16 卵探しのための情報
翌日、解呪師のブロンソンに、状況が変わったから急ぎたいと連絡を入れた。それから、メメント王国首都の冒険者協会を訪ねる。
「ミラクル・ボンドのお二人ですね。はい、登録を確認しました」
ルーカスも一緒だが、改めて冒険者ギルドに登録する理由はないから、今は付きそい扱いだ。
「ご依頼は、一、アイスドラゴンの卵の情報。二、ここ六十年でのアイスドラゴンの幼体の目撃情報。三、アイスドラゴンの卵を収集しそうな人、場所の情報。四、過去の遺失物を追跡する特殊魔法が使える魔法使いか、魔道具。以上でよろしいですか?」
「はい」
オスカーが報酬条件を加える。
「一か二が本物だと確認できたら、報酬として百万。三はその詳しさと有益性によってギルド規定の金額で。四は、手付金をギルド規定の金額で。目的のものを見つけられたら追加報酬で百万を支払う。報酬はギルド口座の残金から、自分たちの承認によって支払われる、という形で頼む」
「はい。ギルド口座の残金、確認しました」
ゴーティー王国で得たもろもろを、船を返したタイミングで持ちこんで査定してもらい、とりあえずパーティ用のギルド口座に入れておいた分がほとんどだ。
「二百万以上あるので問題ないでしょう。本件用として二百万を固定して、安心印を付けますか?」
「お願いします」
事前に報酬をギルドが預かっているという安心印があると受注率が上がる。特に高額取引にはあった方がいい。
「かしこまりました。手続きは以上です。三についてはギルドに依頼として来ている情報なら無料でお伝えできますが、聞かれますか?」
「お願いします」
「アイスドラゴンの卵に限定した話ではなく、ドラゴン種の卵というくくりですが、それでいいですか?」
「はい」
「まず、ドラゴン崇拝をしている国、エディフィス王国が、去年からドラゴン種の卵を求めています。まだ取り下げられていないので、今回はまだ十分な量が入手できていないのでしょう」
「今回はまだ、ですか?」
「はい。エディフィス王国では十年に一度、ドラゴン種の卵を目玉焼きにして王侯貴族が食べる風習があるんです」
「え。崇拝しているのに、食べるんですか?」
「神聖なエネルギーを取り込むためのようです。ドラゴン種と言っても、ワイバーンなどの低級ドラゴンの卵が主なようですが、入手できた年にはカラーズの卵が出ることもあるようです。エレメンタルの卵が手に入ったら大騒ぎでしょうね」
「なるほど……」
卵が食べられている可能性は考えていなかった。そうでなくても、六十年も前のことだから、まだそのまま無事だという可能性の方が低いと覚悟した方がいいのかもしれない。
「ファビュラス王国では魔道具研究が盛んになっていて、素材としてドラゴン系のアイテムも積極的に買い求めています。ギルドとしてアイスドラゴンの卵の取引情報は把握していませんが、他のルートで買い取っている可能性はあるでしょう」
ファビュラス王国はジャスティンとキャンディスのところだ。魔道具研究はジャスティンが主導しているのだろう。
(聞けば教えてくれそうね)
「最後に、ゴーティー王国ですね」
(ん?)
最近聞いたばかりの名だ。
「ゴーティー王国には歴代の国王が王墓を競う風習があって」
(そうね。作ってきたし)
「外見だけではなく、共に埋める副葬品でも格が決まるのだとか。ドラゴン系のアイテムはかなり上位になるし、エレメンタルの素材は元より、卵も常に求められていますね。さすがに生体は入れられないようですが」
「卵なんて埋葬したら、孵った時が大変じゃないですか?」
「古代から受け継がれている独自の方法で、王墓の中では時間が止まるのだとか。なので孵る心配はないようですね」
(世界の摂理の祭壇も時間が止まっていたから、不可能ではないわよね)
自分は時を止める魔法を知らないし、魔法協会と冒険者協会はゴーティー王国からしめ出されているけど、魔法陣や魔道具が独自に受け継がれている可能性はある。それらの技術なら、魔法使いがいなくても魔石が手に入れば問題ないはずだ。
「ありがとうございました。他の情報が入るまで、それらをあたってみたいと思います」
「はい。どうぞよい冒険を」
冒険者協会を出て、少し早い昼食をとりつつ三人で作戦会議をした。
「ゴーティー王国に一番に行きたいところだけど、しばらく行かない方がいいかもね」
「行かない方がいい、ですか?」
「うん。魔法協会が場所の移動を把握していて、絨毯とかの目撃情報もつかんでるってことは、王様とか島の人たちとかもさすがにもう気づいてるでしょ?
移動情報がある程度一般的になってから大陸を出発するとして……、最低あと一週間とか十日とかはあけた方がいいと思う。
王墓に卵が納められているかどうかは、できれば王様に聞きたいところだからね。そうなると信頼を得ているぼくらが行った方がいいんだろうけど、移動先の情報をつかんで訪ねるまでの期間が短すぎるとおかしいよね?」
「なるほど……」
「本来なら一番に行きたいというのは、時間が止まったまま保管されている可能性があるからか?」
「うん。六十年前の卵がまだ無事な可能性って、そういう場所で保管された場合だけだろうからね。
魔物の卵が孵るのに必要な条件は、適温と相応の魔力だったっけ。孵らないで、腐りもしないで、生きたままってなると、ね?」
「そうですね……。ドラゴンの卵は他の種族よりは強いでしょうが。それでも六十年となると厳しいですよね……」
「まあ、無事な可能性は針の穴を通すくらいだと思ってた方がいいと思うよ」
「わかりました」
冷静に考えると、割れたり壊されたりしていなくて、腐ってもいなくて、まだ卵が生きている方が奇跡的な気がする。
「そんなわけだから、今日はファビュラス王国にでも行く? ある可能性は低いけど、念のために可能性を潰しておく感じで」
「やっぱり可能性は低いですよね」
「魔道具開発に力を入れ始めたのはジャスティンの即位後だからな」
「うん。最近盗まれたなら行き先の候補になるだろうけど、六十年前だからね。相当の運がないと手に入らないだろうね」
一応確認しておく、くらいな感じだろう。
「ちなみに、ジュリアちゃんはエディフィス王国には行ったことある?」
「いえ。記憶にないです。東の方でしたっけ?」
「東の方の比較的大きな国ではなかったか?」
「なら、地図を確認してホウキか絨毯で移動だね。なるべく近くまで空間転移してから、普通の速さで、かな。魔法卿に疑われる要素はなるべく減らしておきたいから、ぼくらって特定されにくいように」
「魔道具の絨毯をミスリルで囲った時点で名札をつけているようなものだからな……」
「便利だったんですけどね」
人に目撃される可能性があるところではいったん封印ということなのだろう。気に入っていたから残念だ。




