表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
427/540

24 オスカーとの上書きと夜の対策


 上書きを提案して、落ち込んでいるオスカーの前に座って背を預ける。

「上書き……」

「はい。後ろから抱きしめてください。あ、透明化をかけますか?」

「……いや」

 オスカーが後ろからそっと腕を回してくる。本当にしてもいいのかとおずおずしている感じだ。


 回された彼の腕をぎゅっと抱きしめる。だいぶ胸に埋もれた。これでもかと押しつけておく。

「私はあなたに抱きしめてもらって安心したし、いろいろされたのは少し驚いたけど、嬉しかったのもあって。だから指示を受けていたのはむしろちょっとイヤだったりもして。

 ……キスマークは、今回のことが終わったら、好きなだけ上書きしてくださいね?」


 返事がない。

(足りないのかしら……?)

 どうすれば彼が落ちつきそうか考える。抱きしめていた彼の腕を持ちあげて、指先にキスをした。

(むしろ私の上書きね)

 仕方なかったとはいえ、唇に女王の感覚が残っているのはあまりいいものじゃない。オスカーに触れて刻み直せるのはすごく嬉しい。彼のてのひらにほほもすりよせておく。上書きとマーキングができて一石二鳥だ。


「ジュリアちゃん、ジュリアちゃん、そのへんにしておいてあげなね? オスカーがとっくに、嬉しすぎてキャパオーバーしてるから」

「え」

 ルーカスから想定外な止められ方をした。ちらりと振り返って見上げる。真っ赤だ。かわいい。なんだか自分も恥ずかしくなる。


「ムーターティオー・ウィル」

 スピラに男性の姿に戻された。

「もういいでしょ? いちゃいちゃはせめて私の見えないとこでやってね? 本気でうらやま死にそうだから」

「すみません……」


「じゃあ話を戻そうか。まず前提として、ぼくらは彼女たちの希望には答えられない。オーケー?」

「そうですね。まず私はムリですし、オスカーが誰かに触れられるのはイヤです」

「もちろん自分はジュリア以外とする気はない」


「ぼくは好きな子にみさおを立ててるわけじゃないけど、女性からぐいぐい来られる時点で拒否反応が出るんだよね。外とか集団とかはもちろんムリだし」

「あれ、ルーカスさん、好きな女性がいるんですか?」

 何気なく聞き返したら、一瞬ペルペトゥス以外みんなの空気が固まった気がした。ルーカスがニコニコとうさんくさい笑顔を浮かべる。


「どうだろうね? スピラさんは……」

「私は精神年齢が百歳を超えていない時点で、幼子おさなごにしか見えないからムリだね」

「ペルペトゥスさんは?」

「ウヌは行為自体はできようが。望まれておる生殖という意味では不可能だからのう」

「あはは。彼女たちからしたらとんだポンコツパーティだね」

 ケラケラと楽しげに笑ってから、ルーカスがピタッと真剣な顔になる。


「で、ぼくらが選べる選択肢は、まず、ぼくが提案してた、祭壇だけ行って放置すること」

「それは後味が悪い気がします……」

「ジュリアちゃんは、連れて行かれた男性たちを取り戻したいって思ってる?」

「そうですね」

「けどそれは、戦争の終戦条件なんじゃないかな。もし勝手に連れ戻したら、また戦争になってたくさん犠牲が出ると思うよ」

「ううっ、難しいですね……」


「タイムリミットはすぐだしな。夜の宴に戻らなければ騒がれて関係が壊れるだろうし、戻ったら戻ったでそこから女王のねやまで一直線だろう」

 オスカーの懸念ももっともだ。


「私も提案していい?」

 スピラが参謀ルーカスに尋ねる。

「うん、もちろん」

「私に浮かんでる案は三つあるよ。組み合わせて使ってもいいと思う」

「なんですか?」


「性的な関心を伴わない魅了魔法で言うことを聞かせれば貞操を守れるよね? それか、現実だと思う夢を見せる古代魔法もいいかなって。

 あと、いっそ、彼女たちの半分を魔法で男にしちゃえば問題は解決するんじゃないかな。私の血と古代魔法を組み合わせれば性別変更を定着させられるから」

「なるほどね。古代魔法でのごり押しはぼくには浮かばない案だね」

 ルーカスがあごに手をあてて考える。一緒にスピラの案を吟味してみる。


「うーん……、魅了よりは夢の方が、まだ私が受け入れやすいですかね。ドリーミング・ワールドの上位魔法というか、古代魔法版みたいなものでしたっけ」

 ドリーミング・ワールドは起きている相手に見せる幻覚の魔法だ。


「うん。ソムニウム・アエクアーリス・レースね。眠らせて、直前に望んでいたことを夢で見せて、それを現実だと思わせる魔法」

「本当の望みは叶えられないけど、関係を保ったまま時間稼ぎをするという意味ではすごく有効な気がします」


「性別変更も解決策としてはよさそうだけど、古代魔法とかスピラさんがダークエルフっていうこととかを伏せてってなると厳しいかな」

「寝ている間にかけちゃえばよくない?」

「それはちょっと……。男性になってもいい人がいたとしても、絶対になりたくない人もいると思うので」


『ヌシ様。外から呼ばれました』

 ユエルから通信が入る。

『わかりました。すぐに戻りますね』

「呼ばれたので、とりあえず今夜は夢の魔法で乗りきりますね」

「うん。ジュリアちゃんが納得する解決方法を探すために、明日はゴーティー王国の様子を見に行ってみようか」

「ありがとうございます」


「祭壇の件を済ませてからね? 最優先はぼくらの目的と安全だから」

「はい。そう言いつつも協力してくれるルーカスさんが大好きです」

 言って、オスカーと手をつないで空間転移で王宮の客室に戻った。



 なんとか宴をやり過ごして、一人だけ連れられて女王のねやに入る。

 スピラから、なるべく期待をあおってから魔法をかけるように言われたから、精いっぱいの甘言を並べてから内心で呪文を唱えた。事前に無詠唱魔法をかけておくようにというのはルーカスの指示だ。


 女王が寝たのを確認してから、空間転移でルーカス、スピラ、ペルペトゥスと合流し、透明化させて女王の部屋に送りこんだ。

 夢だと気づかれないように工作をするけれど見ない方がいいとのことなので、自分はオスカーと部屋で待機だ。


 用意された客室で、扉を開けられないように机をつっかえさせて息をひそめる。

 ノックされたときに反応しないでいると、ルーカスの予想通り扉を開けようとした感じがして、開かないことに不思議そうにして立ち去っていく。

 ということが一時間くらいで五回以上あった。みんな積極的にもほどがある。


 通信が入って、ルーカスたちが戻ったところで状況をすり合わせる。

 この部屋では落ちついて寝られないだろうというのと、扉を壊してまで入ってこないのが確認できたことから、全員で魔法卿の屋敷の庭にある拠点まで戻った。ホワイトヒルよりはだいぶ近いのと、今いてもおかしくない場所としてのチョイスだ。

 おかげで安心して眠れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