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34 王墓作りと最後の仕上げ


 予定通り、船を出してから五日でゴーティー王国についた。女性商人の姿のルーカスとペルペトゥスが王宮におもむいて、その日のうちに奴隷たちを船に乗せてもらう。

 オスカー、スピラ、自分は完全透明化で同行だ。奴隷と関わる間は、自分は目隠しをして見えない状態にしておく。


「して、我が王墓はいつできる?」

「明日の朝までには」

「おもしろい冗談だ」

「どうぞ楽しみにしていてください」

 女性商人ルカにふんしているルーカスが笑う。


 誰がどんな魔法を使うのかを見せないために、夜中に作業することになっている。

 透明化した自分がルーカスの演技に合わせて魔法をかける案もあったが、ルーカスがそれだけの魔法を使えると思われると取り込もうとされる可能性があるのと、古代魔法も併用するため、手段はすべて秘密にして、神秘的なものにしておく方がいいということになった。


 いつものようにマスタッシュ王国で女王様を寝かせてから、ゴーティー王国に空間転移で戻る。

 王墓を作るのに指定された場所で、魔法で小さな灯りを出した。


 みんなが見守る中で、まずはルーカスから渡された模型を入念にチェックする。入り口や中の形など、細かい指定が入っている。

 自分が作るのは、いつでも入れる状態の王墓だ。できあがった後に王国の専属絵師が中に絵を描くらしい。完全に塞がれるのは、いつか国王様が永眠した時だ。


 全体が頭に入ってからホウキで浮かび、製作位置に灯りを並べる。

「始めますね。ラーテ・エクスパンダレ」

 まず小さめの広域化で補助を入れて、

「ミスリル・プリズン・エターナル」

 意図した解除や破壊をしない限り長期的に維持されるミスリルのおりで土台を作る。

 上が欠けた円錐型えんすいがただ。長く持たせるために、ここでかなり魔力を使う。


「ラーテ・エクスパンダレ。フィト・ウィア・ウィー。プレイ・クレイ」

 広域化、魔法を強化する魔法を唱えてから、土魔法で指定の形を組み上げていく。


「……これでどうでしょう?」

「うん。さすがジュリアちゃん。完璧だね」

 王様の指定は正しい向きのあごひげ型だ。水が流れず風も強く受ける形なため、風雨に強くするための細かな機構を組みこむのが一番難しかった。



 翌朝、マスタッシュ王国での朝食を終えてから、女性の姿のルーカス、ペルペトゥスについていく形で、透明化してゴーティー王国の王様に謁見した。


「本当に一晩で作り出すとは。朝方視察してきたが、期待以上だった。お主、宮廷魔法使いにならないか?」

「たいへん光栄ですが、私が作ったわけではありませんので」

「では、誰が?」

「それは秘密です」


「ふむ。これ以上は不粋ぶすいか。よい。たいそう気に入った。奴隷以外にも褒美をとらす」

「ありがとうございます」

 金塊を三本持たされた。原価はゼロだから自分なら遠慮してしまうだろうが、ルーカスはまったく悪びれずに堂々と受けとる。

 が、重くて持てなかった。運ぶのはペルペトゥスだ。


「また来るがよい」

「機会があればぜひお伺いしますね」

 ルーカスが社交辞令を返して、奴隷を乗せた船に戻る。


「あとは明日、最後の仕上げをして終わりですね」

「ああ。やっとジュリアが女王のお相手役から解放されるな」

「あはは。それはどうだろうね?」

「不吉なことを言わないでください……」


 なんとしてでも明日中に解放されて、明後日のオスカーの誕生日にはゆっくり二人でデートしたい。

 そのために、「この件が片づいたら、デートしたい」という約束をしたのだ。



 翌日、魔力が回復したところで、船の甲板でオスカーのホウキに乗せてもらう。安全のために前で抱きこまれる形だ。心臓が跳ねて、なかなかドキドキが収まらない。魔法に集中できない気がするのは、なんとかするしかない。

 かなり魔力と集中力を使うため、自分で飛ばない方がいいのだが、絨毯じゅうたんだと下が見えにくい。オスカーのホウキが最善ということになったのだ。


 見送りに立ってくれているルーカスたちにオスカーが声をかける。

「行ってくる」

「うん。ジュリアちゃんをよろしくね」

「行ってきます」

「がんばっておいで。後のことはぼくらがなんとかするから」

「ありがとうございます」

 今回については、とんでもないことを言いだした自覚はある。それでもみんなが支持してくれて、参謀ルーカスがやっていいと言ってくれたから安心だ。


 自分たちに透明化をかけて、ゴーティー王国の上空に向かう。

 ちょっとオスカーと二人きりの時間ができたのが嬉しい。大仕事をする前の緊張やドキドキと、オスカーを感じているドキドキが混ざって心臓が騒がしいままだ。


「ジュリア」

「……はい」

 柔らかい音で呼ばれた。耳に落ちるくすぐったさは嬉しいのに、答えた自分の声が少し硬い。


「ジュリアの魔法は多くの人を救ってきたし、今回も救うことになる。たとえ感謝する者がなくても、もし非難する者がいたとしても、自分はジュリアの優しさを知っている」

 丁寧な音が心の奥にみこんで、胸が熱くなる。

「……はい」

 声から緊張が抜けて、ワントーン上がっている。オスカーは自分にとって最高の魔法使いだ。


 ほどなくして、ゴーティー王国の上空についた。

「ラーテ・エクスパンダレ」

 広域化の魔法で、丁寧にゴーティー王国を包む。マスタッシュ王国に隣接しているところは特に注意が必要だ。


「フィト・ウィア・ウィー。ミスリル・プリズン」

 魔法強化の魔法をかけてから、ゴーティー王国全土をミスリルのおりで囲った。海底との接地面を切り取る形だ。


「フィト・ウィア・ウィー」

 もう一度、魔法強化の魔法をかける。その間にオスカーが少し高度を下げて、ミスリルの檻に触れられるようにしてくれる。

「テレポーテーション・ビヨンド・ディスクリプション!」

 めいっぱいの魔力を使って空間転移を唱えた。


 ミスリルの檻に触れたまま、その中に囲ったゴーティー王国ごと、事前に決めた場所へと動かした。

 下見をしておいた転移先は大陸の反対側だ。大陸と島の距離、気候、海底からの深さはあまり変わらないあたりを選んである。


「リリース。フィト・ウィア・ウィー。プレイ・クレイ」

 ミスリルの檻を解除するのと同時に、海底を少しいじって、よりしっかり接地させて島を固定した。ゴーティー王国の人たちは少し揺れを感じたかもしれないが、昨日作った王墓には一切影響がなさそうだ。


 マスタッシュ王国とゴーティー王国が争い続けるのは、距離が近いからなのだと思う。物理的に簡単には到達できないほど離してしまえば、二度と戦争はできないだろう。

 そう考えて、陸路でも海路でもかなり離れた場所に移した。自分たちのような移動手段がない限り、二度と互いが会うことすらないはずだ。

 かなりの力技だけど、それを超える解決策は浮かばなかった。


(……ぁ)

 体の力が抜けるのを感じる。完全に魔力の使いすぎだ。


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