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28 [オスカー] ゴーティー王国の言い分とジュリアの激怒


 準備を整えて、ゴーティー王国の近くの海上へと空間転移で戻った。

 魔法の絨毯じゅうたんに乗っている中で、自分、ジュリア、スピラと使い魔たちは透明化している。はたからは、古代魔法で女性になっているルーカスとペルペトゥスだけが見える状態で、運転手はルーカスだ。


 みんなで考えて用意した国王への献上品と、商人を装うための商品になりそうなものも積んである。ジュリアが自分の問題だからと全額出そうとしたから、二人の問題だと言って半分出させてもらおうとしたところ、応援したいからとルーカスも入ってきて、スピラも噛んできた。

「ま、多分、損にはならないと思うけどね」

 ルーカスはそんなふうに言っていたけれど、目的は話を聞くことだから、金銭面が戻らなくても問題ない。


 ルーカスが街の中で一番立派な建物の前に絨毯を降ろし、ペルペトゥスが荷物などをまとめて担ぐ。

 ジュリアは目隠しをしているから、自分と腕を組んでいる。ベースとしては腕を組んでリードして、なにか危険がありそうな時には抱き上げる方向になっている。

 腕に押しつけられる柔らかさに意識が持っていかれそうになるのを、責任感でなんとか押し留める。


 門の前には門番が二人立っている。布の服の上からツルを編んだような鎧を身につけているから、この国の男だろう。

 ルーカスが声をかけた。

「こんにちは、ステキなお兄様」

「何か用か?」

 仕事としてまじめに聞き返しているようでいて、少し鼻の下が伸びている。


「わたしたち、行商をしながら旅をしている冒険者なのだけど。この国で商売をする許可を得るために珍しい品を国王様に献上させていただきたいの。取りついでいただけるかしら?」

