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8 ルーカスの理由と拠点作りの相談


 ブレア家を出て扉を閉めると、すぐにルーカスがホウキを出した。

「飛んで大丈夫なんですか?」

「ええ。ホウキで移動できないのは不便だから、けっこう早い段階で魔法使いだということは明かしたのよ。

 ずっと入院しているから、初歩の魔法しか使えないっていうことでね。連絡魔法もいつ来るかわからないでしょう?」

 軽くウインクをされる。今日まさに、自分が連絡を送っている。


 一緒にホワイトヒルに向けてホウキを飛ばす。

「この後に用事があるんですか?」

「ぼく? 別にないよ」

 実家を離れて、ホープには絶対に聞こえない距離になっているからか、ルーカスが素で答えた。姿を見ると声との違和感があるから、あまり見ないでおく。


 同じ疑問を持っていたのか、オスカーが続けた。

「昼過ぎに実家を出る予定だったのだろう?」

「ああ、あれ? 先週、もうあと一回しか来れないかもって言ったらぐずられてさ。夜寝つくまで出られなくなったから、今回は昼寝に入る前に帰るって予告した方がいいかなって思って」


「……もう会わないんですか?」

「うん。いい機会だからね。年齢が上がると、さすがに親子の距離で性別までごまかしきれる自信はないから。変なバレ方をするより、キレイな思い出のままいなくなった方がいいでしょ?」

「なるほど……」

 何か理由があるのだろうとは思っていたけれど、聞いてみるともっともだと思う。今このタイミング以上にいいタイミングはないだろう。


「ありがとね。ぼく一人だったら、あんな笑顔で別れるなんてできなかっただろうから」

「むしろ、たいへんな役目を半年も引き受けてくれてありがとうございました」

「ん。この先は母さんたちに任せるよ」

「ルーカスさんとしても会わないんですか?」

「リスクだからね。君たちはルカの友人として関わってくれるといいかなって思うけど」

「そうですね……、わかりました」


「で、ジュリアちゃんの相談ごとは?」

 すっかり切り替えたような声に、気持ちを切り替えて答える。

「山のヌシのエルフとして魔法卿に会っていたら、ソフィアさんが来て。魔法卿付きになる私たちが住む場所を建てられないかって相談されました」


「なるほど? それでぼくの意見を聞きに来たんだね。魔法的にはどんなイメージ? 表面的には古代魔法は使わないでってなるよね?」

「はい。土か木か、希望があれば鉄でもミスリルでもなんでも。土の家か木の家が一般的かなとは思いますが」

「いいね。ホワイトヒルに戻って模型を作ってみようか。スピラさんとペルペトゥスさんも一緒に」

 思っていたよりずっと楽しげな声だ。


「老エルフとして私が魔法を使うのは問題ないでしょうか」

「いいんじゃない? 山のヌシならなんでもアリで。気をつけるとしたら、ジュリアちゃんの姿で魔法卿の前で同じようなことをしないっていう方かな。あと、リンセは連れて行くんでしょ?」

「はい。魔法の効果範囲から出ちゃうと元に戻ってしまうので」

「うん。リンセの正体がバレないようにっていうのも気をつけてね。そこがバレちゃうと気づかれる可能性があるから」

「わかりました」


 適当なひと気のないエリアに降りて、ホワイトヒルの近くに空間転移する。ルーカスが変装を解いて元の姿に戻ってから、ペルペトゥスの棲家に行って入り口を開けた。

 ドンッ、バチッ。戦闘音が聞こえて、のぞくとスピラとヒトの姿のペルペトゥスが戦っている。


「え。ちょっと止めてきます」

 ホウキで飛びこみ、安全な範囲から観察する。スピラは魔法を中心に身体強化もかけていそうだ。ペルペトゥスは身体能力だけで戦っているのに、目の強化なしだとほとんど動きが見えない。

(うーん……)


「エンハンスド・アイズ。ミスリルプリズン・ノンマジック」

 目を強化して位置をしっかり把握し、二人の間で壁になるように、スピラがいる方をかなり広めに魔法封じで囲う。


「アルティメット・ゴッデス・プロテクション」

 ペルペトゥス側のミスリルの壁に最上級の防御魔法を重ねがけする。


 スピラの攻撃魔法がかき消えて、ペルペトゥスの打撃が防御魔法に阻まれる。一撃で半分くらい壊れた感覚があった。さすがとしか言えない。


「二人とも、どうしたんですか?」

「ジュリアちゃん! どうしたの? 今日は用事じゃないの?」

 二人が止まったのを確認してから魔法を解除すると、スピラが主人が帰ってきたイヌのような嬉しそうな様子で寄ってくる。

「ちょっと相談があって戻ってきたんです」


「ウヌらは遊んでおった」

「ペルペトゥスが暇って言うからさ。本気にならない約束で相手してたの」

 ルーカスとオスカーが降りてくる。

「組み手っていう感じかなって思ったんだけど」

「あれを止めると言って、止める間もなくジュリアが飛びこんだのには驚いたな……」

「ケンカかと思って驚いたので……」

「あはは。あれを止められるのはジュリアちゃんくらいだよね」


 なんとなく定位置になっている場所に座って、スピラとペルペトゥスにも状況を説明する。

「ちょっと待って。ジュリアちゃん、山のヌシなの?」

「本当は違うのですが、そういうことになってしまったというか……」

「魔物を掌握しているから、既に違くはない気がするな」


「ふむ。一応の拠点はあった方がいいというのは賛成よ。ウヌはそこから地下にこのような部屋を作ってもらえるとよいかのう」

「魔法卿の家の庭って広いの?」

「はい。中央魔法協会と少し離れた、やや郊外の広々したエリアにあって。お庭の中をホウキで移動した方が楽な感じでした」


「なら、それぞれ独立した家を作るのはどう? ここで模型を作って、それを形にしてもらうの。で、向こうに行ってから、それぞれの家に地下ダンジョンへの入り口をつけてもらう感じ」

 ルーカスが図を描いて説明する。楽しそうだ。秘密基地作りに通じるものがあるのだろう。


「魔法卿の手前、表にもみんなが集まれるエリアがあるといいかもしれないな」

 オスカーが五つの小さな建物の中央に集会所を足した。


「いいですね。じゃあ、それぞれどんな感じがいいか模型を作ってください。あと大きさの希望もあれば書いてもらえると。真ん中の集会所は作りたい人がいればお願いします。いなければ適当に作りますね」


 魔法使いたちがプレイ・クレイの魔法で土をいろいろな形にして試していく。ペルペトゥスだけが物理だ。

 自分が住んでみたい小さめの家を考えてみる。ちょっと楽しい。


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