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19 オスカーには見せたくない


 街を行く女性たちの格好があまりにもありえなくて、目を見張った。

 胸を半球の木の実のようなもので覆っていて、腰に軽く布が巻かれている以外は、小麦色の肌が露出している。

 自分の下着の状態よりもずっと素肌が見えているのだ。ほとんど裸だ。胸が強調されていて、裸より更に恥ずかしいかもしれない。

 女性同士でも目を覆いたくなる。


「この国の文化かな? ぼくらは女性は肌を隠すものだと思っているから、びっくりだね」

「ふむ。昔と変わらぬ生活をしておるのう。懐かしくも愉快よ」

「昔は気にならなかったけど、向こうの今の基準だと確かにハレンチに見えるね」

「ダメです、オスカー。見ちゃダメです」

 とりあえず両手でオスカーの目を隠しておく。特に抵抗はなく隠されてくれる。

 

「驚きはしたが。ジュリアが着替えたわけじゃないからな」

「着ませんよ?! 恥ずかしすぎます。ドワーフ装備の方が百倍マシです」

「あはは。じゃあ今度、ドワーフ装備を着ようか」

「ううっ、それとこれとは話が違うというか……」


 スピラが困ったように首をかたむける。

「どうする? 絨毯じゅうたん、降ろしていい?」

「一度町から離れたところに降りて作戦会議をしませんか? 主にどうやったらこれ以上オスカーの目に触れさせないかの」

「オスカーくんに目つぶししようか?」

「おい」


「それはそうと、なんかそのへんの人みんなからすごく笑顔で手を振られてるんだけど」

 こちらから向こうが認識できる距離は、向こうからもこちらが認識できる距離だ。じゅうたんに隠れて自分たち全員は見えていないだろうが、前に出ているスピラはよく見えている感じか。


「ううっ、すごく不本意なのですが、降りた方がいいでしょうか……。オスカーに目隠ししてもいいですか?」

「特になんとも思っていないから落ちついてほしいのだが……」

「じゃあ百歩ゆずって夜に私が上書きを」

「落ちついてね、ジュリアちゃん。何か思いだしたらしいオスカーが再起不能になりそうだから」


「ふむ。目隠しをして聴覚強化をすればよかろう。目が見えぬ者は聴覚で補うことが多いらしいからのう」

「とりあえずそうしましょう。あとは私が手をつないで、目になるので」

「気にせず見せるという選択肢はないのか……」

「あはは。ぼくらよりジュリアちゃんの方が驚いてるみたいだからね。ショックが抜けるまでは甘んじるしかないんじゃない?」


「いったん手を離すけど、絶対に目を開けちゃダメですからね?」

「……わかった」

 あきらめたような声だけど、わかってもらえて何よりだ。荷物の中から適当な布を出す。大きめのハンカチならなんとか結べるだろうか。


「絶対に見えないように布の間に鉄板を入れた方がいいでしょうか」

「ジュリア?!」

「それはそうと、ジュリアちゃんの偽名はどうする?」

「うーん……、呼び間違えてもごまかしやすいように、ジュリオとかどうでしょう?」

「ジュリオくん、いいんじゃないかな」

「じゃあ、ジュリオで。……アイアン・シールド」


 話しながら、オスカーの目元に折りたたんだハンカチを結び、その中に薄い鉄板をしこむ。顔の形に沿わせたから、それほど違和感はないはずだ。


「本当にやるのか……」

「ジュリアちゃん、じゃなかった、ジュリオくん、ほんとに器用だよね。顔の形のミニシールドとか普通はムリだと思うよ」

「私もオスカーにしかできないですよ? ちゃんと形を認識していないといけないので。

 ギリギリで結んでいるから、外れないように結び目を固めておきますね。フェアリー・プロテクション」


「あはは。何も見えないようにされた気分はどう?」

「……困っているのにイヤなわけではない、不思議な感じだ」

「もし裸の男性がたくさんいたら、私も同じのをつけますね。エンハンスド・イヤーズ」

 言って、オスカーに聴力強化をかける。


「じゃあ、降りましょうか」

「……いや、なんだか不穏な会話が」

 聞こえがよくなったオスカーがそう言いかけた時には、絨毯じゅうたんは広場の空きスペースに着地していた。


 あたりの女性から黄色い声が上がり、すぐに取り囲まれる。


「男よ!!!」

「旅人さん?!」

「女王様に報告して!」

「みんな男?!」

「これでこの国は助かるわね!」

「私はあの子にタネづけされたいわ」

「何を言っているの? 女王様が先にお相手を選ぶに決まっているでしょう?」


「……はい?」

 女性の口から聞くとは思わなかった言葉が聞こえた気がする。

(そういえばこの町、男性がいない……?)

 改めて意識して見て、どこにも男性の姿がないことに気づく。


 何が起きているのかわからないまま、全員で連れられるがままに連れて行かれる。

 戦闘員で囲まれたなら抵抗しただろうけれど、戦闘の意思がない女性たちに腕を引かれるのは振り払えない。オスカーには触れさせないようにガードするので精一杯だった。


 連れて行かれた先は、ひときわ大きな建物だ。話の内容から王宮のようなものらしいが、自分たちの国でイメージされる王宮とはずいぶん違う。

 建物自体は他の家と変わらない木と葉でできている。庭も建物も広いのと、家具に敷かれている布などが装飾的で豪華な印象があるくらいの差だ。


 腰くらいに高くなった場所で横になった女性が、両側から大きな葉のうちわであおがれている。

 服装は他の女性たちと大きくは変わらず、ネックレスや髪飾り、ブレスレットやアンクレットなどの装飾品が豪華だ。ボンキュッボンで肉感がすごい。

 偉い人らしいので、礼儀として、他の人たちをマネてひざをついた。


「くるしうない。とく見せよ」

 立って顔を上げていいらしい。指示通りにすると、じろじろと全身をめまわされる。


(オスカーの顔全部を隠す仮面とかかぶととかの方がよかったかしら? いっそ置いてきた方がよかったかしら……)

 選ぶ云々という話も聞こえてきているから気が気じゃない。この中で誰か一人が選ばれるとしたら、彼を置いて他にいないと思う。目元が隠れていてもカッコイイオーラがもれ出ているのだ。


「ふむ。そこな二人、手をつないでおるのは一方が盲目であるからかえ?」

(ん? 私たちのこと?)

「……ああ。自分は何も見えていない」

 オスカーが答える。盲目ではないけれど、事実として今は何も見えていないからウソではない。


「その役割は他の者にも代われるのかえ?」

(これ絶対オスカーが狙われてるわよね?!)

 なんということだ。どうすれば回避できるのかと必死に頭を巡らせるけれど、何も浮かばない。


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