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22 エイシェントドラゴンの素材採取


「ちょっといい?」

 ルーカスがひょうひょうとした笑みで話に入ってくる。

「向こうの子どもを助けるって考えないでさ。奪われたアースドラゴンのウロコを取り返す方法だと思ってもらった方が、デインティさんは納得しやすいんじゃないかな」


『そんなの、向こうは奪っていったんだから、奪い返せばいいじゃない!』

「あはは。ぼくらがそれをするとぼくらが犯罪者になっちゃうし、デインティちゃんは勝てないし、ケルレウスさんには戦う気はないでしょ? 一番平和的な解決なんじゃない?」

『それは……、そうね……?』

 デインティがすっと大人しくなった。さすがルーカスだ。


「納得してもらえてよかったよ。で、きみたちにも全部話したのは、解呪をここでさせてもらえたらいいんじゃないかって思ってるからなんだ」

『解呪を、ここで?』

「はい。広い場所が必要で、ここなら何があっても他の人に知られることはないので。もちろん影響が最小限になるように結界は張ります」


『あの男の子どもをここに連れてくるっていうことかしら? わたしに凍らされるとは思わないの?』

「デインティさんはケルレウスさんの不利益になることはしないと思うので。それに、もしそういうそぶりがあれば私が本気でお相手しますし」

『よいのではないか? フムステッラのウロコを返却してもらうために必要なのだろう?』

(フムステッラさん……、アースドラゴンさんの名前よね)


『ケルレウス様は甘すぎます!!!』

『ふむ。なら他によい案が?』

『……ないです』

『ならそれでよいだろう』

 デインティが盛大にむくれたけれど、ケルレウスは落ちついた調子のまま続けた。

『ペルペトゥスからそちらの事情も聞いた。祭壇ならいつでも案内しよう』

「あ、ありがとうございます」

 すっかり忘れていたけれど、そもそも世界の摂理の祭壇に行くためにここに来ていて、場所を聞くためにケルレウスを探していたのだった。


『今から行くか?』

「うーん……、もう少しいろいろ落ちついてからにします。もし何かあって私たちがしばらく来られなくなっても、私たちの目的がまだなら、また来るのを信じていてもらえると思うので」

