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7 ルカなルーカスとホープの別れ


「テレポーテーション・ビヨンド・ディスクリプション」

 ルーカスの実家近くの人が来ない場所に転移する。

 もしルカとしてホープに会っているなら、男性のオスカーより女性の自分から連絡した方が無難ということになった。


『ジュリアです。早めにご相談したいことがあるのですが、ご都合はいかがでしょうか』

「お返事が来るまで少しデートしましょうか」

「ああ。いいな」

 提案したら嬉しそうな笑みが返された。嬉しい。繋いだ手をそのままに、賑やかな方へと足を向ける。と、その瞬間、連絡魔法の光が戻ってくる。

(もう少しゆっくりでもよかったのだけど)

 裏声のルーカスだ。


『ジュリアちゃん、ルカよ。もう少ししたら病院に戻るところなの。移動しながら相談しましょう。うちまで来てもらってもいいかしら?』

(お母さんは病気っていう設定だったわね)

 ホープはそう言われて本当の母(キャンディス)と引き離されて育っていた。都合がよかったからそのままの設定を受け継いでいる。


『ルカさん、ジュリアです。了解です』

 返す間にオスカーがホウキを出す。

「……乗るか?」

(ひゃああっっ)

 小さく落ちた声が甘く聞こえる。心臓がうるさく跳ねる。

「はい……」


 オスカーのホウキにまたがらせてもらうと、包むように抱きこまれる。大好きな温もり、大好きな匂いに包まれて、ドキドキと幸せでいっぱいだ。

 オスカーが心なしかゆっくりホウキを飛ばしていた気がするのに、あっという間に着いてしまったのが残念だ。


 ノックをしようとしたところで扉が開いた。

 ルーカスのお母さんが迎え入れてくれる。ブレア家はお母さんがふくよかで、お父さんが細身だ。どちらも背は大きくない。ルーカスはお父さんに体格が近く、お母さんに顔が似ている。


 通されると、イスに座ったルカがホープを抱っこしていた。

「いらっしゃい、二人とも」

(バッチリメイクしていると、ご両親のどっちにも顔が似てないわね)

 顔つきをホープに寄せたメイクだ。ふだんのルーカスとは別人にしか見えない。

 お姉様方は外出中で不在のようだ。


「すみません、親子の大事な時間にお邪魔して」

「私は構わないのだけど、少しだけ待っていてもらえるかしら?」

「はい、もちろんです」

 ゆっくり相談してきていいと言われているから、多少遅くなっても問題ないだろう。


「……ホープ。そろそろ行ってもいいかしら?」

「イヤです!」

(ぁ……)

 ルカはぐずられて困っているのかもしれないけれど、年齢相応にぐずれることに安心した。ぐずっても嫌われない安心感や信頼が育っているのだろう。子どもがちゃんと子どもでいられるのは大事なことだと思う。


「昼過ぎには出ると言っておいたでしょう?」

「……もう来れないのでしょう?」

(え)

 しばらく来られないかもしれないけれど、今後ずっと来られない話ではなかったはずだ。


「私は来られないかもしれないけれど、ここはずっとあなたの家よ」

「イヤです! お姉さんたちもおじいちゃんおばあちゃんも好きだけど、お母さんには会いたいです」

 ホープがぐすぐすと泣きながらしがみつく。


 ルカがしがみつかせたまま、こちらを見て肩をすくめた。

(うーん……、ホープくんの気持ちの方がわかるのよね……)

 それはそうだろうと思うのだ。むしろ、なぜ、また絶対会いに来るとルーカスがルカとして言わないのかがわからない。

 わからないけれど、ルーカスのことだから何か理由はある気がする。そこには触れないでおく。


「……ルカさん、ホープくん。一緒にお買い物に行きませんか?」

「買い物?」

 ルカが不思議そうにして、ホープがちらりと振り返る。

「はい。私からホープくんにあげたいものがあって。せっかくだから、一緒に買いに行きませんか?」

「……うん、私は賛成。ホープは?」


「その間は一緒ですか?」

「もちろんよ」

「なら、行きます」

「ええ。特別に抱っこのまま行きましょうか?」

「はいっ」

 まだ半泣きのまま、それでも嬉しそうにホープが頷く。かわいい。


 ルカ、ホープと、オスカーと四人で外に出る。

「ルカさん、この街の魔道具店はどこですか?」

「ジュリアちゃんがホープにプレゼントしたいものは魔道具?」

「はい」

「だと、ここからちょっとかかるかしら」

「歩いて行けます? ホウキがいいですか?」


「歩いても行けるのは行けるけど、ホウキの方が楽なくらいね。ホープはどうしたい?」

「歩きがいいです」

「ならそうしましょう。ジュリアちゃんの相談ごとは、その間に聞けそうなことかしら?」

「うーん……、後の方がいいかもしれません」

「そう」

 話そうと思えば話せなくはない内容だけど、今はルカとホープの時間であってほしい。


 ホープを抱っこしたルカに案内してもらう形で、オスカーと二人で後ろについていく。

「……ごめんなさい」

 ふいにホープがそんなことを言った。

「それは何に対してかしら?」

「お母さんが病院に戻らないといけない時間を過ぎているのに、ワガママを言って」

「ホープがいてほしいって言ってくれるのは嬉しいのよ? だから、むしろごめんなさいね。ずっとはそばに居られなくて」

「……はい」


(ルーカスさんがずっとお母さんをするのは難しいものね……)

