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6 小休憩


 オスカーの誕生日デートは最終的には悪くなかった。途中が想定外でどうなるかとは思ったが。

(無人島サバイバル気分はまたの時にリベンジかしら)

 その部分はけっこう楽しかったから、自分もそういうのは好きなのだろう。

(一緒にクエストを受けに行くのも楽しみ)

 婚約指輪を買う条件としてそう言われたのだが、彼と一緒の未来の約束はそれだけで嬉しい。


 朝の準備を整えて、オスカー用の建物を訪ねる。

「おはようございます」

「……ああ。おはよう」

 出てきた彼が眠そうだ。少し顔も赤い。

「あれ、体調悪いですか? 今日は船に行かないでお休みしていますか?」

 魔法船を返却するのにあと四日ほどかかる予定だ。その間は寝ていても問題ない。思えば、無休でムリをさせていた。交代でみんな休んだ方がいいかもしれない。


「いや……、少し寝不足なのと、うつらうつらしながら見た夢が……」

「夢?」

「……なんでもない。朝食を用意して船に向かおう」

「? ムリはしないでくださいね」

「ああ」

 答えた彼からそっと触れあうキスを受ける。嬉しい。どんな夢を見たのかが気にならないわけではないけれど、彼は話したければ話すだろう。


 食材を買い足して船に向かう。

 船の厨房で朝食を用意している時に、オスカーがルーカスに何やら小声で言ったら、ルーカスに盛大に笑われた。

「あっはっは。でも役に立ちそうでしょ?」

「お前は……」

(プレゼントの話かしら?)

 何をもらったのかはわからないけれど、そのあたりのことな気がする。


 船でゆっくり過ごすことになり、これはこれで小休憩としていい気がした。

 交代で休む案はすんなり採用されて、休暇の日を決めたのに、誰ひとりどこかに行こうとはしなかった。オスカーのときに一緒に約束のクエストを受けたくらいだ。それもちゃんと休憩になったのかは怪しい。


「みんなちゃんと休めてますか?」

「今は仕事らしい仕事もしてないし、かなりゆっくりしてると思うよ?」

「ジュリアちゃんを眺めているのが一番の休憩かな」

「うぬは暇過ぎるのう。スピラが芸でもしてくれるとよいのだが」

「私はペルペトゥスのおもちゃじゃないからね?」


「そうであったか? ネコにとってのネズミくらいの認識であるが」

「ちょっ、それ完全に食べ物兼おもちゃだよね?!」

「可食部は少ないが魔力は多いから悪くはないかもしれぬ」

「ペルペトゥスが言うと本気なのか冗談なのかわからないんだけど?!」


「あはは。スピラさんがおいたをしない限りは食べないでね」

「それ状況によっては食べていいってことだよね?!」

 スピラがつっこみ疲れしないか心配だが、じゃれているのは楽しそうにも見える。


「オスカーはどうですか?」

「自分はジュリアと二人でいられる時間も増えたし、船上でトレーニングの時間もとれて満足しているが。むしろジュリアは疲れていないか?」

「今は特には。お休みも、ひとりでいるよりあなたといられる方が休めた感じがしますし」

「そうか」


「二人でひとつの船室を使ってくれてもいいんだよ? 昼でも夜でも」

「試されている気しかしないのだが」

「私もそれはまだ早いかなって」

 自分が襲いそうだから、襲ってもよくなるまでは室内で二人きりにはならない方がいいとは、さすがに言葉にはできない。この前なんとかガマンできたのが奇跡みたいなもので、次も大丈夫だとは思えない。


「あはは。聞いてる感じだと大丈夫だと思うけどね」

 どこまで聞いていて何に対する大丈夫なのかがわからない。オスカーと顔を見合わせて、それからお互いに恥ずかしくなって視線をそらした。



 ブロンソンから返事が来たのは数日後、もう少しで船を返却できる頃だ。すぐに返事が書けなかったお詫びと、まず一度見せてほしいと書いてあった。

 しばらくバタバタしているが、セイント・デイの翌日から二週間ほどは、ファビュラス王国の実家でゆっくりする予定とのことだ。もし緊急性があれば折々に場所を知らせるから迎えに来てもらえるなら対応できると添えてあった。