『そうか』

『あなたってバカなのね』

 デインティがつむいだ音は、言葉とは反対にやわらかく響いた。


「ふふ。バカですか?」

『だってそうじゃない。わたしたちのことなんて放っておいて、自分の用事を済ませれば済む話なんだから。ヒトは普通そうするでしょう?』

「どうでしょう? 放っておいたらスッキリしないから、自分が納得したいだけなんだと思います。それがバカならバカのかもしれませんね」


『勘違いしないでね? わたしはバカな人間の方が好きよ』

「ふふ。ありがとうございます」

 オスカーとスピラが一瞬攻撃的な雰囲気になっていたけれど、肩の力を抜いた感じがする。


 ひと段落したところで、ドラゴンの姿のペルペトゥスに、オスカーがもう一方の話を切りだす。

「ひとつ、ペルペトゥス殿に相談があるのだが」

「ほう?」

「自分の誕生日プレゼントに素材を分けてもらえるという件、数滴、血を譲り受けたい」

「よかろう」

「助かる」


「ドラゴンの血を入れられる入れ物は用意してきたよ。エイシェントドラゴンの血に耐えられるかはわからないけど」

「長く保管するわけではないので、強めに防御魔法をかけておけばなんとかなるかなと」

 ルーカスが出した小瓶にゴッデス系の防御魔法をかけておく。さすがに割れないはずだ。


「採取したらすぐ回復魔法をかけますね」

「ふむ。我が自分で切る方が簡単だと思っていたが。ジュリア嬢は我を倒したことがあったのだったか」

「えっと……、はい。すみません」

「よい。愉快よ。試しに切ってみるがよい」

「え」


「ごめんね、ジュリアちゃん。あれおもしろがってるだけだから。断ってもいいと思うよ」

 スピラが苦笑する。そういえば、スピラからすると前の時も、できるならやってみろという意味だったのではないかと言っていた。


「……わかりました。みんなは下がってもらえますか? 念のために防御魔法をかけておきますね。アルティメット・ゴッデス・シールド・スフィア」

 ケルレウスとデインティも囲むように球体の防御壁でみんなを包んでおく。万が一にも逸れて当たったら即死だから、存在する中で最も丈夫な防御壁だ。


「フィト・ウィア・ウィー……、フィト・ウィア・ウィー……」

 魔法の威力を増大させる魔法を重ねがけする。

「表面を切るだけなので、二回くらいですかね」

「ふむ。本番は何回重ねたのだ?」

「何回だったでしょう……、あの時は苦しませたくなかったので、一撃で終えられるようにかなり重ねていました」


「一撃か」

「はい。こう、スパッと」

「何度聞いても愉快よのう」

「愉快なんですか……。えっと、なるべく痛くないところ、深くならないように、しっぽの先をちょっと切りますね。こちらに向けてもらえますか?」


 通常傷をつけやすい指先や口内は痛覚が集まっていて痛いはずだ。背中側はウロコが硬い代わりに痛覚も少ない。尾の先の方はウロコも小さくなり、いくらか切りやすかったはずだ。

 ペルペトゥスが立ち上がって、しっぽをこちら側に向けてくれる。様子が見えるように顔も向いているから、体をひねった状態だ。


「じゃあ、失礼して……」

 尾の下から、上に向かって手を構える。体には攻撃が行かないように、ペルペトゥスに背を向けた形だ。

「アルティメット・シャーペスト・ゲイル」

 唱えて、指先から発せられる鋭い切断の強風をペルペトゥスの尾に向ける。切り落とさないようになるべく端を狙った。


 空を切る音を響かせ、風が上空まで切り裂いた。ポロリと小さなウロコのカケラが落ちて、それからぽたりぽたりと血が落ちる。

(よかった、切りすぎてないわね)

 それが一番心配だった。急いでビンで血を受け止め、回復魔法を唱えて傷をふさぐ。


「うーん……、普通の回復だとウロコまでは治らないですね。ゴッデス・ケア。……あ、ちゃんと再生されましたよ。よかったです」

 周りがシンとしていて、なんの反応もない。不思議に思って見回すと、全員ぽかんとしている気がする。


「……? ……ペルペトゥスさん、すみません。ウロコのカケラはどうしましょう?」

「……ふむ。……かまわぬ。とっておくがよい」

「ありがとうございます。オスカーの誕生日プレゼントを使わせてもらっちゃうから、申し訳ないと思っていて。ウロコが残るなら十分ですね」


 拾いあげると、ペルペトゥスのウロコの中ではかなり小さなカケラでも、自分の顔より大きかった。厚さは一センチくらいだろうか。光の反射によって黒くも虹色にも見えるそれは、重くはないのにしっかりとした存在感がある。


「リリース。オスカー、これ、どうぞ」

 防御壁を解除して、拾ったウロコをオスカーに渡した。

「あ、ああ。ありがとう」

「それ、売ったら一生遊んで暮らせるだろうけど、売っちゃダメなんだったよね?」

 スピラの言葉に、前にもそういう話をしていたのを思いだす。


「そうですね。偶然拾ったと言ったとしても大騒ぎでしょうし」

「宝の持ち腐れになりそうだな」

「エイシェントドラゴンのウロコはそれだけで強力な魔除けになるんじゃなかった?」

「ふむ。大抵の呪いや魔法は打ち消せよう」


『待って待って待って! なんで普通に会話してるの?! 誰もあの魔法をおかしいと思ってないの?! 空が切れてたわよ??!』

 デインティが飛び上がって、大きく手を振り回しながら主張してくる。

「その瞬間は驚いたが、ジュリアだからな」

「うん、ジュリアちゃんだしね」


「やり方がわかったから、私もできると思うよ。今度ペルペトゥスと再戦する時には使わせてもらおうかな」

「スピラと遊ぶ時には悠長に重ねがけを唱えさせたりはせぬよ。ジュリア嬢が以前ウヌを斬ったというのはまごうことなき真実であろうな。愉快愉快」

 ペルペトゥスが豪快に笑う。風圧がすごい。


『エイシェントドラゴン様まで斬れる人間がいるなんて……』

『デインティはヒトを滅ぼしたいのだったか?』

『……申し訳ありません、ケルレウス様。根底から考え直さないといけない気がしました……』

『うむ。そうするといい』

 そう言ったケルレウスの声が清々しく聞こえた。


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