14 ソフィアとの内緒話
夕食はいつものメンバーとソフィアになった。魔法卿は仕事で戻れなくなったそうだ。
クロノハック山に運ばれてきたのと同じテーブルに今日は豪華なテーブルクロスがかかっていて、等間隔に椅子が置かれている。
メイドに案内されるがまま、ソフィアと自分が向かいあう形で、ルーカスとオスカーが自分側、スピラとペルペトゥスがソフィア側の両側に座った。
ソフィアには全て見えてしまうから、使い魔組も連れてきている。ユエルとジェットは自分とルーカス、モモはスピラについている形だ。モモはスピラの魔力が気に入ったらしい。
「ソフィアさん、ご招待ありがとうございました」
「いいえ? こちらこそ、時間を作ってくれてありがとう。ごめんなさいね、エーブラムが戻れなくて」
「そこは別に。私としてはその方が気が楽ですし」
「ふふ、そうね。内緒話ができるものね」
飲み物と前菜が並んだところで人払いがされた。
「えっと、ご紹介しますね。オスカーとルーカスさんは前にお会いされているので。スピラさんとペルペトゥスさんです」
「よろしく」
「ペルペトゥスである」
「ふふ。まさか生きた伝説に会えるなんてね」
「生きた伝説?」
「ダークエルフとエイシェントドラゴンでしょう?」
「やっぱりわかっていたんですね」
「元々ジュリアちゃんを通して見ていたもの」
スピラが目をまたたく。
「よかったの? わたしたちを家に上げて」
「あら、何か問題があるのかしら?」
「ダークエルフは不吉だし、魔法卿って私たちを討伐する最高責任者みたいなものなんじゃないの?」
「あら、不吉っていうのは迷信でしょう? あなたと関わっているジュリアちゃんに何も起きていないもの。
私の夫が魔法卿で、もしあなたたちが人類と敵対して討伐対象になった場合に戦わないといけない相手なのはその通りね。でも、今は敵対していないし、討伐対象でもないでしょう?」
「……うん。ジュリアちゃんと仲がいい理由がわかった気がするよ」
そう言うスピラがどことなく嬉しそうだ。
「あら、ふふ。私が勝手にジュリアちゃんを気に入っているだけだけど、それなら嬉しいわ」
ソフィアも上機嫌に笑って、食事を進めていく。
料理が運ばれてくる間はあたりさわりのない話をして、他の人がいない時には少し内緒話になる。ソフィアはペルペトゥスやスピラから昔の話を聞くのが特に楽しそうだ。
「ふふ。いつもはエーブラムが夕食に帰れないことに腹を立てていたけれど、今日はほんと、帰れなくてよかったわ。こんなに楽しかったのですもの」
「さすがに魔法卿に正体を明かすわけにはいかないですからね」
「そうね。あの人には知られない方がいいでしょうね。頭が固いところがあるから」
「そこはソフィアさんがすごいんだと思います」
「あら、すごいのはジュリアちゃんでしょう?」
「私ですか?」
「ええ。あなたに懐いている人がまた増えているもの。識別が大変だわ」
「特に覚えがないのですが」
「この前、魔法卿といた間のことじゃないかな?」
ルーカスに言われてエタニティ王国のことを思いだす。可能性は高い気がする。
「ええ、きっとそうね。エーブラムが珍しく人望を得て帰ってきたと思ったら、あなたと一緒だったって聞いて納得したの」
「ソフィアさんは魔法卿からなんて?」
「お前が娘にしようとしたのはとんでもない魔法使いだったって。それ以上は言えないみたいだったわ。ふふ。そんなことはとっくに知っているわよ? って思ったわ」
「なるべくバレないようにしてたんですけどね……」
「むしろ、よくあの人に今の条件を飲ませたわね? 本当の直属とか、上の方の冠位とかにされてもおかしくない評価よ?」
「そこはルーカスさんが」
「あはは。放っておいたらジュリアちゃんはボランティアをして自分の首を締めそうだったからね。主導権を握れるうちに握らせてもらっただけだよ」
「ふふ。いい仲間に恵まれたわね」
「はい、それはもう。みんなにはいつも感謝してます」
和気あいあいと話しながらデザートまでいただく。けっこうお腹いっぱいだ。
「ソフィアさん、ここって食材を買えるところまで近いですか?」
「どうかしら。普段は届けてもらっているみたいだから、私にはわからないのだけど。繁華街までっていう意味なら、馬車で三十分くらいね」
「なるほど。ホウキで飛べばそうかからないくらいですね」
「なにか必要なのかしら?」
「明日の朝ごはんはこっちで食べてから出ようと思っているのと、お昼は移動中になりそうなので軽食を持って行きたいなと」
「あら、そのくらいなら用意させるわよ? よければ朝はここにいらっしゃいな」
「そこまでご迷惑をおかけしていいものかと」
「私が楽しいから迷惑じゃないわ? 娘になってもらうのは断られたけれど、そのくらいのつもりではいるのよ?」
「ありがとうございます」
娘になれないのは申し訳ないけれど、好意には甘えておくことにした。
魔法卿の家の庭に作ったドーム型の小部屋は思っていた以上に居心地がよかった。
それぞれの感想を聞いたら、みんな満足しているようだった。何よりだ。
ペルペトゥスは地下に作ったダンジョンエリアで元の姿に戻ってモモと過ごし、暇だったからモモを少しいじったそうだ。
「毒液だけでなく回復薬も吐けた方が役に立つであろう? 使い分けるためにも最低限の知性と五感を付与してみたが、どうかのう?」
顔のない低級スライムだったモモに、くりっとした目と小さな丸耳がついている。
「かわいいですね」
「完全に新生物だね」
「魔法を使えば会話もできよう」
「オムニ・コムニカチオ」
自分たち側に魔物と話すための魔法をかける。と、すぐにユエルの声がした。
「ヌシ様の使い魔の座は絶対に譲りませんからね!」
フンスと鼻息が荒い。対するモモはゆっくりしたものだ。
「ぬしさま〜? だれ〜?」
「ヌシ様はヌシ様です」
「待ってください、ユエル。モモの主はペルペトゥスさんじゃないでしょうか」
「この姿のウヌには懐くのだが、ヒトの姿になると同一とは認識しなくてのう」
そう言いつつ、ペルペトゥスがヒトの姿になって輪に加わった。ペルペトゥスが言ったとおりモモが主だと認識する様子はなく、自分とスピラを見比べて、どっちに行こうかと考えている感じだ。
「魔力で認識しているのかもしれないね」
スピラが手を差しだすと、モモがちょこんとそこに乗る。そのままスピラの肩におさまった。ユエルとしてもその方がよさそうだ。
「私はスピラだよ、モモ」
「モモ〜?」
「うん、モモ」
つんつんとつつきながら言うと、モモが嬉しそうに跳ねる。
「モモ! スピラ、すき!」
「それは嬉しいね。なら、モモは私の使い魔にしようか」
「モモ、スピラのつかいま〜」
収まるところに収まったようだ。使い魔契約をする形の使い魔ではなく、ただ連れ歩くというくらいのニュアンスに見える。モモの生みの親であるペルペトゥスにも異存はなさそうだ。




