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5 [オスカー] 最高の誕生日


「ということがありまして」

「あっはっは! ジュリアちゃんもオスカーも巻きこまれ体質過ぎない? 久しぶりの二人きりの休暇なのに何やってるの。しかも年に一度の誕生日に」

 ひとまず船に戻って、小島の爺さんとの一部始終を話したら、ルーカスに盛大に笑われた。


「もう慣れてきた自分が怖い」

「普通にデートをしていた時期もいろいろありましたものね……」

 ジュリアが山のヌシにされたり、魔法卿と知らずに魔法卿と戦っていたり、虫退治をして粘液でぬるぬるになったり、貧民窟の話になったり、ドワーフとオフェンス王国の問題に首をつっこんだり、ダークエルフ(スピラ)に絡まれたり、ファビュラス王国やら裏魔法協会やら、思い返すといくらでも出てくる。本当にいろいろあった。

(普通のデートなんて数えるほどもできてないんじゃないか?)


「うぬの血を提供するのはかまわぬ。朝方にも約束しておるしのう」

「それはオスカーにですよね?」

「自分へのプレゼントという形でかまわない。他に用途も思いつかないしな」

「ありがとうございます」


「まずはブロンソンさんに見せるところからだろうね。解呪師によって方法が違うらしいから、できるかどうかと、必要なアイテムが同じかを先に確認した方がいいと思うよ」

「そうですね。ちょっと連絡を飛ばして……、今日の今日というわけにはいかないでしょうから、デートの続きをしましょうか」

 最後の言葉が輝いて聞こえる。今日はもうあきらめていたから、嬉しい。


 ブロンソンは世界を飛び回る冒険者だ。特定の場所にはいないから、魔道具の手紙が妥当だろう。返信用の魔道具も同封して、ジュリアが送った。


「だいぶ遅くなっちゃいましたね」

 日が落ちる少し前といったところか。

「行きたいお店があるので、つきあってもらってもいいですか?」

「ああ。もちろんだ」

 特に自分に行きたい場所があるわけではないし、考えようとするとろくでもないことしか浮かばないから、むしろ助かる。


 彼女と手をつなぎ、ひと気のないところからひと気のないところに空間転移する。着いたのは、やたら見覚えがある場所だ。

「ホワイトヒルか?」

「はい。知り合いに会わないようにした方がいいとは思うのですが、このあたりならそんなに会わないかなって。買うならやっぱりこのお店がよくて」

 そう言って連れて行かれたのは、自分が彼女にエンゲージリングを買った店だ。


「もしあなたがよければなのですが。セットのエンゲージリングをもらってくれませんか?」

 左手の薬指に輝くリングを示して彼女がほほえむ。

「いいのか?」

「はい。あなたがイヤでなければ」

 男性のエンゲージリングは女性がするものや結婚指輪ほど一般的ではないが、何割かは付ける人がいるという印象だ。もちろん付けることに抵抗はない。ただ、高価なものだから、彼女に買わせていいのかとは思う。


「とりあえず見せてもらいましょうか」

 イエスと言いきれないでいたら、デザインを心配していると思われたのだろうか。彼女に手を引かれて店に入る。


 店員は覚えているようだ。彼女が男性用のエンゲージリングを見たいと告げると応接室に案内され、いくつかのデザインを出してくれた。

 最初に見せられたのは、彼女のものとデザインを合わせ、男性向けにリングを太めに、石を小さくして中にはめこんだものだ。


「いかがでしょうか」

「……自分が半分出すというのは」

 付けることやデザインにはなんの不満もないし、むしろ嬉しい。が、やはり金額が気になる。


「誕生日プレゼントなのにそんなことはさせられませんよ。そもそも私が贈りたいだけだし、あなたにはもっと買ってもらっているし、お給料は貯まっているし、必要ならクエストを受けるなり素材を売るなり、手はいくらでもあるので」

「……わかった。今度、一緒にクエストを受けてくれるなら」

「ふふ。わかりました」

 一緒に稼いだ金なら申し訳なさはだいぶ減る。


 ジュリアの時と同じように、少し待って魔法でサイズを調整してもらった。

 それから、中央魔法協会があり魔法卿の家があるメメント王国の首都に戻る。そこの方が今いてもおかしくない場所だし、知り合いも少ないからだろう。


「夕食はソフィアさんオススメの、個室があるレストランを予約したんです」

「いつの間に……」

「ふふ。移動は簡単なので」

 プレゼントとディナーはだいぶ考えてくれた気がする。何よりその気持ちが嬉しい。


 連れて行かれた店はかなり高級感がある、普段は専属のコックがいるような上流階級も出入りがありそうな、明らかにドレスコードがある店だ。指輪を買いに行ける格好ではあるから、問題はない範囲か。

 高級な壁紙やカーテン、調度品や絵画で彩られていて、順に出てくるコース料理もかなり美味しい。上質で贅沢な時間の流れを感じる。


「改めて、お誕生日おめでとうございます」

 食事を終えたタイミングでジュリアから言われて、席を立った彼女から口づけられる。

 腕を回して、何度かキスを重ねる。二人きりだけど完全な二人きりではない空間ならやりすぎずにガマンできるから、今の自分たちにはちょうどいい。


「ありがとう、ジュリア。最高の誕生日だ」

「喜んでもらえて嬉しいです。また来年も、その次も、それからずっと、たくさんお祝いしますね」

「ん……」

(かわいすぎる……)

 そろそろ部屋を出た方がいいだろうと思いつつ、もう一度だけ唇を重ねた。


 船をルーカスたちに任せたまま、拠点のそれぞれの部屋に戻った。別れるのは名残惜しかったけれど、ここで連れこんだら確実に止まれない。

(うまくいけばもう少しなはずだしな……)

 あと祭壇ひとつと、世界の摂理を呼びだす場所。その二か所で結論は出るのだ。他のことに首をつっこんだりもしているが。


 部屋で休もうとしたところで、ルーカスからもらったプレゼントを思いだした。開けてみると、表紙に『指南書』と書かれた本だった。本はそこそこ高級品だ。奮発してくれたのだろう。

 いったいどんな優れた武術の指南書だろうかとわくわくして開ける。


 少し読んで、書かれている方向性を理解し、恥ずかしくなってパタンと閉じた。

(夜の営みの指南書じゃないか……)

「ルーカス……」

 そろそろ必要になるかもと言われたが、いったい何をもってそう思われたのだろうか。つながらずに触れあうことにもページ数が割かれているようだから、そちらを参考にすべきなのか。

 絶対に一人の時に開けるように言われた意味を理解した。これは確かに、ジュリアに見られるわけにはいかない。


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