 キャンディスの子ではないということにするためには父親ではダメだったのだ。母親として信ぴょう性をもって引き取れるのがルーカスしかいなかったからそうしてもらったけれど、負担をかけて申し訳ないとは思う。

 できる範囲ですごくよく気を配ってもらっていてありがたいが、子ども側からしたら時間が足りないのだろう。

(人ひとりを育てるってほんと大変よね……)


 魔道具店に着くと、初めて入ったホープが控えめに目を輝かせる。

 目的の魔道具はすぐに見つかったけれど、少しゆっくりしてから店員に声をかけた。それを見たオスカーがなるほどという顔になる。


「ジュリアがそれにするなら……、自分からはこれを贈れたらと思うのだが」

「あ、いいですね」

 オスカーが近くにある他の魔道具を選ぶ。さすがだ。


 全員で店を出る。

「ルカさんの家に戻ってから渡せたらと思うのですが。他に買い物はありますか?」

「そうね……。ホープはほしいもの、あるかしら? 今日は特別に、何かひとつ、なんでも買ってあげるわ」

「なんでも?」

「ええ。なんでも」


 言ってもいいかと迷うような間を置いてから、ホープが気恥ずかしそうに声にした。

「……ぬいぐるみがほしいです」

「ぬいぐるみ?」

「男なのに変ですよね」

「そんなことはないと思うけれど」

「……いいんですか?」

「ええ、もちろん。好きなものを選んでいいわよ?」

「っ、はいっ! お母さん、大好きです」

「ええ。私もホープが大好きよ」


 ホープが幸せそうな笑顔になる。この瞬間をしっかり覚えておこうと思う。


 ホープが本人の身長ほどもある細長い猫のぬいぐるみを抱いて、ブレア家に戻る。いろいろと迷っていたけれど、最後は抱き心地で決めていた。


(キャンディスさん……、ディちゃんはぬいぐるみが好きだったし、記憶がなくても似たりするのかしら)

 そのへんはわからないけれど、ルカなルーカスに買ってもらえたことがとても嬉しそうで、見ている自分も嬉しくなった。


「ホープくん。これは私から、プレゼントです」

 魔道具店で買った魔道具を差しだす。箱の形をした魔道具を見てホープが首をかしげた。

「それはなんですか?」

「記憶投影の魔道具です。私の記憶から、ここがいいかなと思うのですが、どうですか?」

 さっきルカとホープがお互いに大好きだと言って笑っていた記憶を投影して差しだす。


 と、ホープがポロポロと涙をこぼした。

「……これ、いつでも、見れるんですか?」

「はい。魔力でも魔石でも動くので。毎年ホープくんの誕生日に、新しい魔石を贈りますね」

「あり、がと……ざい、ます……」


「自分からはこれを」

 そう言ってオスカーが、違う形の小さな魔道具を差しだす。

「音を記録する魔道具だ。ルカ嬢に言葉を入れてもらえれば、同じく魔石か魔力でいつでも聞ける」

「あら。二人とも、ステキなものをありがとう。贈る言葉は何がいいかしら……?」

 尋ねるというより考える調子でルカがつぶやく。オスカーから一度受けとり、録音のための魔力を流す。


『ホープ。あなたはこの世界に愛されたから生まれてきたの。いつでもあなたの幸せを願っているわ。あなたの未来にたくさんの希望がありますよう』

 録音を終えて渡そうとすると、ホープがぬいぐるみを抱きしめて号泣している。ルカが困ったように笑って、そっと頭を撫でてから、魔道具を手ににぎらせた。


「この家のみんなも、ジュリアちゃんもオスカーも、いつでもあなたの力になってくれるわ。周りの大人を頼って、あなたらしく生きて?」

「……はい……、はい……」

 必死にうなずきながらも、涙が止まらない。見ているだけでもらい泣きしてしまう。


 少しして、ホープがそででガシガシと目元を拭く。拭いてもあふれる涙はそのままに、一生懸命な笑みを浮かべた。

「……行ってらっしゃい、お母さん」

「ええ。行ってくるわね」


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