 ルーカスのしぐさが女性以上に女性らしい。さすがだ。


 門番たちが相談して、一人が中に入っていく。

 程なくして戻ってきて、「ついて来い」と通された。透明化したまま、ルーカスとペルペトゥスの間に入るようにして一緒についていく。


 建物の作りはマスタッシュ王国とあまり変わらない。マスタッシュ王国の王宮は赤味が強かったが、ゴーティー王国は青味が強いというくらいか。

 国王が一段高いエリアにあぐらをかいて、両側から女性の側仕えに大きな葉のうちわであおがれている。口ヒゲはなく、長く立派なあごヒゲを蓄えた壮年の男だ。


「旅の行商人と聞いたが」

「はい。ルカと申します」

「ペルよ」

 ペルペトゥスの偽名はペルになった。話し方には修正が入っていないが、姿と声が違うと女性口調にも聞こえなくもないから不思議だ。


「なぜこの国に?」

「聡明な国王様におかれましては、このたびマスタッシュ王国に勝利されたと伺いました。戦勝のお祝いに駆けつけた次第です」

「目先の利くことよ。戦利品は奴隷と食物くらいしかないが。外の物を喜ぶ民は多かろう。して、我への供物は何を持ってきた」


「はい。国王様へはこちらなどいかがかと」

 ルーカスの言葉で、ペルペトゥスが荷物の中からひとつの箱を取りだす。みんなで用意した特別な一品だ。

 国王の側仕えが受け取り、国王からは少し離れた場所で箱を開け、目を見張った。丁寧に取りだされ、国王の方へと捧げられる。国王もまた大きく口を開けた。


「なんだそれは……。まさか、幻想世界のものではないのか……?」

「出所をお教えすることはできないのですが。私たちが苦難の末に入手した特別な一輪です」


 献上したのは青いバラだ。自然界には存在せず、高い魔力を秘め、手に入れた者に幸運を運ぶと言われている伝説の花だ。

 実際は、白いバラを買って、古代魔法で青く染めている。が、現代魔法にはなく、染める時に魔力を帯びるため、本物の伝説の花だと言えなくはない。

 あまり高いものではなく、実際に入手が大変なものでもなく、それでいて献上品に相応しいものを検討してたどり着いた結果だ。


「よい! 気に入った。青はいい。空も海も偉大なるものは全て青だ。我にふさわしい貢ぎ物と言えよう。惜しむらくは切り花は日持ちがしないことくらいか」

「偉大なる国王様。この花の特別なところは、一、二年は枯れないという点にもあります」

「なに? そんな花が存在……、いや、伝説の花だ。そのくらい特別でもおかしくないな」


 実際は、植物が枯れないようにする魔法をかけている。リリー・ピカテット商会で商品化を考えていたものだ。

 まだ売りだしていないし、売りだしていたとしてもこの地までは簡単には届かないから、特別感の演出としては文句なしだろう。


「お気に召していただけましたでしょうか?」

「うむ」

「でしたら、僭越せんえつながら、お教えいただきたきことがございます」

「なんだ? 今の我は機嫌がいい。内容によっては話してやらんこともないぞ」

「ありがたき光栄にございます。先ほど国王様は戦利品が奴隷と食物とおっしゃられましたが。聡明なる国王様はなぜそのように?」


「知れたことよ。あの国には他に取れるものもない。賠償ばいしょうとして人的資源を得るのが最善であった。食物は奴隷を生かすためにも必要だろうに」

「さすがでございます」

「うむ」


「これはただウワサを耳にしただけなのでございますが。一部、女や子どももお連れになったとか」

「うむ。目にした国民もおろうな」

「街を見る限り、外で奴隷として使われているのは男ばかりの様子。その者たちは室内奴隷となっているのでしょうか」


「あれらは海神の供物とした」

「海神、ですか?」

「ぬしらの文化では馴染みがないか。海の神の怒りを買うと海が島を飲みこみ、全てを押し流すと言われている。歴史上、何度か記録に残っている」

「……供物というのは具体的には」

「知れたことよ。沖の大渦に飲ませるに決まっていよう」


 ジュリアがヒュッと息を呑んだ。小さく震える彼女をそっと抱きよせると、すがるように身を寄せてくる。


「……なぜ、その者たちを」

 ルーカスの声が少し冷えて聞こえる。抑えて演じ続けていて、親しくなければわからないくらいだろう。

「なぜ、と問われる意味がわからぬな」

「……失礼いたしました」

 国王は何かを隠すふうではなく、本気でわからないという感じだ。ルーカスが引き、ジュリアの手に力がこもる。


「では……、こちらを献上させていただくことに免じて、もうひとつお教えいただいてもよろしいでしょうか」

 ルーカスが新しい箱をひとつ差しだす。再び側仕えが受けとり、中身をあらためて国王に差しだした。

 透明に近い三角錐がふたつ、尖っている先がくっついた形をしている。下に透明、上に青い液体が入っている。


「ほう。キレイな青に……、外側はガラス? いや、より希少なミスリルか? それはなんだ?」

「ミスリルの液体時計です。上下逆さまにしてみてください」

 側仕えが液体時計をひっくり返すと、青い液体が上へと立ち上っていく。


「色水が上に上がるとは、なんと珍妙な。なるほど、珍しい魔道具か」

 国王は魔力によって上がっていると思ったようだが、魔法ではない。重さが違う混ざり合わない液体の性質を使って、砂時計のしくみを再現したものだ。ルーカスの案をジュリアとスピラが魔法で形にしていて、世界に二つとない。


「インテリアとしてもよろしいかと」

「よい。気に入った。教えてほしいことというのを申してみよ」

「そもそもなぜ戦争を?」

「今回はなんであったか……、この国とマスタッシュ王国の因縁は根深い。長くいがみあっていて、互いに何代か前には祖先が殺されていたりするからな。ひとつ接触の仕方がズレるだけで殺しあいになる。そんな関係に、ひとつひとつの理由はさほど意味をなさないであろう。故に、どちらかが滅ぶ以外にない」

「なるほど……」


「皆殺しにしておらぬ時点で慈悲である。此度も町のいくつかは壊滅させられていて、そこに親類を持っていた者などは、奴隷の首を跳ねたいと思うていよう」

 奴隷たちが非人道的な扱いを受けているように見えた背景には、そんな理由があったようだ。


「お互いに、戦士以外の犠牲も少なくないのですね」

「うむ。だがそれも此度こたびで終わりだ。ぬしらも我が戦勝を喜び、心ゆくまで商売に励むがよい」

「……ありがとうございます」

「供物の返礼を用意させる。持って行け」

「ありがたき光栄です」

 ルーカスが重ねて礼を言って、案内について王宮を出る。


 全員、息をついた。

 ジュリアが小さく震える。

「どちらの国も、人の命をなんだと思っているんですか!!」

「ジュリア……」

「……二度と争いが起こらないように、世界を作り変えましょう」

「ジュリア?!」

(待ってくれ。今度は何をするつもりだ……?!)


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