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29 作戦を決めて二手に分かれる


 ルーカスとペルペトゥスが宿をとり、全員で部屋に入った。二人にも透明化をかけて絶対に周りに知られない状態にして、やりたいことを共有した。


「……なるほどね。ジュリアちゃんの考えはわかったよ」

「本気か……?」

「はい。それ以上の手があるなら別ですが」

「未来永劫、争いが起きないようにするっていう意味だと、ジュリアちゃんの案以上はないだろうね」


「ありがとうございます。問題は、奴隷になっている人たちをどうやってマスタッシュ王国に帰すか、という方でしょうか」

「そうだね。見た感じだと、国の所有物として使われている感じだね。だから逆に、反感を持ってる個人から殺されてないっていう見方もできるかな」


「だと、交渉相手はあの国王か」

「王侯貴族の中だと話がわかる方だと思うよ? ぼくらへのお土産、誠意を感じるから」

 返礼品として受けとったのは黒真珠のネックレスだ。貴族が身につけても遜色そんしょくがない、大つぶで形のいいものが二重に連なっている。ちゃんと、姿を現していたルーカスとペルペトゥスの二人分だ。


「今回の全部の購入費用を軽く上回りましたね……」

「あはは。他のものをがんばって売らなくてよくなったね」

「なんだかだましたみたいで申し訳ない気がします」

「そう? 献上品の原価は確かに安いけど、スピラさんとジュリアちゃんがほどこした加工は他では絶対に手に入らないからね。

 希少性で言えばこのアクセサリーじゃぜんぜん及ばないから、向こうは大きく得したと思ってるはずだよ」

「それはそうかもしれませんが……」


「あの王様なら、王様が価値を感じるものとなら奴隷を交換してくれる気がするね」

「価値を感じるもの……」

「そうだね……、たとえば、奴隷が作らされているお墓より立派なお墓、とか?」

「立派なお墓、ですか?」

「うん。奴隷には作れなさそうなやつ。ぼくが設計して、ジュリアちゃんが建てるの。どう?」


「魔法卿の庭に土の家を建てたのの大きい版っていう感じですね。できますよ。メインの魔法があるので、魔力は少し心配ですが」

「一日休めば大丈夫?」

「はい。それなら問題ないかと」


「奴隷にした男たちをマスタッシュ王国に帰すのは絶対に許されないだろうから、船で大陸の方に運ぶふりをする必要があるんだよね。ある程度は船を走らせるから、仕上げは回復してからでいいよ。男たちもいないのに今日明日ですぐまた戦争にはならないだろうしね」

「わかりました」


「どっちかっていうと船を借りるのが大仕事かな」

「冒険者協会で借りれるんじゃないか?」

「魔道具である必要はないから、それが妥当かな。もらったネックレスひとつを換金すれば足りるでしょ。あと、奴隷全員の一日分の食料……は、王様との交渉で出してもらおうかな。

 今日の今日でっていうのは性急すぎて足元を見られるかもしれないから、今日明日くらいは普通に商売をして、明後日あたりに話しに行ってみるよ」


「わかりました。その間私たちは……」

「マスタッシュ王国の方でやりすごしてもらってていいかな? 女王様のねやの工作はスピラさんがわかるから、透明化をかけてスピラさんをそっちに連れて行っておいて」

「数日別行動ということだな」


「このくらい離れちゃうと通信の魔道具は使えないから、午前中に打ち合わせの時間をとるようにしようか。ジュリアちゃんたちは朝食後には解放されるよね?」

「はい。夕方以降は女王様を寝かせるまで動けないので。その時間がいいと思います」

「じゃあそのタイミングで、今日と同じ手順でマスタッシュ王国を抜けて、ここまで空間転移で来てもらっていいかな」

「わかりました」


 細かいことを詰めてから、ゴーティー王国のことはルーカスとペルペトゥスに任せ、空間転移でマスタッシュ王国の森の中へと戻る。


「ムーターティオー・ウィル」

 スピラにかけてもらった時の感覚を辿りながら、自分で男性になる魔法をかけてみた。

 全体としては問題ない気がするけれど、髪は長いままだ。

「うーん、難しいですね……」

「ううん、かけられた感覚だけで、この短期間でここまでできるのが異常だからね?」


「髪、切っちゃいましょうか」

「待て。伸びなかったらもったいないし、切った髪をどこに捨てるんだ?」

「それもそうですね……」

 ジュリオの長さにして戻らなかった場合、実家に帰った時に驚かれる気がする。


「一回解いてくれる? 今回私がかけたら、次はもうできそうな気がするよ」

「わかりました」

 解除すると、すぐにスピラが唱え直してくれる。今度は髪の長さまでバッチリだ。


「なるほど……、あのへんが違ったんですかね。感覚を忘れないうちに試していいですか?」

「うん。じゃあ、私がかけた方を解くね。リーベラーティオ」

「ムーターティオー・ウィル」

 元に戻ったのを確かめてから、もう一度自分でかけ直す。


「どうでしょう?」

「バッチリに見えるな」

「やっぱりすごいね、ジュリアちゃん」

「世界の摂理の力の片鱗かもしれないと言われるとすごく複雑ですが。新しい魔法を使えるようになるのは単純に嬉しいです」


「自分も何か新しい魔法を覚えたいが。エンジェル系とミスリルにまだ苦戦しているからな……」

「中級魔法から上級魔法に上げるのって、なんでかちょっとハードルありますよね。お父様が上級魔法に辿りついたのは三十代半ばくらいだと聞いています。あなたの歳で上級魔法を使える魔法使いはほとんどいないので、ゆっくりでもいいと思いますよ?」


「……正直に言うなら、悔しいと思っている。ジュリアと比べてもしかたないのは重々わかっているつもりだが」

「ふふ。前の時と逆ですね」

「逆?」

「だって、追いかけても追いかけてもあなたが先に行ってしまうから。私だってちょっと悔しかったんですよ?」

 笑って見上げると、オスカーが目をまたたいた。


「……性別変更されていなかったら、キスをしていたと思う」

「え」

 なんということを言うのか。この流れでどうしてという思いより、嬉しいような恥ずかしいような感じが強い。顔が熱い。


「……一度戻しますか?」

「はいはい、いちゃつくのはそこまでにしてくれる?」

 スピラが割って入ったと思ったら、オスカーに引きよせられ、おでこにキスされた。

「このままでも支障がない気もするな」


「だから私もいるの忘れないで?!」

「忘れてはいないし、むしろ見せつけているのだが?」

「オスカーくんってそういうとこあるよね……。私だけ透明化してる間にジュリアちゃんにイタズラしちゃうよ?」

「指一本でも触れたら全力で排除する。戦争だな」

「ちょっ、二人ともやめてください。スピラさん、もしやったら絶交しますからね?」


「ううっ、透明化したオスカーくんにいろいろされるのは喜んでいたのに……」

「よろっ……」

 否定はできない。どんな状況でもオスカーに触れられるのは嬉しいし、実際に嬉しかった自覚はある。

「それは、オスカーだけが特別なんです」

 言っていてすごく恥ずかしい。軽く顔を隠してしまう。


「ううっ……、やっぱり生まれ変わってオスカーくんになりたい……」

「絶対に代わってやらないが。自分はジュリアを持ち帰れる立場になりたい……」

「ほんとにすみません……」

 そのあたりについてはどちらに対しても申し訳なさしかない。


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