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19 解呪師と助手を連れて孤島へ


 案内された部屋でブロンソンから明るい調子で迎えられた。

「よう、嬢ちゃんに坊主たち。夏以来か?」

「お久しぶりです、ブロンソンさん。今回はムリを言ってすみません」

「いや、構わない。嬢ちゃんたちは俺たちの大恩人だからな。力になれることがあるんなら力にならせてくれ」

 俺たちという表現には、もちろんジャスティンが含まれているだろう。けれどこの場ではそれ以上に、横にいる彼女を指しているように聞こえた。


「お久しぶりねえ。元気そうじゃなぁい?」

「リリーさん、お久しぶりです。夏にはご一緒じゃなかったですよね?」

 元裏魔法協会のラヴァ。本名リリー・シートン。真っ赤なドレスで妖艶に笑う彼女がブロンソンと一緒にいる。

「ええ。アタシが仮釈放になったのは今月に入ってからなのよ」

「そうなんですね」


「この人が身元引受人になってくれたおかげねえ」

「春からかけあってようやっとだ。キャンディスと魔法卿も保証人になってくれてな」

 ブロンソンが苦笑して、すっと声を落とす。

「ここだけの話、リリーの仲間のタグの坊主……、いや、じいさんか? も、リリーに頼まれて申請はしてるんだがな。けっこうヤバい罪状がいろいろ出ているらしくて、しばらくはムリらしい」

「そうですね……」


 タグは毒使いだ。フィンの時にも、結果的には直接手を下したのはタグだけだったはずだ。これまでも似たようなことをしてきているなら、簡単には釈放できないだろう。魔法の性質が特殊だというのもあるのかもしれないし、自首したトールやラヴァと違って戦って捕まえたことも影響しているのかもしれない。


「それはそうと、ブロンソンさん。王宮の賓客になっているのは予想外すぎたのですが……」

「おう。わざわざ手紙に書くようなことでもないだろ?」

「いや手紙に書くことだと思うよ?」

「ほら書いた方がいいって言ったじゃないの」

「けどなぁ。自分で自分のことを賓客って書くのはどうなんだ? 王宮にいるってのも自慢みたいでなあ。来ればわかるしな」


「心の準備はさせてください……。王宮に来るなら相応のドレスにしてきましたし」

「要らん要らん。オレたちは貴族としてここにいるんじゃなくて、冒険者としているからな。嬢ちゃんの今の服で十分上等だ」

「冒険者としてここにいるんですか?」

「おう。十年くらい前にな、岩山を巣にしていたグレードラゴンを退治したんだ。その時に複数の卵を冒険者協会に納品したんだが、その時の納入先がこの国でな。後から感謝状が来て祭りに招待されたが、そんなことより次の目的地に向かいたかったから断ったのが縁だ」


「断ったんですか」

「遠いだろ? 走ってくるにしろ仲間の魔法使いに絨毯を運転してもらうにしろ、普通はなかなかなぁ。祭りに参加するだけってのに食指が動かなかったってのもあるが」

(走ってくる選択肢があるんですね……)

 オスカーが言っていたとおりだ。けれど、今はそれは置いておく。


「じゃあ今回は」

「もちろん依頼だ。カラーズのドラゴンと渡りあえる冒険者や魔法使いは多くないからな。昔の縁で指名が来た。

 明日、ここでドラゴンサマに供物をささげる儀式ってのをやってから、それをイエロードラゴンの巣まで運ぶ一団の護衛を任されている」

「なるほど」

(『ドラゴンサマ』への供物……)

 羊か何かだろうか。


「まあ最後はオレたちが運ぶことになってるし、もうひとつの目的もあるが、メインは護衛任務っていう認識だな。

 出発までそのへんの宿で適当に過ごすって言ったんだが、どうしてももてなさせてほしいと王宮に引きとめられてな。窮屈でかなわん。

 で、嬢ちゃんたちの方の用件だが。目的地まで転移できるんだろ? なら、今からなら見に行けるが?」

「ありがとうございます。相手には空間転移が使えることを内緒にしているので、近くまで行ってからホウキで連れて行きますね」

「自分のホウキの後ろに乗ってもらえればと思う」

 オスカーが言ってブロンソンがうなずく。リリーとルーカスが軽く目を細めた気がした。


「念のために、ぼくらの本名は教えてなくて。ぼくはレンジャー・イエロー、オスカーはブルーで、ジュリアちゃんはレッドっていうことになってる」

「はっはっは! なんだそりゃ。ならオレはブラウンか?」

「あらぁ、グリーンの方がステキじゃなぁい?」

「おう。ならグリーンにしておくか」


「赤がジュリアちゃんなら、アタシはピンクかしらあ?」

「パープルとかブラックとかの方が似合うんじゃない?」

「ルーカスの坊や、それどういう意味かしらぁ?」

「リリーさんも一緒に行きますか?」

「そうねぇ。解呪に興味はあるのよねえ。呪いを受けた人にも会ってみたい気はするわ。この人、仲間以外には知られないようにしているから、滅多にこういう機会がないのよねえ」


「解呪師の助手ってことにすれば連れて行っても問題ないかもね」

「じゃあ、そうしましょうか。ブロンソンさんはそれでいいですか?」

「おう。リリーについても礼を言いたかったってのと、連れて行く可能性も込みで同席させたからな」



 ブロンソンとリリーを、孤島の洞窟にいるラシャドのところに連れていく。

「まあ……」

 凍った赤ちゃんたちの前でリリーが眉を下げた。


「こいつはまた随分と……、重くてややこしい呪いをかけられたもんだな」

「ほう?」

「呪いがかけられた本体はアンタで……、相手は相当な魔力の持ち主、それも命を賭して呪ったような……、悪いがオレにはそっちはムリだ」

「そうぢゃろうとも」

 初めから期待していないような調子でラシャドが答える。


「子どもたちの方は……、呪いの本体じゃないから、本体と切り離して個別に対処すれば解呪できるかもしれん」

「本当か?!」

「ただし、必要になるものがある」

「なんぢゃ?」


「あ、そのあたりは私たちがなんとかするので、あとで相談しましょう」

「嬢ちゃんたちが?」

「はい。解呪ができたら、そこのアースドラゴンのウロコを譲っていただく約束をしているので。必要経費として対応します」

「なるほどな? わかった」

 ブロンソンが何かを察したようにうなずいた。


「ひとつ、アタシから聞いてもいいかしらぁ?」

「なんぢゃ?」

 リリーの言葉に全体がうなずく。


「もし解呪ができたとして、この子たちを育てられる人はいるのかしらあ?」


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