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10 リリーピカテット商会送別会


 日曜の夜にリリーピカテット商会の送別会が開かれた。飲み会の時によく使う、個室がある店だ。


「それにしても急よね。言い渡された次の月には遠くの国に行かないといけないなんて。元々忙しくなるとは聞いていたけど、外国は考えていなかったわ」

 バーバラがため息混じりに言う。

「すみません。ちょっと仕事のご縁があって。私たちにとっても必要なことなので」


「戻っては来るんですよね?」

 バートから確かめるように尋ねられる。

「そうですね……、どのくらいかかるかはわからないですが。商会があるので、近くや実家に用事ができた時とか、顔を出せるタイミングにはなるべく会えたらと思っています。

 あ、商会代表をブラッドさんかフィくんにお願いした方がいいかなとも思うのですが」


「却下だ。オレにこいつらはまとめられないし、職場の上司の上司になるなんてのはめんどうしかない」

「僕も遠慮したいですね。僕にバート兄妹は制御できません」

「まあ、どういう意味ですの?」

 フィンと友だち以上恋人未満のバーバラが不服そうにほほをふくらませる。


「ジュリアさん、俺への指名はないんですか?」

「年齢や立場を考えると、ブラッドさんかフィくんかなと。バートさんは代表をやりたいんですか?」

「やりたいかどうかだと興味はあります。ただ、うちの商会との関係が難しくなるので、現実的にはやめておいた方がいいと思います」

「わたしもお兄様と同じね。お兄様ほどやりたいわけではないけれど。やっぱりジュリアが代表でいてくれるのがいいと思うわ」

「あんまりいない代表で申し訳ないのですが」


「実務を回すのは、ある程度なら任されても構わないぞ。仕事と村と両立できる範囲にはなるが」

「代表補佐っていう役職を作る? フィンとブラッドのダブル指名で」

「代表補佐は俺もやりたいな」

「あら、ジュリアの補佐ならわたしもやるわよ?」

「それは多すぎるだろ」

 バート兄妹も希望したら全員だ。あいかわらずカオスすぎる。


「代表補佐は副代表みたいなものですよね?」

「うん。そういうイメージだよ」

「なんとなくですが、今のメンバーは平等な方がいいのかなって。代表を譲ることだけは別ですが」

「それもそうだね。じゃあ、僕らがいない間はみんなに平等に頼らせてもらう感じでいいかな?」

 満場一致で問題なさそうだ。何かあれば話しあい、それで決まらない時には手紙を送ってもらうことにする。


「ショー商会といえば、ピカテットの木彫りの取引はどうなりましたか?」

「前の方針で問題なかったぞ。まだこっちが大々的に売りだしてないってのもあるだろうが、おろす量が減ったことに対しては何も言われていない」

「それはよかったです」


「マダムユリアビレッジの観光地化計画も順調だ。ルビーとルチルは元気にしているし、パールとエメルとの相性もよさそうだから次代を期待できるだろう。

 ピカテットの数が少ないうちは花や子ども向けの遊具もウリにする予定で、だいぶできあがってきている」


「形になったら、モニターとして子どもを招待して遊んでみてもらえたらと思っているのですが。親戚とかであてはありますか?」

「そうですね……」

 バートの提案を考えてみる。ターゲットの反応を見ようというのはいい案だと思う。一緒に考えていたオスカーが口を開く。


「親戚ではないのだが。孤児院の子どもたちを招待するのはどうだろうか」

「あ、それはいいですね。喜ぶんじゃないでしょうか」

 ユエルの子どもを譲る先から外した時に自分もそれを考えていたから、全力で乗っておく。


「なるほど。社会貢献としてもポイントが高いかもしれません」

「私とオスカーが関わっているところがあるので、明日にでも打診してみますね」

「リアちゃん、明後日の朝には出発でしょ? 大丈夫?」

「準備はできているので、まあなんとか」


「なら、最初の話の持ちこみと顔つなぎをお願いできるといいですね。いきなり知らない人が行くより信用されるでしょうから」

「そうね。モニターの件はお兄様が言いだしたのだし、あとはわたしとお兄様が引きうけるわ」

「ありがとうございます」

 飲み会と言いつつ仕事の話が中心だけど、この距離感の方が居心地がいい。


「ジュリアさんが遠くに行ってしばらく戻ってこないってなると、俺も年貢の納め時かな」

「年貢ですか?」

「お兄様にお見合いのお話がいくつも来ているのよ」

「バーバラがフィンと遊びに行くようになったから、俺もせめてそのくらいの相手は作れってことらしい。ジュリアさんと出かけられたらいいんですが」

「その年貢はさっさと納めてほしいんだが」

「あはは。ほんとにね。バートはあきらめが悪いよね」


「ダブルデートとか相手の交換とか公認不倫とかもウェルカムだから、納めたところであまり変わらない気はするけど」

「……埋めていいか?」

「さすがにそれも手段な気がしてきたよ」


「バートはジュリア・クルスのどこがそんなにいいんだ?」

 ブラッドが飲みつつ軽い感じで尋ねる。

(それは私も知りたいわ……)

 バートから好かれる要素は特にないと思うのだ。


「それ本人の前で聞く? まあいいけど。俺をしびれさせられる女性は他にいないだろうなっていうのと」

「そうだったな。埋めるよりサンダーボルト・スタンの方がよかったな」

「ジュリアさん以外は却下だならな? で、まあ、見れば見るほどかわいいし、信じられないくらい女神だし、想定外に商才があって仕事を含めたパートナーとしても有能だし、しばられなさそうなところもいい。ジュリアさんになら物理的にも精神的にもしばられるのもいいけど」


「買いかぶりすぎかと……」

 最後の一言は意味がわからないから流しておく。


「ジュリア以上にかわいい女性に出会うのは不可能だろうが。商才を重視するなら見合い相手にもいるんじゃないか?」

 オスカーが当然のようにさらりと言うけれど、前者を全力で否定したい。

(バーバラさんもかわいいし、私よりかわいい女性は普通にいると思うのだけど)

 オスカーからのひいき目自体はちょっと嬉しい。


「まあ親とか爺さんとかが勧めてくる相手だからな。どっちかっていうとそこで、女性としてどうこうより仕事上で有益な相手に収まるんだろうとは思ってる。だからこそまだ自由でいたいっていうか」

「なるほどな……」

 尋ねたブラッドが納得したようにつぶやく。


「ブラッドさんは気になる相手はいませんの?」

 バーバラに尋ねられて、ブラッドが軽くむせる。それから「いないな」と答えた。

(前に気になる相手がいたけど忘れたいって言っていたのは、もう忘れられたのかしら?)

 一瞬視線が合った気がしたのは気のせいだろう。


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