を帯びたものはありそう」
「役立たずか」
「ひどいなオスカーくんは」
「魔力探知……」
その言葉で、解決できる方法が浮かびそうな気がした。
(もう少し。何か……)
「ジュリア?」
「なんとかなるかもしれません。いったん外に出ましょう」