 全員に共有する。

「そのタイミングに行けそうなら行く、難しそうならまた連絡するっていう感じでいいんじゃないかな。お爺さんの方はもう数十年経ってるなら、この二ヶ月ちょっとでどうのこうのはないと思うよ」

「そうですね」

「心配があるとすれば本人の寿命くらいだろうが。あれだけ元気なら大丈夫じゃないか?」

「うーん……、ご高齢なのは確かに心配ですね……」


「ぼくらはぼくらの用事を優先する。人助けは余力があれば。そうしないとずっとゴールに着かないよ?」

「……それは、そうですね。ブロンソンさんにムリを言うのもなんですし、その方向でお返事します」


「船を返したら一緒に通信用の魔道具を買いに行こうか。ついでに魔法卿にも安否連絡をしなきゃね」

「あ、もうけっこう経ってますものね」

「ゴーティー王国用の買い出しのタイミングには連絡を送ったけど、それでも少し開いちゃってるからね。多めに魔道具の予備を用意してもいいかもね」

「そうですね。いくつか買っておきましょう」


「この後は北に向かうのだろうか」

「うん。ぼくは最後の祭壇に行っちゃっていいと思うけど」

「うむ」

「なら一度、ホットローブを取りに戻れたらと思う。完全な魔物の領域らしいから、一見して魔法使いであることがわかる姿でも問題ないだろうからな」

「そうだね。毎回気温調整の古代魔法をかけてもらうのも悪いし、ぼくもそうしようかな。

 スピラさんとペルペトゥスさんは、ホットローブどうする?」


「私は魔法でもぜんぜんかまわないけど、ジュリアちゃんも着るなら、おそろいもいいなって思うよ」

「ジュリアのは自分が贈ったものだが」

「そこマウントとらなくていいからね? すっごいうらやましいけど!」

 まだつきあい始めてそう経たない頃に、セイント・デイのプレゼントとしてお互いに贈りあったものだ。あれから一年も経っていないのに、ずいぶん懐かしい気がする。


「私は男性にならなくてもいいですか? 人がいないなら」

「そうだな……。男になったらなったであんなことになるのはかなり予想外だったが」

「ですね……」

 自分が女性であることがいろいろな面倒ごとの原因だと思っていたけれど、そうとは言いきれないようだ。


「ペルペトゥスさんは?」

「ウヌは必要あらぬし、この姿だと魔力を使えぬから、魔道具のローブは使えなかろう」

「そうでしたね。普通のローブでおそろいにします? プレゼントしますよ。私の用事ですし」


「待って、ジュリアちゃん。私は? 私にはプレゼントしてくれないの?」

「待て。ジュリアにたかるな」

「いやだってペルペトゥスだけ買ってもらえるのはずるいよね?」

「ペルペトゥスさんはお金がないと言っていたし、ひとりだけ仲間はずれも、と思ったので。でも、スピラさんのも買ってもいいですよ」


「うー……、そう言われるとなんかすごく情けない気がする……」

「あはは。じゃあスピラさんのはぼくとオスカーから贈ろうか」

「いやそれ違うのわかってて言ってるよね?」

「ジュリアと自分の問題だからな。自分とジュリアで半分ずつでもいいぞ」

「それ着るたびに泣きたくなるやつじゃん!」


「物はもらえば同じであろう? スピラはワガママが過ぎるのではないか?」

「私の味方はいないのかな?!」

「えっと……、スピラさんにも感謝してますよ?」

「やっぱり私にはジュリアちゃんだけだから、これから二人でデートしよう?」


「調子に乗るな。ジュリアはコレを甘やかさないでほしい」

「ううっ、難しいけど気をつけます……」

 甘やかしているつもりはないし、あの流れでデートに誘われたのも意味がわからない。けど、オスカーにイヤな思いをさせたくはないから、できる範囲では気をつけることにする。


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