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31 [オスカー] 愛しさと申し訳なさと

いちゃいちゃ回です。

だいぶ男性事情に踏み込んでいるので、苦手な方は飛ばしてください。


 魔法で灯りを浮かべて、ジュリアと二人でキャンプ地を離れていく。虫や鳥の声はするものの、不思議と静かに感じる。


「……すみません、ワガママばかりで」

 いくらか歩いた頃に、しゅんとした様子で彼女がつぶやいた。

「ジュリアのワガママはいつも誰かのための優しさだからな。自分はそんなジュリアが好きだから、かまわない」

「おすかぁ……」

 甘えるような声にゾクリとする。彼女は他人のために心を痛めているのに、そんな時でも自分は彼女への気持ちの方が大きいようだ。


 そっと手を引いて抱きよせる。細い腕が背に回されて、しっかりと抱きしめられる。やわらかな感触と彼女の香りに血がたぎりそうになるのを、ぐっとこらえる。


「……もし、クレアが同じ立場になるとしたらって思うと、すごく悲しくて」

「そうだな……。けど、もしジュリア自身がその立場なら、ジュリアは犠牲になろうとするんじゃないか?」

「……そう、かもしれません。もし私が身を捧げることで本当に、世界が、あなたが、大切な人たちが守られるのだとしたら」

「失言だった。それは自分がものすごくイヤだ」

「ふふ」


 小さく笑って、腕の中で彼女が甘えるように身をよじる。考えるより先に唇を重ねていた。

「ん……」

 甘い吐息に思考が溶かされそうだ。手遅れになる前に離さないとと思った瞬間、彼女から頭を抱えこまれる。かわいく求められては止まりようがない。愛しさのままに求めて熱を伝えあう。


「……んっ、おすかぁ……、だいすき……」

(あおっているのか……?!)

 彼女にそんなつもりがないのはわかっている。いつもながら、何も考えないでブレーキを壊しにくるのはやめてほしい。もっと触れたい思いが止まらない。

 キスを重ねながら、許される範囲で彼女を撫でていく。このまま溶けあってしまいたいのを飲みこむためにそうしているはずなのに、欲しさはふくらむばかりだ。


(……力は入れずに、滑らせるように)

 親友なのか悪友なのか、ルーカスが必要だろうとプレゼントしてきた本の内容が浮かぶ。女性にとってはつながることが全てではないと、前戯にも多くのページがさかれていた。

 服の上から触れるだけなら手を出したうちには入らないだろうか。唇を触れ合わせたまま首筋をそっと撫でて、肩、腰へと滑らせ、背へと回す。


「ん、ふぁっ……」

 こぼれる声も、小さくピクッと反応する身体も、かわいくてしかたない。

「おすかー……」

 紅潮したかわいい顔で甘く呼ばないでほしい。とっくにブレーキは壊れていて、理性も行方不明な中で、最後の砦を守っているのだ。

「……すまない。これ以上は……、してはいけないことをしてしまいそうだ」


「苦しいのをなんとかしなくて大丈夫ですか?」

「なんとか……?」

「えっと……、私が直接触れる、とか……?」

(なんてことを言うんだ……)

 頭が蒸発しそうだ。

「……そういうことは……」

「すみません、痴女みたいですよね……」

 ジュリアがものすごく恥ずかしそうに顔を隠す。


(これはもう襲うしかないんじゃないか?)

(いや、ダメだ。まだダメだ)

(言葉に甘えるくらいはいいんじゃないか? 彼女もそうしたそうだろう?)

(いや、まだその時ではないだろう?)

 自分の中の悪魔と天使が高速で言いあっている気がする。


「……いや。嬉しい、が……。結婚したら甘えてもいいだろうか」

 大切に抱きしめ直して、必死に熱を逃しながらささやく。ジュリアが安心したような嬉しそうな笑みで、耳まで真っ赤にしたままうなずいた。

「はい。あなたが悦ぶこと、全部しますね」

(うわあああああっっっ……! ムリだろう? これで理性を保っているなんてむしろおかしいだろう??)


