21 服などただの飾りだと言われても
戦いではない形で襲われる可能性があるという。
話の意味がわかるととたんに恥ずかしくなる。オスカーとルーカスは真剣に話しているのに、自分だけ取り乱しているのも恥ずかしい。
『相手を負傷させずに抵抗するとなると難題だな……』
『しかも目隠しをして、でしょ?』
『ムリだな……。何をされても反応しない自信はあるが』
『だからといって好き放題されるっていうのもね』
他の女性がオスカーに触れるのはすごくイヤだ。そう思って何か言いたくても言葉にならない。ついていけないやら恥ずかしいやらで思考がショートしそうだ。
『自分の方は事前に逃げるなり隠れるなりしておくとしても、問題はジュリアじゃないか?』
『性別変更の魔法、生殖能力自体はあるよ?』
スピラがサラッと爆弾発言をぶっこんできた。
(あるのね……)
そう思うのと同時に、つっこみたいとも思っていたら、オスカーが代弁してくれた。
『そういう問題じゃないだろう』
『ジュリアちゃんとしてはどうなの?』
『えっと……、それは私が男性として女王様を抱けるかっていう質問でいいですか?』
聞き返しながら、顔から火を吹きそうだ。
『うん、そう』
『ムリですね……。姿が変わっていても中身は私なので。オスカーにしか反応しないかと』
『それオスカーくんが新たな性癖に目覚めそうだね』
『やめろ。自分でも怖い』
『あはは。想定外すぎるマスタッシュ王国にあてられてるけど、そもそもぼくらの目的は祭壇でしょ? 部屋から出るなとは言われてないんだし、夜までに行って逃げちゃおうか』
『現状だとそれが最善に思えるが。合流は難しいのだろう?』
『考えてる方法はあるよ。ジュリアちゃん、ホウキで浮いた状態で、マスタッシュ王国の上空に空間転移できたりする?』
『それは、はい。どこにでもとはいかないですが、印象が強かった、少し手前の、国土を一望したあたりなら』
『いいね。ぼくらはその下の海で待ってて、合流したら透明化をかけて上陸しなおせば祭壇まで行けるんじゃないかな。こうなるなら最初から透明化しておけばよかったかなとも思うけど、いろいろ予想外だったからね』
『そう、ですね……。それで私たちの目的は達成できるのでしょうが』
『何か不服か?』
『すみません。驚くことばかりではあるのですが、私たちに対する態度って、ここの人たちが困ってることの裏返しなのかなって。すべての原因は、この国に男性がいないことじゃないですか?』
『まあ、そうだろうね』
『私たちが代わりにはなれないけど、せめてその理由くらいは知りたいなと』
『で、できたら解決してあげたい?』
『まあ、可能なら、ですね。ムリそうならあきらめます』
『放っておいても時間が解決すると思うけどね。ぼくらは拒否したけど、同じ状況でむしろ喜んでっていう男はそれなりにいそうだし』
『でもここ、少し前まで戦争による渡航非推奨国で、今も要注意にはなっていますよね。大陸から離れているのもあって、私たちみたいな何か大きな理由がないと来ない気がします』
『ジュリアちゃんは、オスカーが襲われてもいいの?』
『それは絶対にイヤなので、さっき言われた方法でオスカーをそちらに連れて行ってから私が調べようかなと』
『ダメだ。ジュリアを一人にできるはずがないだろう?』
『私一人が一番安全じゃないですか? 何かされたところで、結果的には同性からいちゃいちゃされただけなのでそうダメージはないかと』
『ならいっそ、女性に戻って調査した方がより安全じゃないか?』
『どうかな。この国の人たちが女性の渡航者にどう反応するかは未知数だから、ジュリアちゃん一人っていうのはやっぱり心配かな』
『なら全員で女性になる?』
スピラがまたさらりと驚くことを言う。
『あはは。確かにそれもできちゃうんだよね』
『私が女性に戻るにしろ、みんなが女性になるにしろ、服がないですね』
『ここの服を調達するとか?』
『それは絶対イヤです』
『空間転移で戻って、体勢を立て直してから来る手もあるな』
『うーん……、話を聞くっていう意味では、今この姿のまま女王様に聞いた方がいろいろ教えてくれる気がするんですよね』
『それはそうだろうね』
『なので今からオスカーを送って、さらっと聞いてきちゃおうかと』
『話を聞きに行くなら自分も同伴するのが最低条件だ』
『あなたの方が危ないからイヤです』
隣に座るオスカーと視線が絡む。心配してくれているのはわかるけれど、平行線な気がする。
『ジュリアちゃん、等身人形みたいなの作れたよね?』
『えっと、はい。プレイ・クレイでオスカーの似姿なら』
『それをベッドに置いて布団をかけておいて、オスカー本人は透明化させて連れて行きなね。その方がオスカーも立ち回りやすいでしょ?』
『なるほど。はい、それなら』
『自分も異存はない』
『透明化している時って通信の魔道具は使えるのかな?』
『どうでしょう? 完全透明化だとわからないですが、通常の姿を消すだけの方なら問題ないかと』
ルーカスの指示で試してみる。やはり完全透明化だと魔道具の効果も打ち消してしまうようだ。姿だけを消す方の透明化を採用する。
『じゃあ、目隠しを戻しますね』
『いや、透明化してついていくなら付けない方がよくないか?』
『え。あのすごい格好をあなたに見せないためのものなので、付けてもらいたいのですが』
動きやすさを考えれば付けない方がいいのはわかる。けれど、イヤなのだ。また平行線な気がする。
『そこはジュリアちゃんが譲歩しようか。きみの安全のためだからね』
『ううっ、ものすごくイヤなのですが……』
『ユエルちゃんに事情を話して、一緒に透明化をかけて、オスカーが他の女性を必要以上に見てたら視界をふさいでもらったり、どつき倒してもらったりするのはどう?』
『なるほど、監視役か』
『それもなんかオスカーを信用していないみたいでイヤなのですが。そうじゃないというか……。ほんと、単純に、みんな肌が隠れる服を着てほしいです……』
『あはは。それはムリだろうからね』
『……わかりました。ユエルに、なるべくオスカーから他の女性が見えないように目隠し役をお願いします』
『ジュリアを守るという意味だとジャマでしかないが。鉄入りの目隠しを固定されるよりはかなりマシではあるな』
話がまとまったところで、まず身代わり人形を作ってベッドに寝かせた。目元に目隠しの布を巻いて、かけ布をかけておく。
それから、自分とオスカーに魔物と会話ができるようになる魔法をかける。ユエルにかけるとどこで何を言うかわからないからだ。
小声で事情を説明して、目隠し役を頼む。
「服などただの飾りだと思いますが。オイラは身ひとつですし」
「魔獣と一緒にしないでください……」
「他ならぬヌシ様の頼みですからね。お任せください。泥舟に乗ったつもりで」
「それ沈みますよね」
ユエルはやる気がありそうだ。不安はあるけれど任せるしかない。オスカーとユエルに姿だけを消す透明化をかける。
「……オスカー」
「ん」
「手は、つないで行っていいですか?」
「ああ。もちろんだ」
姿が見えないオスカーの方から、指を絡めて手を握ってくれた。それだけですごく安心する。
「……だいすき」
彼がいる方にこそっとささやく。
つないでいる彼の手に少し力が入った気がする。




