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9 凍土の魔物と戦ってみた


 この集団、もう軍団と呼んだ方がいいこの数の討伐ランクはゆうに最高のSを超えるだろう。有力な冒険者や冠位魔法使いが複数人投入されるレベルだと思う。

 それぞれ単体での強さのランクは、

C:スノーマン

B:スノーバード

A:アイスゴーレム、フロストバイトベア、ブリザードレパード

S:アイスジャイアント

 くらいだっただろうか。


 魔道具の絨毯じゅうたんを運転しているスピラが顔をしかめた。

「いやおかしいよ。みんな雪や氷の眷属だから、この大陸にいるのはいいよ? けど、魔物があんなに集団行動をしてるって異常だよね?」

「とりあえず話を聞いてみましょうか」

「あれを見て逃げるのでも戦うのでもなく、話しに行こうとするのか……」

「あはは。ジュリアちゃんって肝が据わってるよね」


「言葉が通じればなんとかなることってあるでしょうし、ならなかったら戦ったり逃げたりすればいいかなって」

「突然攻撃されることもあるだろうから、身体強化に加えて、プロテクションもかけて行けたらと思うが」

「そうですね。用心に越したことはないですものね。ゴッデス・プロテクション」


 とりあえず全員に最上位の防御魔法をかけておく。アイスジャイアントに殴られたり蹴られたりしても数回くらいは問題ないはずだ。


「あはは。ジュリアちゃんほんとオーバースペック!」

「いや、自分も用心に越したことはないと思う」

「それがさらっとできちゃうからね。ちなみにぼくは中級のフェアリー系統も使えないからね?」

「自分はフェアリーまでで、上位魔法のエンジェル系統をトレーニング中だ」

 系統的に効果が上がる魔法には、防御や回復などがある。下から、何もつけないのが下級魔法、中級魔法がフェアリー、上級魔法がエンジェル、最上級魔法がゴッデスとされている。


「ちなみに、ゴッデスの上にアルティメット・ゴッデスまであったりしますよ。通常は使えないので分類されていませんが」

「使えるということか……」

「前にあなたを蘇生した時に回復魔法を使いましたね」


 なんともないようにとりつくろったけれど、思いだすだけでちょっと泣きそうだ。オスカーが小さく笑って、そっと抱きよせてくれる。甘えて彼を感じれば、すぐに落ちついた。

 話すうちに、絨毯と魔物たちがかなり近づいた。足音にまぎれて聞きとりにくかった声が、意味を持って聞こえるようになる。


『ニンゲン ホロボセ』

『ニンゲン ホロボセ』

『ニンゲン ホロボセ』

『ニンゲン ホロボセ』

 まるで足並みを揃えるための号令のように、たくさんの声が重なって響いている。


「え」

「人間滅ぼせって言ってるね」

「戦うしかなさそうだな」

「ちょっ、待ってください。ヒュージ・ボイス」

 拡声魔法で大きなメガホンを出す。

「私たちは用があって来ただけで、あなたたちと敵対するつもりはありません。終わったら出ていきます。統率者がいるなら、話をさせてください」


『言葉が通じるの?! じゃなかった、聞く耳を持つな。滅ぼせ!!』

『ウォー!!!』

 反応してきたのは女の子の声に聞こえた。大きなものではないが、全体に伝わっているようだ。


「……ダメそうですね」

 第一陣として突撃してくるスノーバードたちを、絨毯を操縦するスピラがスイスイとよけていく。

「どうしましょう?」

「戦うか逃げるかってこと? 逃げても結局戦わないと、アイスドラゴン探しどころじゃない気はするね」

 参謀ルーカスの言葉にペルペトゥスが口角を上げる。


「相手が魔物であらば手加減は不要であろう?」

「えっと……、そうですね。戦う気の相手なら」

「ふむ。愉快よ」

 ペルペトゥスが笑って絨毯から飛び降りる。それなりの高度だ。ドンッという重い音と共に氷の地面がひび割れた。ここぞとばかりに群がってくるスノーマンたちを軽々と蹴散らしていく。


「自分も行こう」

「じゃあ、私も」

 オスカーと並んでホウキを出す。

「あはは。うちのパーティって政治的なことより戦う方がイキイキするよね。知ってた」

 ルーカスがカラカラと笑って前方に移動する。

「スピラさん、運転代わる?」

「お願いしようかな。オスカーくんとペルペトゥスだけにいい格好はさせられないからね」

「ぼくはひと段落するまで退避してるね」

 スピラもホウキで飛び、ルーカスが絨毯に乗って戦線を離脱していく。


「ファイアアロー・シャワー」

 ルーカスの絨毯を追うように向かったスノーバードの一団を大量の火の矢で撃ち落としておく。

「さすがジュリアちゃん、相変わらずのオーバースペック」

 ルーカスの笑い声が聞こえた気がしたけれど、気にしないで意識を下に向ける。


「ミスリルプリズン・ノンマジック」

 試しに魔法封じのミスリルの檻を展開する。スノーマンやアイスゴーレムの動きを止められる可能性があるかと思ったが、魔法封じは効果がなさそうだ。魔法で動いているのではなく単体の生物らしい。


「じゃあこっちですかね。ミスリルプリズン・ノンマジック」

 吹雪や氷の魔法を繰り出してくるフロストバイトベアとブリザードレパードの群れを、巨大な魔法封じの檻で囲って無力化する。


 アイスジャイアントが巨大な氷の棍棒で檻を物理破壊しようとしてくる。

「エクスプロージョン! ブレージングファイア・プリズン!」

 爆発魔法で棍棒を破壊して、アイスジャイアントを強力な炎の檻に閉じこめる。物理的なミスリルよりも破壊が難しい、火炎属性の檻だ。


『ちょっ、え、ちょっ、おかしくない?!』

 再び指揮官らしい声がした。戦闘音にまぎれた、かすかなものだ。


 他を見やると、オスカーは炎の剣で軽々とスノーマンとアイスゴーレムを斬りたおしている。身体強化がかかったままだから素早い。自分にも身体強化をかけていなかったら目で追えなかっただろう。壊された雪や氷のエリアがどんどん広がっていく。

(カッコイイ!!)


 ペルペトゥスは物理破壊に加えて、時々炎を吹いている。拳の一撃で数体が吹っ飛び、炎のブレスがあたり一面を溶かしていく。

 スピラはオスカーとペルペトゥスから離れた場所で、巨大な炎の竜巻を複数出現させて燃やしつくしていく。スノーバードたちも巻きこまれているようだ。


『待って待って待って! スノーフェアリーたち! あいつらを吹雪で閉じこめて!!』

 声が聞こえた直後、何もない中空にじわりと吹雪の元ができ始める。


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