 ひたいへのキスで耐えた自分を褒めてほしい。首筋にキスが返される。熱が暴走しそうだ。


「ジュリア……」

「ん……」

 求めあうように唇を触れあわせる。

「愛してる」

「愛してます」

 声が重なって、笑みを重ねて、深い口づけを重ねる。今度は身体を触れさせないように気をつけて、繰り返し思いを伝えあう。



 彼女を女性用のテントに送った時には、見張りのチーム以外はもう寝静まっていた。本音を言えばこのまま朝まで離したくないけれど、そういうわけにはいかない。

「おやすみ、ジュリア」

「おやすみなさい、オスカー。……本当はこのまま一緒にいたいけど、がんばりますね」

(またそういうことを……)

 彼女のひと言で簡単に決心がぐらついてしまうのだ。このまま一緒にいたい気持ちは負けていない。


「……そうできる日々まであと少しだと信じている」

 答えて、もう一度キスをした。見張りからは自分が壁になって見えないはずだ。

「ん。……きっと」

 甘くキスが返される。


 世界の摂理という存在がどういうものかわからない。期待しすぎてはいけないのはお互いにわかっている。祭壇を巡っても本当に会えるのかわからないし、会ったところでどうにもならない可能性もある。世界の摂理を知るスピラやペルペトゥスからもそう言われた。けれど、今は、うまくいく可能性を信じたい。


 自分とルーカスのテントに戻って寝袋に入る。今にも彼女への思いが爆発しそうだ。

「ジュリア……」

 口の中でささやいて、申し訳ないと思いながらも熱を外へと吐きだす。ただ一緒にいられるだけで幸せなはずなのに、よこしまにも身体は彼女を求めてしまうのだ。

 魔法で片づけて、ひとつ息をついた。


(死ぬほどうらやましい? 耐えられるなら耐えてみろ……)

 好きな時に好きなように女性に手を出して、多くの子どもを産ませている国王には言われたくない。向こうには向こうの苦労があるのだろうけれど、自分にも自分の苦労がある。


 ジュリアとつきあう上で一番の苦労は、彼女を狙う男が後を経たないことだ。そして二番目の苦労は、かわいすぎて手を出したくなるのを抑えるのがたいへんなことだ。彼女が拒否的なら耐えようもあるのに、ダメだと言いつつも望まれているようにしか感じられない。

 まぶたを閉じても、恥ずかしげに求めてくる彼女しか浮かばない。どうかしていると思う。


「生物として当然なんじゃない?」

 ふいにルーカスの声がした。

「……待て。起きていたのか?」

「どうかな。今は起きてるけど」

 暗がりの中で顔は見えない。声の方向からすると反対を向いている気がする。


「さっきの言葉はどういう意味だ?」

「ん。寝返り多いし、眠れないのかなって。ジュリアちゃんのことでぐるぐるしてるんでしょ? 抱けそうで抱けないから」

「ハッキリ言うな……」

「彼女の夢を見たり、彼女のことばっかり考えたり、欲しくてどうにかなりそうだったりするの、生き物として当たり前だよね。そうじゃなきゃ種が存続できないんだから」

「それだとまるで動物みたいじゃないか」


「ヒトも動物の一種でしょ? 種の存続以上に大事なことがある?」

「しかし……」

「本能に抗ったり否定したりしてもしょうがないんだから、受け入れておきなね。もちろん、想像の中で彼女を手に入れるのと、実際に手を出すのは別の話として。後者はその時までガマンするんでしょ?」

「ああ。そのつもりでいるが……」


「心の健康を保つためには、本能を許すのも大事だよっていう話。ぼくは見ないし聞かないから」

「……想像の中で彼女を求めるのは、一方的にけがしているようでいつも申し訳ない気持ちになるのだが」

 申し訳ないと思いつつもあられのない彼女を思い浮かべてしまうのだ。本当にどうしようもない。


「じゃあ他の女性を想像する?」

「それはイヤだ」

「でしょ? それこそ彼女に申し訳ないんじゃない? だいたい、考えてもみなよ。ジュリアちゃんだよ? オスカーが自分を想像して抜いてるって知ったらむしろ喜びそうじゃない?」

「それはそうかもしれないが……」

「でしょ? なんなら本人の許可をとってみれば? どうぞって言われる未来しか見えないけど」

「いやそれは死ぬほど恥ずかしい……」


「あはは。じゃあ、結婚後に向けたイメージトレーニングだとでも思っておきなね」

「ああ……、それならどうにか……」

 いくつかの理由を総合して、最終的にトレーニングだと思っておくなら自分を許せる気がしなくもない。が、それはそれで問題がある気がする。


「……実物の反応が想像をはるかに超えてかわいいんだが。どうすればいい?」

「そこはもうただののろけだからぼくは関与しないでおこうかな。おやすみ」

 バッサリと切られた。

 イメージトレーニングをしたところでその場になったら全部吹っ飛びそうな気がする。いつもいつも想像がつかないようなかわいい反応を返してくるのは、本当に反則だ。


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